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命を奪うと言うこと  作者: 葉山麻代
3章 貴族交流

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45/62

営業

 ある日、占いの客から(らん)は、聞かれた。

「あの、お店のケーキは、持ち帰りはしていないんですか?」

「申し訳ございません。(わたくし)が夜中に作っていますので、数が作れませんの」

「え! 本当に作ってたんですね。どこかに委託したりしないんですか?」

 そんなことは思い付きもしなかった。

「お店のスタッフのおやつにと作りはじめたのを、お店で出したらどうかと助言されまして、(わたくし)1人で作っておりますので、増産は無理ですし、委託先も心当たりがございませんの」

「そうなんですか。残念だなぁ。未成年者立ち入り禁止らしいから、姪っ子に食べさせたかったんですけど、仕方ないかぁ」

 その客は、すぐに諦めてくれたが、結構しつこく粘る人もいた。


「先生、どこかの有名企業らしき人が、営業に来ています。話を聞きますか?」

 助手からの形容で、面倒臭い相手だと伝わる。

「予約枠が空いているなら、お通ししてください」

 わざわざ確認に来たのは、よほど粘られたのだろう。


「はじめまして。わたくし、○○社の牛酪(ぎゅうらく)と申します。本日は、こちらでお使いの商材について、ご提案をお持ちしました」

 なんだかわかりにくい言い回しをしているが、要は、話題になっているケーキの出所と交渉したいらしい。40代の男性営業マンのようだ。

(わたくし)は、夜香 蘭(やこう らん)ですわ。商材とは、お菓子のことですの?」

「はい。どちらから仕入れているのですか?」

「この占いの館でお出ししているお菓子は、(わたくし)の手作りでしてよ」

「は?」

 顔を歪ませていた。

「営業時間のあと、自宅で作っていますのよ」

「え?」

 眉を寄せて怪訝な顔をしていた。

「スタッフの何人かは、作っているところも見ていますので、確認なさるとよろしいですわ」

「9時~18時までここで仕事をしたあとに、作っている? 毎日? 嘘言っちゃいかん! そんなこと毎日出来るわけ無いだろ! 大人をからかっちゃいかんよ!」

 店の営業形態くらいは調べたらしい。

「ふふ、牛酪(ぎゅうらく)さんとおっしゃいましたか? 恐らく、(わたくし)の方が年上でしてよ」

「はぁ? 何言ってんだ? 目しか見えていないとはいえ、どう見ても20代だろう?」

 完全に(らん)を下に見て、なめ腐った態度で接してきた。(らん)は、さっとこの営業マンの人生を見てみた。どうやら、権威に弱く、特に貴族を怖がっているらしい。それなら威光を使いましょうと、(らん)は思ったのだ。


(わたくし)が何者だか、御存知ないようですわね。政府要人に登録されている、夜香 蘭(やこう らん)で、お調べになると良いですわ」

 (らん)に言われ、渋々手持ちのノートパソコンで著名人を調べていた。そして、貴族名鑑を載せているページで(らん)の名前と写真を見つけ、目を見開いて驚いた後、段々顔が青くなっていった。


 ━━━━━━━━━━━━━━

 貴族名鑑 No.2 夜香家


(全身の写真・上半身の写真)


 通 称・碧眼の黒猫

 区 分・本当主

 氏 名・夜香 蘭(やこう らん)

 性 別・女性

 年 齢・推定51歳

 能 力・占い、命の買取り

     [ヒヤシンス]という名前の占い館を運営

 特 徴・見た目は20歳くらいに見える、黒髪

 特 技・料理、お菓子作り

 蔑 称・死神

 危険度・Level MAX

 ━━━━━━━━━━━━━━


「き、貴族、しかも死神」

「理解できたのでしたら、どうぞ、お帰りください」

 (らん)が妖しく微笑むと、腰を抜かしたのか、這いずりながら慌てて部屋を出ていった。


「許せん!」

 (らん)の後ろにいた記録係の声だった。

「どうなさったの?」

「先生のこと、よく知りもしないで、失礼なことばかり言って、謝りもしなかった」

「怒ったら、同じレベルになってしまうわよ?」

 (らん)は、優しく微笑んだ。

「先生は、悔しくないんですか?」

「侮られたこと? 死神って言われたこと?」

「どちらもです」

 なんだか泣きそうな表情の助手が、(らん)は気の毒になった。

「少し意地悪してしまったわ。うふふ」

 相手が恐怖するように的確に誘導したのだ。

「あ、あれ、意地悪だったんですね。そういえば、腰抜かしてたか」

 少し溜飲が下がったらしい。


「先生、大丈夫でしたか?」

 受付からも、心配してこちらの様子を見に来た。

「大丈夫ですわ。それにしても、(わたくし)の名前を聞いてもわからない方が結構いらっしゃるのね」

 闇カジノの時は、結構な人数が即反応していたのだ。人種の差なのだろうか。


「義務教育で習わないですしね。貴族に失礼な態度を取ってはいけません。程度です」

「そうなんですの? (わたくし)義務教育とやらを学校で受けておりませんので、家庭教師から教わった常識しか存じ上げませんわ」

「先生、該当の会社には、政府から正式に苦情を入れておきます」

「オーバーキルですわね」

 本来監視のために来ているメンバーから、(らん)は大事にされている。


 その後も、ケーキの持ち帰り販売について尋ねて来る人は多かった。

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