騒動
「あの、もしかして、かぐつち様ですか?」
喫茶の客が、かぐつちに気がついたらしく、話しかけていた。
「はい。現かぐつちです」
「失礼でなければ、一緒に写真を撮って貰えませんか?」
「構いませんよ」
その場には、蘭、夢見の巫女、水神もいたが、その客の認識できる相手は、かぐつちだけだったようだ。
客は2~3枚の写真を撮り、お礼を言って帰っていった。
「夜香さん、混んできたから、我々は個室に移動しましょうか?」
「ありがとう存じます」
水神の提案で、3人は個室に移った。
蘭は仕事に戻ったが、その後も、かぐつちを訪ねてくる客が数名来たらしい。
受付や記録係の助手がランチで外しても、配膳を担当する助手たちは店に残っている。12時~15時の買い取りの時間だけ、屋敷から連れてきた黒猫たちも受付を担当しているが、なんとノアールも写真を頼まれたそうで、ブランは苦笑いし、ノアールはかなり困っていた。
仕事終わりに、全員に集まってもらった。
「皆さんも、お写真を頼まれることがございますの?」
蘭の質問に、助手たちが答える。
「公英が、よく頼まれてますよ」
蒲 公英は今日来ていないが、女性に人気があるらしい。
「先生の写真もよく頼まれますが、全て断っております」
「ありがとう存じます」
蘭は、初めて聞く情報に少し驚いた。
「本人が率先して写りたいならともかく、基本的にはお断りをお願いします。かぐつちさんの場合も、ご本人が直接頼まれた場合以外お断りなさってください」
ノアールがホッとした顔をしていた。断るのに苦労していたらしい。
蘭も衣装から着替え、帰るため店を出たところで、突進してきた少女を見つけ、蘭はとっさに相手を眠らせた。カッターナイフのような刃物を持っていたのだ。
「なんだか私は刃物で狙われる運命なのかしら?」
蘭の腕には、ぐったりした女性がいる。
「先生、大丈夫なんですか!?」
「とーしゅ、大丈夫?」
「当主、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですわ。こういうの初めてではないですし、とりあえず、この女性はどうしましょう?」
「もう連絡しました。すぐ、人を寄越してくれるそうです」
頼りになる助手たちが、すぐに対応してくれたらしい。
1度戸締まりした店を開け、眠っている女性は、助手が椅子に座らせ、後ろ手に縛って椅子に繋いでおいた。
少し待つと、室長が黒塗りの車で現れた。今日も男装が凛々しい
「夜香さん、ご無事ですか?」
「ええ、私はなんともございませんわ」
すぐに目を覚ました女性は、拘束されていることを知って暴れだした。
「殺してやるんだ! そうすれば戻ってくるはずなんだ!」
蘭は、全ての人から庇われ、室長が女性に質問した。すごくイケメンボイスだ。
「どうしてこうなったのか、答えてくれるかな?」
「あなたは誰?」
室長のイケメンぶりに、おとなしくなった女性の頬が赤くなっている。
「私は、政府の役人だよ」
「政府の?」
「君は、ここがどこだか知らないのかい?」
「どこって、私の彼を誘惑した女がいる店、そう、あの女はどこなの?」
「君の彼は、何歳だい?」
「私と同じ17歳よ」
「この店の店主の年齢を知らないのかい?」
「店主?」
「夜香さん、少しこちらに」
「はい」
蘭が見える場所に行くと、再び暴れだした。
「この女がぁ!!」
しばらく騒いだあと、暴れても椅子から動けないので、少しおとなしくなった。
「私、あなたのお母様と同じくらいか、少し年上でしてよ?」
「はぁ?」
「親子以上に離れた17歳の男性に、全く興味を持てませんわ」
「え? じゃあ、なんで」
「どなたか、腕の拘束を解いて差し上げて」
助手が、縄をほどいた。
「そもそもこの店は、学生も未成年者も立ち入り禁止でしてよ。出会う機会すらございませんわ」
「だって、写真を持ってて、俺の彼女って」
「私、お付き合いしている方はおりませんわ。写真と言うのは、私のプロフィール写真以外、盗撮でしてよ」
盗撮と聞いて、思い当たることがあったらしい。
「確かに、こちらを見ている写真はなかったかも」
「お分かりいただけたかしら?」
相手がうなだれたので、蘭は背を向けてしまった。
バシッ!という音と共に、「ぎゃ!」と、短い悲鳴が聞こえた。慌てて蘭は振り返る。
先程の女性が、椅子の前に倒れ込んでいた。
「何がございましたの?」
室長は、苦笑いして何も答えない。が、一部始終を見ていた助手が、あわわわと狼狽えている。
「教えてくださるかしら?」
「はい。先生が後ろを向いたとたん、刃物を構えて立ち上がったんです、そして先生に飛びかかろうとしたところで、政府の方が、電撃魔法みたいな攻撃を!!」
どういうこと? と皆が思っていた。
「とーしゅ、この人、赤の雷だよ」
「え、そうなのでございますか!?」
ノアールは、気がついていたらしい。助手共々、蘭も驚いた。
ほぼ非公表の貴族、誰に聞いても会ったことがないと言っていたが、良く考えると、貴族の集まりに2回とも居た。紹介されたのは屋敷に来たときだが、そのときに黒猫たちは気がついたらしい。
「黒猫さんたちにバレていたなら、仕方ないですね。改めまして。私、赤の雷です。政府の役人もやっております」
「ご存じの方もいらしたのでしょうか?」
「観測者と夢見の巫女様はご存じです。夜香さん、本当に、無断では見ないのですね」
「キリがございませんからね。それよりも、助けてくださり、ありがとう存じます」
蘭を助けるために、隠していた正体が知れてしまったのだ。
「皆さん、今見た事は、ご内聞願います」
蘭は、助手たちに声をかけた。
「はい!勿論です!」
助手たちが了承した。
「夜香さん、ありがとう」
「いえ、こちらこそ、ありがとう存じます」
倒れた女性は、室長としての部下たちが、担架に載せ回収していった。軽い電気ショックなので、そのうち目覚めるそうだ。罪状としては軽くなく、2度にわたる殺人未遂と、貴族への反逆罪と、公務執行妨害らしい。蘭が許しても、見ていた人が多すぎて、軽くても少年院送致だろうと言っていた。




