手続
その日、蘭は、蒲大臣と面会していた。
「関係者登録に、私の妻の花を指定したと伺いましたが……」
「はい。蒲 花さんを、指名いたしましたわ」
「えーと、妻は何をさせられるのでしょうか?」
蒲大臣が、怖々聞いてきた。
「何もして貰う予定はないですが、何かして貰わないと登録できませんか?」
むしろ、驚かれた。
「それでは何故、指定を?」
「私も良く分かっておりませんが、蒲大臣はどの程度、延命や、特別治療についてご存じですか?」
「えーと、噂で聞いたことがある程度ですが、奪い取った命を分け与える方法の1つが、延命、欠損箇所の復元……、まさか出来るのですか!?」
「出来るみたいです。復帰された夢見の巫女様の目を回復させましたわ」
「あ、あれ、あれは夜香さんが!?」
「私も、教わりながらでございました。その権利的なものを、何故一般の人に施してはいけないのかと疑問に思い、最終的に、関係者登録をすれば、特定貴族以外にも施せると、教えていただきまして、花さんを指名しましたの」
「関係者登録は、連れ合いを登録するのが通常でして、」
「はい、そう伺っております。私、当分結婚する気はございませんし、特定貴族以外の延命は不可との事で、花さんが存命中の怪我の回復を申し出た次第ですの」
「そういうことですか。大変ありがたく思いますが、非公開にしておいてもよろしいでしょうか?」
「はい。変に狙われても困りますし、非公開が望ましく思いますわ」
「ありがとうございます。妻に代わり感謝いたします」
「あと、身の回りのメンバーの不具合は、私の業務に差し障ると困りますので、適度に調整いたしますわね。うふふ」
「ん? それはどういう意味ですか?」
「いえ、なんでもございませんわ」
助手たちも場合によっては助けると明言したのだ。蒲大臣は、聞かなかったことにしてくれるらしい。
これは、蒲大臣の家族は、大臣本人以外、怪我から守られたも同然で、反対する理由もないし、必要もない。息子を含む助手たちの件も、蘭は伝えたが、聞き返されたときに言い直さなかったことで、大臣は知らなかったと言えるので、不利益はないからもう良いやと考えたのだろう。
「夜香さん、どうか健やかにお過ごしください」
「はい。ありがとう存じます」
蒲大臣が帰ると、心配した蒲 公英が聞きに来た。記録係の助手すら外して貰い、話していたので、相当気になったのだろう。
「先生、父は、何しに来たんですか?」
「書類の不備を、確認にいらしたのよ」
この説明で、間違いではない。
「事務仕事で、父が?」
書類の不備程度なら、本来、秘書や事務の職員が来るべきである。
「貴族関連の急ぎの書類だから、部下には任せられなかったみたいですわね」
「あー、成る程」
それなら仕方ないと納得したらしい。
ちょっとした関係者でも、見ることが出来ない貴族関連の取り決めは、色々あるのだ。
「先生、外に烏が来ています。足に紙を巻いているので、夢見の巫女様からのお手紙ではないかと思うのですが、どうしましょう?」
助手は烏に近寄るのが怖いらしく、蘭に確認に来たのだ。
「私が確認に行きますわ」
蘭が店の外に行くと、烏が近寄ってきた。ちょこんと頭を下げたあと、片足を差し出し、「カー」と鳴いた。
「烏さん、ご苦労様」
蘭は手紙を外し、一欠片の胡桃を烏に渡した。
「カー!」
喜んで食べている間に手紙を読み、返事を書き、再び足にむすんだ。
「烏さん、胡桃を食べ終わったら、お願いね」
「カー」
烏は、食べきる前に残りを咥えて、飛び立っていった。
扉の影から見ていた助手が、蘭のそばに駆け寄ってきた。
「うー、襲われないと分かっていても、大きい烏は怖いです」
「苦手なものは人それぞれだから、無理しなくて良いわ」
そう発言しながら蘭は、烏を怖いと思ったことがないなと思い返した。
「所で、何のご用だったのですか?」
「夢見の巫女さんから、面の用意があるかの確認でしたわ」
「有るんですか?」
「黒猫の面が、屋敷にいくつかあるので、ご心配なさらずにと返しておいたわ」
蘭の発言に、何か思い出したらしい。
「先生が、海外から招かれたときに、黒猫の半面を着けていたって、公英が話してました!」
「そんなこともあったわね」
次の予約客が来て、蘭は店に戻った。フェイスベールをつけ席に着くと、30代に見える男性客の第一声がこれだった。
「夜香先生、お綺麗なんですね」
「え?」
「あ、すみません。不躾でした。初めて素顔を拝見したもので」
「ありがとう存じます。私の写真は、店のパンフレットにもございますので、少し驚きましたの」
「パンフレットとかは、加工写真の人もいるので、あまり信用していませんでした」
加工していなくても、若い頃の写真の可能性もある。
「あら、そういうこともございますの?」
「ええ、お見合いとか、親が来たのか?と思うようなこともありますよ」
「そんなに違いますの?」
「ほとんどの人は、ちゃんとご自分の写真なんですが、加工しすぎて、原型が残っていない人とか、たまにいるんです」
知らない人と出会うための写真であるなら、違いがありすぎると、意味を成さない気がする。
「ま、その話は置いといて、本題を話します。私は隣に店を出す予定をしています。こちらでは、占いと喫茶と伺っています。うちはインテリア雑貨の店なので、競合することはないと思いますので、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
歴史に名を残すような商売人になると語っていた。
どこかの店舗の倉庫だったお隣が、インテリア雑貨の店になるらしい。明日から改装をするため、挨拶に来たようだった。
「こんな町外れにインテリア雑貨の店を開いて、客来るんですかね?」
「不思議ですわね」
蘭は、回りに住宅や店舗がないからこそ、この場を選んだので、確かに不思議な選択だ。この店の付近は、駅回りの店舗の倉庫や、小さい工場などが多く、廃工場もあり、夜は割りと不気味な場所なのだ。少し離れたところに自然公園があるが、そちらの方がよほど人の流れがあり、賑わうと思われる。




