連絡
蘭が出勤してくると、店の前には烏が待っていた。
「カー!」
「あら、あなたは夢見の巫女さんのお使いかしら?」
ちょこんと頭を下げた烏は、足に文が巻いてあるらしく、片足を差し出してきた。蘭は足にある文を解き、折ってある紙を広げ、中身を読んでみた。
喫茶に、席の予約を取りたいという内容だった。すぐに助手に話すと、別室を用意したので、8人までならいつでも良いです。と話していた。詰めて座れば10人でも座れる。
蘭は、飛ぶ負担にならないようにと薄目の紙に返事を書き、烏の足に文を巻いた。
「烏さん、お願いします」
「カー!」
烏はすぐに羽ばたいていった。
「なんという連絡手段」
助手が2人、様子を見に来たらしい。
「携帯電話という概念はないんですかね?」
携帯電話どころか、固定電話も怪しい。
「私も、携帯電話は持っておりませんわ」
蘭は、常に回りに人がいるので、電話は必要がないのだ。
「政府の記録によると、夢見の巫女様は、100年以上前に眠りについたらしいから、文明の利器は無理かもしれませんね。大正時代だし」
電話って、能力に影響があるのかしら? と、蘭は考えていた。
「でも、先日お越しになったときは、先生より若く見えました。なんか、凄いですね」
若返った力の源は、蘭が提供したので、そこは驚かないが、現代風にイメージチェンジしていたことは、蘭も驚いたばかりだ。
「で、何しに来るんですか? 何か小規模な会合とかですか?」
「夢見の巫女様の復帰記念らしいわ」
「え、それ、ここでするんですか? どこか借りて大々的にしないんですか!?」
「するのかもしれないけど、ここでは小規模に祝いたいのかしらね?」
実のところ、政府主催のパーティーは、本人は場所を固定され、知らない人からの挨拶ばかりで動けず、美味しそうな料理も食べられず、ろくに楽しめないので、自由な状態の知り合いだけの会を開きたかったのだ。
なんとすぐに烏が飛んできて、次の手紙を持って来た。
椅子は壁際に置き、中央のテーブルに小型ケーキと軽食を配置して欲しいという内容だった。12~15人を予定しているらしい。
「どうしましょ。サンドイッチとかで良いのかしら?」
「ミニお握りとかも、軽食に良いですよ! お手伝いいたしますか?」
「ありがとう存じます」
「すぐ近くにいるんですかね?」
「返信早いですわね」
実は、先日猫を助けた近隣の自然公園から烏を飛ばしているのだった。あの公園は、夢見の巫女の烏たちの待機場所らしい。
手紙で了解を返し、1週間後に決まった。
助手に案を出してもらったミニお握りと、唐揚げと、各種サンドイッチの他、冷製茶碗蒸しと、ビシソワーズを蘭が用意した。小型ケーキは残ったら持ち帰るだろうと予想し、寿 一に、12種類を30個ずつ注文した。持ち帰り用の箱もお願いし、準備万端だ。
蘭と違い、持ち帰りを前提に作ってあるので、取り分けやすく、色々な種類の持ち帰りできる容器に入っていた。
「これ、良いわね」
「容器ですか?」
「ええ」
助手もセッティングを手伝っていて、蘭に提案してきた。
「先生、客が来るまで、先生もこちらに参加されてはいかがですか? フリーの客が来たら声をかけますので」
「あら、よろしいんですの?」
「夢見の巫女様の発案なら、きっと今日は客が少ない日なんじゃないかって思います」
蘭も成る程と思い、助手の提案に乗ることにした。
9時前に、水神が訪ねてきた。
「何かお手伝いがあるかと思って、少し早く来ました」
予定開始時刻は、9時半なのだ。
「ありがとう存じます。もうほとんど終わりましたので、初めて来る方をご案内していただけますでしょうか?」
