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命を奪うと言うこと  作者: 葉山麻代
3章 貴族交流

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検査

 お店の待合室で、紅茶、コーヒー、本日のお菓子を出すことになり、屋敷に保健所の検査が来た。注意を受けたのは、手を洗う場所に、逆性石鹸を備え付け、普通の手荒いと共に2度洗いするようにしてくださいと言われた事だった。

 設備としては用意があったが、普通の手洗い用液体石鹸しか置いていなかったのだ。


「当主、予定どおり、すぐに許可が出ましたね」

「ひと安心ですわ」

「それで、いつからお菓子を出すのですか?」

「営業許可的なものは、助手の方たちが既に取得してくれたそうですわ。調理師免許をお持ちの方が、なぜか3人いらっしゃるそうよ」

「使わないのにお持ちなんですか?」

「学生の頃に、取れるだけの資格を全て取得するのが友人間で流行っていたらしく、他にも使わない資格をたくさんお持ちらしいわ」

「それは、なんとも」

 ブランが苦笑しながらも、ありがたいことですね。と呟いていた。(らん)が衛生責任者にならなくても良いらしい。


「早速、明日持っていく予定のお菓子を作りましょうか」

「何かお手伝いいたしますか?」

 ブランが手伝ってくれるらしい。

「ありがとう。そこにある国産オレンジを、良く洗ってから5mm幅にスライスしてくださいます?」

「あー、料理担当にバトンタッチします」

 もっと簡単な手伝いがしたかったらしく、用事を思い出したと言って、逃げていった。



 翌日、金木犀(きんもくせい)のムースと、オレンジピールを混ぜ込んだバターケーキに、5mm幅スライスを6等分したオレンジのシロップ煮をチョコレートでコーティングして飾り、占いの館に持っていった。


「うわー! なんかレベルが上がった!」

 バターケーキだけだと地味かと思い、飾りをつけてみたのだ。見映えが良くなったようで、助手の反応に、(らん)は安堵した。

「皆さん、開店前にお召し上がりになったらよろしいですわ」

「先生、値段はどうしますか? 近隣の相場だと、ケーキセットは1200~2000円くらいです」

 市場調査も済んでいるらしい。

「限定30セットということになさって、500円か1000円くらいでよろしくてよ」

 なんと、仕事が休みの日に食べに来ようと、助手たちが話していた。


「先生は、いくつ作ってくるんですか?」

「皆さんのおやつと来客用で、10個と考えていますの。1種類40個ほど、持ち込む予定でしてよ」

 屋敷から連れてくるのは2~3人、受付に1~2人、記録係が1人、配膳係が2~3人、来客用として2~3人分と(らん)は考えた。

「俺たちの分も、確保されてる!?」

「あら、必要ございませんでしたかしら?」

「いえいえ、ありがとうございます! 是非、絶対食べたいです」


 助手の1人が案内を外に貼ったらしく、ケーキセットだけを求めてくる客も来ていた。


 午前中の最後に、5分で良いから話したいと申し出る客がいた。金木犀のムースのケーキセットを食べたあと、何か悩んでいる様子だったらしい。そして、「このお菓子を作った男性を紹介してください」と交渉してきたそうだ。

 ケーキについてと聞いていた(らん)は、てっきり若い女性かと思っていた。なんと、50歳くらいに見える男性だった。


「あの、無理を言って済みません」

「ケーキについて、何かおっしゃりたいことがあるとうかがいましたが」

「はい。あの、このケーキをどこで習ったか、教えてもらえませんか?」

「どこで。(わたくし)が学生の頃、そうですわね、30~40年前になりますけど、当時お世話になっていたお屋敷の料理人から習いましたわ」

「そのお屋敷って、神風(かみかぜ)様のお屋敷ではないですか?」

「あら、あなた、神風 龍一(かみかぜ りゅういち)さんをご存知ですの?」

「直接会った事はないんですけど、父が料理人で、今から30年くらい前、勤めていました」

「もしかして、寿(ことぶき)さんの息子さんですの?」

「はい! そうです。僕は、寿(ことぶき) (はじめ)です。やはり、父をご存知なのですね!」

(わたくし)は、夜香 蘭(やこう らん)ですわ。お父様は、息災ですの?」

 (らん)に、料理やお菓子作りを教えてくれた恩人だ。

「残念ながら、行方不明です」

「そうなのですか!?」

「父は、修行の旅に出たままなので、生きているか死んでいるか、わかりません。それはもう良いのですが、高齢の母が、昔、父が作ってくれたお菓子を食べたいと言うことがあって、もし、レシピを教えても良いものがありましたら、いくらかお支払しますので、教えていただけませんでしょうか?」

 神風 龍一(かみかぜ りゅういち)が亡くなったあと、修行に出てしまったらしい。(らん)は、責任を感じた。

「お教えしましたら、作れるのですか?」

「はい。一応、料理人です」

 レシピだけ渡せば、なんとかなるかもしれない。

「今日は、お時間ございますの?」

「はい。今日は休みなので、食べ歩いていました」

 こんなところにも店があったのかと寄ってみたらしい。

「18時に営業終了しましたら、帰りますので、その時ご同行願えますでしょうか?」

「良いのですか!? 18時に又来れば良いですか?」

「はい。帰りは、最寄りの駅までお送りいたしますわ」

「ありがとうございます! 18時に又うかがいます」



 そして、帰る車に同乗し、夜香(やこう)家の屋敷まで来た。

 入口で屋敷の者に引き継ぎ、(らん)は外出着を室内着に着替えてきた。

「お待たせいたしました」

「あ、これは、お邪魔しております。私は、寿(ことぶき)(はじめ)と申します。今日は、レシピを教わりに参りました。えーと、お母様と声がそっくりでいらっしゃいますね」

 なんだか、変な挨拶をはじめた。

「母を御存知なのですか?」

 (らん)は、相手の言っていることが良くわからず、聞き返した。

「えーと、夜香 蘭(やこう らん)さんのお嬢さんなのではないのですか?」

「あー。(わたくし)が、夜香 蘭(やこう らん)ですわ」

「え?」

 フェイスベールをした(らん)しか認識がなく、帰りの車では外が薄暗かったので、顔を良く認識していなかったらしい。


「父からお菓子を習ったんですよね?」

「ええ、30~40年くらい前ですわね」

「私の娘よりもお若く見えます。失礼なことを申してしまい、大変申し訳ございません」

 この男性は、夜香(やこう)家の事を、何も知らないらしい。

「問題ありませんわ。こちら、レシピのコピーですの。料理の物も混ざっておりますけど、こちらで全てですわ」

 屋敷に電話して、ノートのコピーを取っておいてもらったのだ。

「え、良いのですか!?」

「ええ、御母様に笑顔をプレゼントなさってくださいね」

「ありがとうございます!」


 (らん)は、これからお菓子を作ると説明した。


 この(らん)の行いが、いずれ(らん)を助けることになろうとは、この時点では誰も思わなかった。

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