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命を奪うと言うこと  作者: 葉山麻代
3章 貴族交流

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近所

「今日は、報告と許可を頂きに参りました」

 先日、(らん)からレシピを譲り受けた寿(ことぶき)(はじめ)だった。開店のかなり前から待っていたようで、店に到着した(らん)が、開店準備の終わった店内に呼んだのだ。


「先日は、本当にありがとうございました。お陰様で親孝行が出来ました。こう言ってはあれですが、今にも死にそうだった母が、ケーキ屋を始めると言って、甦りました」

 何か思い出したのか、苦笑しながら話していた。

「御母様がお元気になられたのなら、良かったですわ。ケーキ屋さんを始められますの?」

「はい。それで、あのレシピで店を始めるに当たって、今度こそ、お支払のご相談に参りました。売り上げの何%をお支払すれば、よろしいでしょうか?」

「えーと、(わたくし)も教わったレシピですので、本来の持ち主はあなたのお父様かと思うのですが」

「そうかもしれませんが、私は父から教わる機会がありませんでしたので、やはり、夜香(やこう)さんの物です」

 根が真面目なようで、どうしてもきっちりしたいらしい。


「少し話が逸れますが、ケーキ屋さんは、どちらで営業されるのですか?」

「まだ最終的には決まっていませんが、隣町か、隣の市か、その辺りです」

「もし可能なら、この店のそばには無理でしょうか?」

「え、この町は住まいがあるので、むしろありがたいのですが、同じレシピのケーキ屋がそばに有ったら、迷惑になりませんか?」

 普通なら、そう考える。

「これは、こちらの勝手ではございますが、持ち帰り希望の要望の多さに、困り果てておりまして、もしお近くで開店なさるのなら、持ち帰り希望の対応をして頂けると助かるのです」

「既についている客まで斡旋してくださるのですか!?」

 相手から見れば、そうかもしれない。

(わたくし)は、さすがに全て対応する量のお菓子を作る時間はございませんので、本業にきちんと取り組みたいのです」

「あ、そういえば、喫茶は本業ではないのでしたね」

 そう、ここは占いの店である。

「なんだか都合が良すぎてドキドキしちゃいますけど、それで夜香(やこう)さんが助かるというなら、すぐそばに開店することにします。自宅はここからすぐそばなので、店舗を借りずに済むなら、ありがたい限りです」

 それなら、(らん)は、かなり助かる。


「助かりますわ。出所についてもめる人までいて、いっそやめようかと考えておりましたの」

「ええー! なんでもめるんですか?」

 少し怖々と尋ねてきた。

「どこかから仕入れているなら、仕入れ先を教えて欲しいということらしいですわ」

 納得した表情で、頷いていた。

「まあ、確かに、夜中に作っていますと言われても、信じられない人は多いですよね」

「本当の事ですのに、失礼ですわよね」

 (らん)が笑うと、(はじめ)もつられて笑った。


「お店の開店が決まりましたら、教えてくださいませ」

「はい。自宅は元々店舗だったので、掃除と冷蔵ショーウインドーの搬入などが終われば開店できる予定です」

 過去に、簡単な和菓子と赤飯とおこわの他、生物の入らない寿司を売っていたことがあるらしい。(干瓢巻きや稲荷寿司など)

 住所を尋ねると、本当にご近所だった。歩いて5分くらいである。

 開店の時間が迫り、寿(ことぶき)(はじめ)は帰っていった。


「先生! これで持ち帰り客を即座に断れますね!」

「ご面倒をお掛けいたしました」

 一番大変だったのは、助手たちだったのだ。断りきれない場合のみ、(らん)まで話が来ていたが、それですら結構な数だった。

「先生、レシピが同じなら、同じ味になるんですか?」

「器具や材料の差は出ると思いますが、むしろ、本職の方が作ったものの方が美味しいでしょうね」

「成る程。開店したら、食べ比べてみようかな」


 早速、持ち帰り希望の客が来て、「近日中に同じレシピのケーキ屋が徒歩圏内に開店します!」と、笑顔で断っていた。「あ、いや、今持ち帰りたいんだけど、」と、ゴニョゴニョ言っていたが、輝く笑顔を向け、「ご来店ありがとうございました!」と、店外へ送り出していた。

 (らん)を含め、他の助手も皆が少し呆気に取られ、客が帰ってから笑いだした。



 2週間後、無事オープンしたケーキ屋に、店と(らん)から開店祝いの大きな花が2つ届けられ、この店が同じレシピであると世間にも認識された。

 助手たちも、開店祝いにと全種類買ってきて、昼休憩の時に楽しそうに食べていた。

「先生、これ、作れますか?」

「どちらかしら?」

「この、青いゼリーです。夏の夜空って名前でした」

「材料的に、すぐは無理ですけど、作れましてよ」

「これ、何で色つけてるんですか?」

「確か、蝶豆の花ですわ。その黄色い星形は、マンゴーではなくて?」

 パクッと食べた。

「本当だぁ。こっちの白い星はなんだろう?」

「白桃か、洋梨ですわね」

「先生、良く覚えてますね」

「細かい配合はともかく、入っているものくらいは覚えてましてよ」


 エナジードレイン希望の客が来なければ(らん)も暇なので、ケーキを食べる助手たちを眺めながら、お茶を飲んでいる。

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