予言
夢見の巫女から、一般に向けての予言が発表された。難しい言い回しと昔の言葉を使っているが、世界を巻き込む病の流行の予言だった。
デマに騙されない事、買い占めをしない事、手洗いうがいなどの予防をしっかりする事などが、次いで政府から発表された。
「先生、今日から又よろしくお願いいたします」
鳳 仙花が、正式に復帰してきたのだ。
「ええ。よろしくお願いするわね。それにしても、大変な時期に復帰で、手続きが大変だったでしょう?」
「むしろ、後回しにされないように、判だけ押せば良い完璧な書類を提出しました」
「さすが、優秀ですわね」
事務がてんてこまいで、簡単でわかりやすいものから先に対応してくれた結果らしい。
「先生、お店は、何か対策をするのですか?」
「空気清浄機を増やすのと、助手の皆さんにはマスクを推奨するわ」
「マスクは有効なのですか?」
「夢見の巫女さんが直接教えてくださったから、有効だと思うわ」
「それは、凄いですね!」
「最近、貴族の溜まり場になっていてね、昔倉庫だった部屋を皆が片付けてくれて、その部屋を専用に使っているわ」
「はい。事前情報で、倉庫の片付けだけ聞いていました。そういった理由だったのですね」
貴族の話は迂闊に出来ないので、色々省いていったら片付けしか話せなかったらしい。
「あとは、まな板にかかってもそのまま使える除菌用アルコールスプレーがあるので、それでテーブルを拭くことにしました」
「そんな便利なものがあるんですね」
「それでね、除菌や手洗いで、手が荒れるかもしれないから、こまめにハンドクリームを使ってください」
「はい。ありがとうございます」
鳳 仙花は、何事もなかったように、助手たちに溶け込んでいった。さすが優秀だ。
「先生、マスクを自作している人がいるんですけど、こういうの作れますか?」
助手が、画像を見せてきた。
「画像からではサイズが分からないけれど、市販のマスクを参考にすれば、作れると思うわよ」
プリーツマスクではなく、立体マスクを参考に、布製マスクを作ることにした。
「洗濯の時に、漂白剤を入れた水に浸けて殺菌し、必ずアイロンを掛けるようにすれば、衛生的にも問題ないわ」
「使い捨てのマスクより、ゴミが出なくて良いですね」
本来、予備として作ったのだが、市販の使い捨てマスクは売り切れになり、布マスクをメインとして使うようになっていった。
「お店の皆さんがお使いのマスクは、どこのものですか?」
客から質問され、余っている予備も販売した。
「先生、型紙を分けていただけませんか?」
助手から頼まれた。
「お店のマスクですの?」
「はい!」
「足りなければ作りましてよ?」
「お店や身内の分ではなく、知り合いから、いっそ型紙をいくらかで分けて貰って、自分で量産したいそうです」
「それでしたら、型紙のコピーを配布しますので、厚紙に写しとり、お使いになってください。無料で構いませんわ」
「ありがとうございます!」
希望者に、型紙のコピーを配った。
気を付けていても病にかかり、重症化する人が増えてきた頃、水神が蘭を訪ねてきた。
「夜香さん、僕、本当主になろうと思います」
「そうなんですの?」
「その感じは、何も聞いていないのか」
何か、1人で納得したらしく、少し考え込んでいるようだった。
「夜香さんのお屋敷の方、誰も今回の病に罹患していないでしょう?」
「ええ、そうですわね」
「今回の病、純人間しか罹患しないそうです。そして、本当主は人を超越するので、ほとんどの病に罹患しなくなるそうです」
「そうなんですの!?」
記録係の助手も、こちらをガン見するほど驚いていた。
「僕以外も、本当主になる貴族が出ると思います。夜香さん、どうか、頑張ってください」
「ええ、ありがとう存じます」
何を頑張るのだろう?と、蘭は全く分かっていなかった。
「とーしゅ、買取価格を値上げするよ」
水神の話をノアールにすると、値上げを提案された。
「いくらにしますの?」
「1.5倍~2倍くらい。本当主が増えたら、その延命の責任があるのは、碧眼の黒猫。つまり、とーしゅだよ」
「そういうことですの!?」
水神が心配して伝えに来たわけである。
「だから、3倍での引き渡しに設定してあるんだよ」
ブランとノアールとグリで協議して、まずは1.2倍で様子を見ることになった。
世の中の機能が麻痺しており、職にあぶれた者が、100日分程度の寿命を売りに来るという毎日。100万円の予定が、120万円になったと喜ばれた。
屋敷から資金を持ち出し、店に大量に持ってくる毎日。夢見の巫女から60億円を受け取っているので、現金が不足することはないが、蘭は、ほとんど休む暇がなく、かなり疲れていた。合計が同じ量なら、小口をたくさんの方が、断然疲れるのだ。
「しばらく、おやつをお休みしてもよろしいかしら?」
おやつ作りをやめれば、夜中が暇になる。
「今は喫茶も混みませんし、どうしてもと言う客には、その時に寿さんから買ってくればなんとかなります」
「では少しの間、おやつ作りはお休みしますわ」
「先生、ご無理はなさらないでくださいね」
「ありがとう存じます」
店にも張り紙をした。
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◎おしらせ◎
しばらくおやつは手作りではなく、
寿洋菓子店のケーキを使用します。
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少しして、ホテル王が光の玉を求めて蘭の屋敷に来た。
「本来、100年単位なのは理解している。だが、今回に限って、50年を売って貰いたい」
そういえば、占いで見たときの第一段階の寿命が、250年だった。むしろ、100年単位に合わせるためにも、1度50年を渡した方が良い気もする。だが、蘭は判断できないでいた。
「とーしゅ、作れるなら50年作ってみたら良いよ」
蘭が聞く前に、ノアールが答えてくれた。
練習を兼ねて、50年の光の玉を作ってみた。いつもより小さい単位に作るのは以外と面倒で、メモリの無いところで止めるような感覚だった。
「出来ましたわ」
それでも蘭は勘が良いのか、初めてでも作り上げた。
蘭が光の玉を渡すと、ホテル王はブランに説明を聞きながら飲み込んでいた。少しだけ若くなったように見える。30代に見えていたのが、今は20代半ばに見えるようになった。
「身体が軽くなった!」
見た目に伴った体力になったようだ。
「不調はなさそうでございますね。良かったですわ」
すぐには使わない光の玉は買わずに、今回の50年だけにするらしい。他の貴族から求められたら不足するかもしれないと危惧してくれたようだ。
「お気遣いありがとう存じます」
請求された、5億4789万円を現金で支払い、ホテル王は帰っていった。
考えないようにしていたが、今日の事で蘭は気がついてしまった。短い年数の光の玉にさえすれば、誰でも延命出来るのではないかと。




