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命を奪うと言うこと  作者: 葉山麻代
3章 貴族交流

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休息

「とーしゅ、何考えてるの?」

 (らん)が、満月の見える窓辺で考え事をしていると、ノアールが話しかけてきた。


 ホテル王が帰った後、(らん)の元気がないことを、屋敷の皆が心配していた。声をかけても良いものかと、屋敷の皆は悩んでいて、ノアールが呼ばれたのだ。

(わたくし)、今からでも貴族教育を受けるべきなのかしら」

 (らん)の年齢は51歳になる。10~20歳頃に受ける教育を、今さらになって受けるのは、親族がいない(らん)は、講師を探す方が大変そうである。

「なんで、そう思ったの?」

「人を、一般人を助けてはいけないのは、何故ですの?」

 貴族家ではなく、一般家庭で愛情を受けて育った(らん)は、仕事により人の心を無くしていったとしても、育ててもらった記憶ごと無くしたわけではない。面識の無い相手や、敵対する相手なら切り捨てることが出来ても、店の助手たちが危険にさらされるようなことがあれば、助けてしまうだろうと自分でも思っている。ましてや、仲直りできた八仙 花(はっせん はな)((がもう) (はな))が再び危険にさらされるようなことがあれば、回りの反対を押し切ってでも、その命を可能な限り助けるだろうと、自分でも思っている。


「とーしゅ、猫に人の事を聞いても答えようがないよ。でも、キリがないからだと思うよ」

「キリがない?」

「A、B、Cさん一家がいて、Aさんを助けたなら、そのパートナーのBさん、その子供のCさんも助けてくれって言われて、どこまで助ける? とーしゅなら、Aさんの関係者は、皆助けそうだけど、無限じゃないからね。有限の命を誰かから分けて貰わないと出来ないのに、どこで線を引くの?」


 やろうと思えば可能なのに、見殺しにするからこその呼び名「死神」なのだ。過去の当主があまり仕事をしなかったのも、勤勉でないからではなく、助けるための下地を作ることが、助けられない人に対し、心の負担だったのかもしれない。

 (らん)神風(かみかぜ)家で育ち、常に優秀であろうと努力してここまで来た。通常100年かかると言われた碧眼への変化も、32年くらいで果たした(らん)は、無我夢中で走り続けているのだ。


「有限。そうですわね。驕った考えでしたわね。するべきことと、しなくてはいけないことと、したいことが、ごっちゃになっていたみたいですわ。出来ることと、して良いことは、イコールではないのですね」

 (らん)が少し寂しそうな目で、自分に言い聞かせているのを、ノアールは困ったように見ていた。


「どうしても助けたい人って、当主が当主になる前のお友だちでしょ? その人、関係者登録すれば?」

「それは、なんですの?」

「当主、とりあえず結婚する気無いでしょ? 結婚するとき、その人は一般人だから、貴族と同じように助けられるように、関係者として登録するんだよ。そうしないと、家族の優先度が低くなっちゃうでしょ。その人を失ったら心が壊れるような相手なら、家族じゃなくても登録できるよ。但し、寿命の延長は出来ないからね。あくまでも、緊急処置だけ」

「それは、何人まで登録できますの?」

「子供などの血の繋がりがあるなら、人数に制限はないけど、血族外は1人だけ」

「ひとり……」

「良く考えてね」

「ありがとう存じます」


 本来、夫や恋人を登録するためのシステムなのだろう。(らん)は外出しなさすぎて、仕事以外で一般人と関わることが極端に少ない。神風(かみかぜ)家にいた頃も、特に外に行きたいと言う希望はなかったので、大学に行く以外に、ほとんど外出もしなかった。究極のインドア派なのだろう。外の生活は10歳前に嫌と言う程体験したので、無意識で避けているのかもしれない。


「とーしゅ、せっかくお菓子作らないんだから、たまには早く寝てみれば?」

 (らん)には意外な提案だった。でも、今一番良い考えに思える。

「そうですわね。しっかり休むことにいたしましょう」

 起きていられるから起きているが、疲れを取るためにも、猫なんだし寝よう!と、(らん)は、考えを改めた。


「おやすみなさい」

「おやすみー」

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