動物
猫を連れたまま話したいと言っていると、受付から報告が来た。
「構わなくてよ」
蘭が許可したので、猫を抱いたままの高齢の男性が、部屋に入ってきた。
「お初にお目にかかります。動物の耳、仮当主です」
「碧眼の黒猫、夜香 蘭ですわ」
「動物の事でお困りはありませんか?」
犬、猫、などの、ペットになる小型の動物の言葉がわかるらしい。
「私に近寄る動物が、人か猫しかおりませんので、困ることもなく過ごしておりますわ」
蘭は、あまり外に出ないので、なかなか気づかなかったが、他家の飼い犬が、身を低くして、蘭を見ないように避けるのだ。鳩や雀もすぐに飛んでいくし、烏に至っては、こちらに気づくと、一礼してから飛んでいく。
「あー、本当主でしたね。すると、猫語も分かりますか?」
今代の動物の耳は、朝子や凛の他にも会ったが、今まで仮当主ばかりだったので、つい興味本位で聞いてしまったらしい。
「試したことがないので、分かるかどうかが分かりませんわ」
抱っこされている白猫が、机に降り立ち挨拶を始めた。
「ぬし様、初めまして」
「初めまして。? え!?」
蘭が混乱していると、奥から黒猫が出てきた。
「あー、まだ伝えてないのにぃ」
「黒猫様、ごめんなさい!」
白猫は、慌てて動物の耳の腕の中に隠れてしまった。
「えー、なんでー!?」
蘭は混乱したのか、お嬢様言葉を忘れている。
記録係の助手だけが、キョトンとしている。2匹の猫が鳴いて、蘭が騒いでいるようにしか見えない。
「あとで、説明するー」
「わかったわ」
黒猫は、金色の瞳を光らせ、奥に帰っていった。
「申し訳ございません。ご存じないとは知りませんでした」
動物の耳が、謝ってきた。蘭と同様に、猫の言葉を理解している為、やり取りを理解したのだ。
「私、引き継ぎをしておりませんので、知識に欠けが多いようでして、」
「そうでしたね。聞いていたのに、考えが至りませんでした。申し訳ない」
蘭は、屋敷の者が変身した黒猫以外の、普通の猫の言葉もわかると判明した。そして、猫の中での、一番偉い立場らしいことも。
その日屋敷に帰ってから、いつもの指導係、自由な黒猫、蘭に講義をした爺や、その他にも屋敷のメンバーが集まり、蘭に事実が伝えられた。
いつもの指導係、ブラン。約600歳。
自由な黒猫、ノアール。人に例えると身分は王子。174歳。
蘭に基本の講義をした爺や、グリ。約900歳。
皆、実齢の1割くらいの年齢に見える。
他にも、ジョーヌ、ヴェール、ヴィヨレなど、皆、別名があるようだ。ちなみに蘭の呼び名は、ブルゥらしい。
蘭の正体は、猫神様の子孫で、蘭が、分かりやすく言うなら、屋敷の者たちは化け猫。なので、普通の猫から見て、蘭や屋敷の者たちは雲の上の存在に当たる偉い猫なんだとか。会う機会はないかもしれないが、ネコ科の動物なら、漏れなく蘭の言うことを聞くそうだ。
昔々、猫の神様と結ばれた人の子が、夜香家の先祖らしい。
祈りの間で祈った、翼のある像が、猫神様の像なのだそうだ。
「なぜ、今まで内緒でしたの?」
「当主、動揺はないのですか?」
「特にございませんわ。人ではない自覚はとうにしましたし、正体が分かってスッキリしましたわ」
過去に、動揺した当主がいたのだろう。
「早く伝えれば良かったねー」
ノアールが、明るく話していた。蘭を大事に思い、気遣った結果、伝えるのが遅くなったらしい。
「1つ驚いたとすれば、皆さん、私より年上でしたのね」
指導係や爺やはともかく、ノアールや、その他の若く見えるメンバーは、蘭より年下だと、蘭は思っていたのだ。
「とーしゅが一番若いよー」
「そのようですわね」
現在50歳を越えたばかりの蘭が、この屋敷の中で、一番若いのだ。
屋敷のメンバーは、およその者が黒猫に変身できて、人側からは現在蘭しか居なくて、残りは皆、猫側の化け猫で、常に人に変化していられる優秀な選りすぐりらしい。
「黒猫に変身できない猫側のメンバーは、どういう立場ですの?」
「黒くない猫には変身できるよー」
「成る程ですわ」
蘭としては、茶トラや三毛なんかがいるのかな?と考えたが、そういうことではないらしい。
化け猫の中では、黒猫が一番格が高いそうで、そこは人間出身の蘭には、わからない感覚かもしれない。
蘭に、歴代の名乗りを教えてくれたのは観測者だが、黒猫たちによると、仮当主はブラックキャットと名乗り、本当主だけが、碧眼の黒猫と名乗れるそうだ。




