水神
「夜香さん、100年っていくらですか?」
水神から質問された。
「10億9575万円ですわ。買取の基本金額の3倍ですわね」
光の玉の価格を聞かれたのだ。
「あれ? 夢見の巫女様は、5年分で60億支払ったって聞いたけど、何か違うんですか?」
「純粋な光の玉は、この価格です。夢見の巫女様のは、治療を伴うので、約1割増しで、1つ12億円頂きました」
「治療!?」
「私も存じ上げませんでしたが、部位に特化した光の玉を作ると、元有った機能であれば、復元できるようでございます」
「それは凄い。凄いけど、価格も凄い」
老化を戻すのだから、他の部位も戻ると考えれば分かりやすい。
「水神さん、本当主には、なられたのでしょうか?」
見た目が全くかわりなく見える。
「いや、色々準備が複雑で、まだ儀式を行うに至っていないんだよ」
「複雑ですの?」
「分かりやすく言えば、清い水の湧く場所の確保、禁足地が望ましくて、他にも、用意するものが揃えられなくてね」
「何が揃えられないのでございますか?」
手伝えるものならと、蘭は聞いてみた。
「器具や祭具を作れる職人が減っているから、頼んですぐ出来上がるというわけにはいかなくてね」
祭具の製作では手伝う所がない。
「大変なのでございますね」
「夜香さんは、大変ではなかったの?」
「私は、望んで本当主になったわけではございませんので、私は準備をしておりませんの」
「あー、そうでした。思い出させてしまって、ごめんなさい」
蘭は、儀式で大切な人を亡くしている。
「いえ、大丈夫ですわ。もう、30年以上も前ですし」
蘭は、少し遠い目をした。
「宣言しておいて格好悪いんだけど、そんな訳ですぐには無理そうです」
「どうか、ご無理なさらずにお進めくださいね」
「ありがとう」
「ここに居ったか」
夢見の巫女が訪ねてきた。
「いらっしゃいませ」
「今日は、ケーキは無いのかの?」
外の貼り紙を見たのだろう。
「手作りではございませんが、同じレシピのプロが作ったものがございます。先日のお祝いのケーキと同じお店でございます」
「なら、それを全種類持て来てたもれ」
「かしこまりました」
蘭が返事をした頃には、助手がトレーに全種類のケーキを持って後ろに立っていた。いつものことらしい。
「お飲み物はどうされますか?」
「煎茶はあるかの?」
「はい。ご用意いたします」
蘭は返事をしただけで、全て助手が用意してくれた。
「夢見の巫女様、いつもそんなにたくさん食べて、よく太りませんね」
「何を言っておる。妾は頭脳労働ゆえ、カロリーが足りないのじゃ。そなたももっと働くが良い」
女性に不用意な質問をした水神が、夢見の巫女の反撃を食らっていた。
「僕も、もっと働きたいんですが、祭具がまだ出来上がらないんですよ」
しかし、本気の返答をしていた。
「足りない物は何じゃ?」
「新しい神の像と、巫女の鈴と、祭壇と」
「何じゃ、何も無いではないか。以前使ったものは無いのか?」
「そりゃそうですよ。もう、しばらく本当主になる人はいなかったんですから、何も残っていないんですよ」
「成る程の。巫女の鈴は、貸し出しても良いぞ」
「本当ですか!? あれ、儀式の時にしか使わないから、借りられるなら助かります!」
「巫女はどうするのじゃ?」
「今、心当たりを当たっています。血族に女性が少なくて、そろそろ他貴族に声をかけようかと考えていました」
「あれじゃろ? 血族なら年齢は問わないが、他貴族だと、自分より年上に限るじゃろ?」
「え、そうなんですか?」
「なんだ知らぬのか。妾が手伝うか?」
「本当ですか!? ありがとうございます! これで、あと1人探せば済む!」
「その、巫女様とは、何をするのですか?」
蘭が尋ねた。
「簡単に言えば、鈴を振って、神の降臨を後押しするんです」
「私にできるものなら、お手伝いいたしましょうか?」
「良いんですか!? 現本当主2人を巫女様に儀式をするなんて、物凄く豪華!」
「もう神主役も、ホテル王か、観測者を呼ぶと良かろう」
本当に声をかけてみたが、ホテル王からは、成り立てで忙しくて力になれないと断られ、観測者には、業務に差し障ると断られていた。
ちなみに通信方法は、夢見の巫女が烏を呼ぼうとしたので、水神が断り、直接電話をかけたのだ。
「その、通信機を貸すのじゃ」
「あ、はい」
水神が、夢見の巫女にスマートフォンを差し出した。
「観測者よ。儀式の巫女は、妾と、碧眼の黒猫が担当するぞ。来なくて良いのか?」
「なんだって!」
横にいる蘭にまで、電話の向こうの観測者の声が聞こえた。
「そうであろう。では、頼んだ」
夢見の巫女が、スマートフォンを水神に返した。
「あれ、切れてる」
「観測者は、了承済みじゃ」
「夢見の巫女様ありがとうございます。夜香さん、実施日は満月の日なので、決まったら連絡します」
蘭のお店がお休みの日に儀式をするらしいので、蘭は安心した。
コンコンコン。
「先生、フリーのお客様がお見えです」
助手が呼びに来て、蘭は、退席した。




