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命を奪うと言うこと  作者: 葉山麻代
1章 ヒヤシンス

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邂逅

信子(のぶこ)さん、私調べたんだけどね。ヒヤシンスって、もう1つ別の和名があるらしいのよ。夜香蘭(やこうらん)っていうんだって」

「うふふ、そうね。その名の人は、実在しないわ」

「そうなの? 調べたことがあるの?」

「そんなところ」


 八仙 花(はっせん はな)が、ランチを食べながら話題にしてきたのだ。懐かしい自身の名に、辛かった過去を思いだした。続いて7歳まで暮らしていた部屋と暮らしを思い出し、ふと気が遠くなった。


信子(のぶこ)さん! 信子(のぶこ)さん! 死なないでー!」

 遠くで八仙 花(はっせん はな)が騒いでいる声が聞こえていた。




「お姉ちゃん、お姉ちゃんなんでしょ?」

「え、貴女は夜香 凛(やこう りん)。なぜここに?」

 暗闇の中に、1人ポツンと妹がいる。

「私がわかるのね。お姉ちゃん、私のお姉ちゃんだよね?」

「今の私は、夜香 蘭(やこう らん)ではないわ。私の名は、神風 信子(かみかぜ のぶこ)。貴女の姉であるとは言えないわ」

「いいの。お姉ちゃんが生きていてくれれば」




 フワッと浮き上がる気がしたあと、目が覚めた。

 知らない天井だ。


(らん)、目が覚めたのか!」

 怖い顔を更に怖くした神風 龍一(かみかぜ りゅういち)と、(にしき)百合(ゆり)が、目に涙をためてこちらを見ていた。


「ここは?」

 ろくに声が出ない。

「病院だ。学校で倒れて、(はな)君が知らせてくれたんだ」

八仙(はっせん)さんには、迷惑をかけてしまったわね」


(らん)さん、原因は不明で、今日で10日目です」

 百合(ゆり)が報告をしてくれる。

「え、私、そんなに寝ていたの?」

 腕に繋がる管の数、刺し変えたであろう点滴の注射針の跡の数、確かに多かった。

「喉が渇いたわ」

 百合(ゆり)が、水差しで飲ませてくれたが、体にとって久しぶりすぎて、むせた。

「ゲホゲホ、ゴホゴホ」

 おろおろする神風 龍一(かみかぜ りゅういち)と、ナースコールを押してテキパキと事をすすめる百合(ゆり)が対照的すぎて、(らん)は、笑い出すのだった。


「夢の中、なのかな。妹に会ったわ」

「えー!」「どういうこと?」

 話の途中で、看護師が駆けつけてきた。

神風(かみかぜ)さん、どうされましたか?」

「目が覚めました」

 百合(ゆり)が答える。

「先生呼んできますー!」

 看護師は、慌てて戻っていった。


 起きて診察を受けた。特にどこにも異常はなく、脳波も正常で、遅くとも明後日には退院出来るそうだ。この後の食事から、回帰食が出るらしい。

 楽しみにしていた食事は、重湯(おもゆ)だった。重湯とは、くず湯のような見た目のどろどろのご飯で、ほぼ糊状態だ。正確には、お粥の上澄みらしい。

 うわー。と思ったが、食べて(飲んで?)みると、この世のものとは思えないほど美味しかった。()()()()()()

 次の食事は夕飯で、三分粥(さんぶがゆ)で柔らかいおかずがつき、その次の朝食は五分粥(ごぶがゆ)で、段々ご飯が形になっていく。

 退院する日の朝、やっと普通ご飯(やわらかめ)が出た。暫く油ものや暴飲暴食などを控え、健康的な食事をして下さいと言われ、薬などは処方されずに退院した。


 家に戻り、一番に八仙 花(はっせん はな)に連絡をした。

八仙(はっせん)様のお宅でございますか? (わたくし)神風(かみかぜ)と申します。(はな)さんは、ご在宅でございますでしょうか?」

「ハイハイ、少々お待ちくださいね。(はな)ー!神風(かみかぜ)お嬢様から電話だよー!」

「ちょっとお母さん、電話は子機に回してよ。下から叫ばないでよー」

 八仙 花(はっせん はな)のおっちょこちょいは、母譲りなのだろうと、少し笑ってしまった。


信子(のぶこ)さん、良かったー。退院できたんだね」

「大変ご迷惑をお掛け致しました」

「無事なら良いんだよー」

「特になにも問題ないそうでございます」

「良かったー。呼んでもピクリとも動かなくて、死んじゃうんじゃないかって、」

 当時を思い出したのか、(はな)が泣き出した。

「無事に戻って参りましたので、どうかご安心下さいませ」

「うん、うん、本当に良かったー」

「学校の、ノートなど、貸していただけますかしら?」

「貸すのは構わないけど、とっくに習得済みの内容じゃないの?」

「おほほ。そうですわね。今週いっぱいは休みますので、よろしければ、遊びにいらしてくださいね」

「わあ!ありがとう!」

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