蘭が面識のない相手を案内してくれるのが、1番役に立つということだ。2人ほど、蘭が会ったことの無い人物がいる。前かぐつちと、次期動物の耳だ。蛇使いとスパイダーは、たくさん貴族が会いに来ていた時期に挨拶に来ている。
「任せてください!」
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参加者一覧
翠眼の女王 ・本当主
女性 推定80歳 翡翠色の瞳 サングラス
夢見の巫女 ・本当主【復帰】
女性 推定300歳 15~16歳の見た目
観測者 ・本当主
男性 年齢非公開 秘密主義 見た目30~40代
ホテル王 ・本当主
男性 推定75歳 30代の見た目
巫女守り ・仮当主(代理当主)
男性 推定98歳 白ひげ【期間満了引退】
水神 ・仮当主
男性 推定40歳 細マッチョ
かぐつち ・仮当主
男性 推定18歳 耐火サングラス
かぐつち ・仮当主(前当主)
男性 推定68歳 元消防士【引退】
動物の耳 ・仮当主
男性 推定72歳 人を振り回す 白猫連れ
動物の耳 ・仮当主(次期当主)
男性 推定24歳 ニット帽
闇の帝王 ・仮当主
男性 推定38歳 派手な服 芝居掛かった挨拶
スパイダー ・仮当主
女性 推定60歳 30代の見た目
蛇使い ・仮当主
女性 推定32歳 縦長の瞳孔 サングラス
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ここに、蘭と、内閣調査室の室長が参加予定だ。この一覧は、室長が作ってくれたらしい。
水神は一覧を見ながら笑っていた。蘭がわかりやすいように気を配って書かれたと思われる特徴の記述が面白かったらしい。
「これ、もしかして、書いた人の私見かな」
「私がお目に掛かったことがない方は、お二人なので、68歳と24歳の方なら、見分けられるものと思われますわ」
「僕は、この表に有る方はお会いしたことがありますけど、翼有る者さんとか、赤の雷さんは、姿すら見かけたことがないです」
「そのお二方は、私も、お会いしておりませんわ」
「レアキャラなんでしょうね」
「観測者さんに伺えば、教えてくださるのかしら?」
「あの人、秘密主義だからどうかなぁ?」
蘭の質問に答えたのは、かなりまれな例だったらしい。貴族たちをどうやって把握しているかを教えてもらった話をすると、水神が驚いていた。
あの時の蘭が、あまりにも何も知らなすぎて、気の毒に思ったのかもしれない。
開始前にはほとんど揃い、遅れているのは来たことがあるメンバーなので、蘭も水神も部屋に入った。
「碧眼の黒猫殿、恩に着る。料理は誰が作ったのかね?」
「軽食は、私が作りましたの。お菓子は、持ち帰ることが出来るように、プロに依頼しましたわ」
「成る程。小型の菓子は、良いな」
小さければ、目移りしてもたくさん種類が食べられる。
「この、冷たい茶碗蒸し、さっぱり食べられて良いですね!」
「昔、この茶碗蒸しが好きすぎて、最初に作り方を教わったものですわ」
「碧眼の黒猫さんって、お料理もできるんですねぇ。羨ましいわぁ」
「ありがとう存じます」
全く助手が呼びに来ないので、お店は暇なのかと思っていたら、多数の問い合わせや喫茶は混んでいて、助手たちは、とても忙しかったらしい。
12時過ぎに蘭は退席し、夢見の巫女の復活パーティーは、13時にお開きになった。皆、とても楽しんでくれたらしく、個人的にまた来ますと言って帰っていった。
夢見の巫女や水神が蘭のところに入り浸るのは、他では店から警戒され、迷惑をかけてしまうので、なかなか喫茶を楽しむ機会がなく、本当に心の底から楽しかったそうだ。別室を用意したので、いつ来ても大丈夫と伝えると、皆が個人的に来ると宣言していて、助手たちが少し青くなっていた。




