表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命を奪うと言うこと  作者: 葉山麻代
1章 ヒヤシンス
5/62

誘拐

 ある日、八仙 花(はっせん はな)の母親から電話があった。

「うちの娘が泊まりに行ったりはしていないでしようか?」

 もちろん来ていないので、来ていませんと答えたが、それきり八仙 花(はっせん はな)は行方不明になった。


 八仙(はっせん)家に顔を出し、まだ戻らないことを聞く毎日。


 講義に出ると、声をかけられた。

神風(かみかぜ)さん、ちょっと良いかしら?」

 それは、(らん)の知らない女性徒だった。


八仙 花(はっせん はな)さんのお友だちですよね?」

「そうですわね」

「あの、私、聞かれたんです。『神風 信子(かみかぜ のぶこ)と仲が良いのは誰だ?』って」

「なんですって」

「私は本当に知らなかったので、知らないと答えたんですが、何人か聞かれた子がいるみたいで」

「どのような相手でしたの?」

「んー、あなたを若くしたような見た目の、中学生くらいの女の子をつれた、目付きと香水のきつい40~50代の女性でした」

「情報をありがとうございます」

「早く見つかるよう、私も願っています」

「ありがとうございます」


 これはどう聞いても、(らん)を追い出した親戚の女だ。連れていた中学生の女の子は、実妹の夜香 凛(やこう りん)だろう。


 その数日後、八仙 花(はっせん はな)が発見されたらしいと噂に聞いた。急いで八仙(はっせん)家に伺ったが、父親が対応し、面会を拒否された。それは、断られたなどというものではなく、明確な拒否拒絶だった。


「どうして」

 途方にくれて、そばにある公園の椅子に座っていると、八仙(はっせん)家の奥さんが、お婆さんを連れ、歩いてきた。


八仙(はっせん)さん、神風(かみかぜ)です。(はな)さんはご無事なのですか?」

 (らん)が声をかけたとたん、連れていたお婆さんが悲鳴を上げた。

「嫌ー、来ないでー!」

 その声は少し枯れているものの、八仙 花(はっせん はな)の声だった。

「あなた、なぜここにいるの! 早く視界から消えてちょうだい!!」

 何が起こったかさえわからず、奥さんに追い払われた。


 呆然としたまま家に帰り、リビングのソファーに、うつ伏せで倒れ込んだ。


「あら、(らん)さん、どうしたの? リビングで寝てるなんて珍しいわね」

 声をかけてきたのは、(にしき)百合(ゆり)だった。

百合(ゆり)さん、私、私、」

 (らん)が泣き出し、泣いたところなど見たことがない百合(ゆり)は慌てた。

「え、え、どうしたのよ! (らん)さん!」


(にしき)っち、どしたのー?」

 百合(ゆり)の慌てる声が聞こえ、社長の神風 龍一(かみかぜ りゅういち)が、リビングにきた。すると、(らん)が泣いているではないか!


(らん)どうしたんだ? 学校で苛められたのか?」

(はな)さんが発見されたらしいって聞いて、八仙(はっせん)家に伺ったら面会を拒絶されて、困ってそばの公園にいたら、奥さんを見かけて声をかけたら、一緒にいたお婆さんが発狂されて、でも声が、(はな)さんで、奥さんに追い払われて、私、何がなんだか」

 (らん)の話を聞いた神風 龍一(かみかぜ りゅういち)は、少し考えてから話し始めた。

(らん)、これは言うまいと思っていたんだが、夜香(やこう)家には良くない噂があるのは知っているとは思うが、この話は眉唾物だと考えていたんだが、当主は生命エネルギーの受け渡しが出来るって、噂があってな。妹さんが居るんだろ? (らん)と似ているんだろ? 成長した姿で(はな)君の前に出て、そして、(はな)君の生命エネルギーを奪ったんじゃないか?」

「なんてことを」


 荒唐無稽すぎて信じがたいが、この状況を説明するには、辻褄が合いすぎている。


 コンコンコン。

「旦那様、(とび)さんからお電話です」

「こっちに回してくれ」

 飛 信子(とび のぶこ)は、休暇中だ。


「はい。お電話代わりました。神風(かみかぜ)です」


「なんだってー!」


「お大事になさってください」

 神風 龍一(かみかぜ りゅういち)が電話を切った。

「社長、なんだったんですか?」

(とび)君も襲われたらしい。幸い通行人が通報してくれて軽度らしいが、それでもげっそりと痩せたように見えるそうだ。ご主人から休みの連絡だった。(にしき)君、君も充分気を付けてくれ」


 バタン。

 (らん)が、座っていたソファーから落ち、(ゆか)に倒れ込んだ。

(らん)さん、(らん)さん」

(らん)、大丈夫か(らん)!」


 遠くなる意識の中で、名前を呼ばれているのが聞こえていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