寝巻
「当主!!」
「どうしたの? 何かあったの?」
廊下ですれ違った屋敷の者が、慌てて蘭に報告してきた。
「当主の目が、青く見えます!」
「え?」
蘭は慌てて鏡のある場所へ行き、鏡を見てみた。廊下の曲がり角に、鏡があるのだ。
正面から普通に見てもあまり変わりなく見えるが、角度によって、青く見えるときがある。
「うわー! 素敵ですわぁ!」
「あれ? 慌てて駆けつけたけど、問題なさそう?」
自由な黒猫のノアールが、報告を受けて駆けつけてくれたらしい。
「問題がございますの?」
むしろ、慌てて駆けつけてきたことを、蘭が不思議そうにしている。
「変化を驚いたり、怖がったりしないの?」
「そうですわねぇ、変化は驚きますけど、いずれ変わると教えていただきましたし、楽しみにしていますのよ」
蘭が楽しそうに笑った。
「とーしゅ、強いね」
「ありがとう存じます」
人生において、辛いことをたくさん経験した蘭は、後悔するくらいなら、何事も前向きに取り組もうと考えている。
「完全に目が青く変わったら、力が解放されると思うよ」
「そうなんですの?」
「うん。実際に見てきた訳じゃないけど、碧眼の黒猫に、完全に覚醒する時期はバラバラで、遅くとも100年って感じらしいよ。とーしゅ、最速かもね」
「覚醒には、どのような決まり事があるのかしらね」
「んー、他人の人生を見た数かなぁ? たぶん、働きすぎだよ」
「え、そうなんですの?」
「だって、猫だよ? とーしゅ、猫知ってる?」
こんなところにも、貴族教育を受けなかった影響があったようだ。確かに猫といえば、寝ている姿を良く見かける。そして、蘭はハッとした。
「もしかして、私皆さんを働かせ過ぎですわね?」
「あー、それは大丈夫。当主のそばにいると、比喩とかじゃなく、元気になるから」
「本当に無理していませんの?」
「そんな嘘はつかないよ。大丈夫じゃないのに大丈夫って言うのは人間だけだよ」
「それでしたら良かったですわ」
「とーしゅ、気になるなら、皆にも服作ってよ」
お店の制服を3着作ってもらったため、皆から羨ましがられているのだ。
「勿論ですわ! 早速皆に好みを聞きましょう」
スーツなどの本格的な洋裁は無理であるが、カジュアルな服を何か1~2着、希望通りに作ると約束した。
なんと一番多かった要望はパジャマで、次が、添い寝用のぬいぐるみだった。寝ていることが一番時間が長いので、寝ている時に使うものが良いらしい。夏用のサッカー生地やリップル生地、冬用のフランネル、通年使いやすい絹を用意した。
なんとパジャマ希望者の皆がサッカー生地を指定し、色々な柄の木綿素材のサッカー生地で作ることになった。お店の制服とは違い、胸ポケットに名前を入れ、屋敷の皆のパジャマや、ぬいぐるみを作ったのだった。
「当主、ありがとうございます」
「ありがとうございます!!!」
並んだ全員からお礼を言われた。
「喜んで貰えて良かったわ」
「これで、安心してお店に行けるー」
ノアールが、感想を漏らしていた。
「ところで、あなたはパジャマは要らないんですの?」
「指導係のブランも断ったでしょ?」
どうやら、屋敷の皆に遠慮しているらしい。
「お店の制服は仕事着ですけど、今回の寝巻き類は、私からの感謝ですのよ」
「せっかく当主が作ってくださるのだから、頂いたらよろしいかと」
爺やのグリが、ノアールに助言していた。
「ブラン、どうする?」
「私は、ノアール様に合せます」
二人に決めさせたら、永遠に決まらなそうと蘭は思った。
「皆には又何か作るから、あなたたち2人分も作りましょう」
「とーしゅ、ありがとう!」
「ありがとうございます」
希望を聞いて、ノアールとブランのパジャマも作ることになった。
洗い替えが出来るようにと2着ずつ作ったが、皆の意見としては、何か1つでも作って貰えれば良かったらしく、ノアールやブランが制服を3着持っていることは、割りとどうでも良いようだった。
ちなみにぬいぐるみの希望は、大きな魚を冷感素材で作ったものと、スマイルカット(変形くし切り)したオレンジに見える大きなものだった。




