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命を奪うと言うこと  作者: 葉山麻代
3章 貴族交流

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虚言

「なぜか、私の回りの人が争うことが多いんです」

 相談で訪れた若い女性が、大きなアクションで目を伏せて、少し困ったように(らん)に訴えてきた。

 名前を牧野 秀美(まきの ひでみ)といい、27歳だ。

「例えばどんなことですの?」

「皆、私と同じグループになりたいとか、候補者がたくさんいる難しい役職に私が推薦されたり、皆、私が好きすぎるみたいなのです」

 困ったように装ってはいるが、全く困っていないように(らん)には見えていた。

 相手に媚びたような秀美(ひでみ)の表情は、(らん)を困惑させる。

「それで、どうされたいのかしら?」

「私のために争わないで、仲良くして欲しいんです」

 その要望に、(らん)は、妖しく微笑んだ。


「ご相談前に、お店の事前説明の紙をきちんと読んで、サインをされましたか?」

「勿論」

 自信たっぷりに答えていた。(らん)の目を見ても、視線をそらさない。

「あなたは、あなたのおっしゃることが、あなたの中では正しい記憶ですのね」

「それはどういう意味ですか?」

 不思議そうに尋ねてきた。

「あなたの状況を、人を変えて見せて差し上げましょう」

 本人が自分自身を認識できない状態で、本人の記憶と同じ時間軸の姿を見せた。

 それは回りの者たちが、誰一人同じグループになりたくないと言って、もめている姿や、誰も引き受けたくない面倒な役職に、無理矢理推薦されている哀れな女性の姿だった。

「なんですか!? この可哀想な女は?」

「それが、あなたの真実でしてよ」

 わなわなと震え、目を見開き、秀美(ひでみ)は、やっとの思いで反論してきた。

「そんなはずない! 私は人気者で、誰からも好かれていて、みんなから頼られて」

「ご自身に対しても、嘘をついているのですわ」

「違う、これは私じゃない! 私であるはずがない!」

「ふふふ、まずは、事実を認めることが大切でしてよ」

 ふと、なぜここに来たのか、今見た映像を思い出したらしい。それは、友人だと思っている同僚から、嘲笑われて勧められたからだった。

 元の記憶では笑顔の同僚が、心配ごとなら、当たると評判の占い師、夜香 蘭(やこう らん)に相談してみたら良いんじゃない? だったのが、薄ら笑いしながら、嘘吐いたら報いがあるって言う占い師、夜香 蘭(やこう らん)がいるから、そこで聞いてみれば? に変わっている。

「いやぁぁぁー!!!」

 秀美(ひでみ)は、発狂したように、叫び出した。


 その昔、嘘を()き過ぎて回りを混乱させ、その嘘が段々バレ、ちやほやされていた立場が一気に逆転してしまい、受け入れがたい現実に、己すら騙し虚構の世界に入り込んでしまったのだ。


 叫び疲れ、おとなしくなった秀美(ひでみ)は、(らん)が寿命を奪ったわけでもないのに、一気に老けたような見た目になった。


「他人を陥れる嘘を吐くのをお止めなさい。他人に不利益をもたらす嘘を吐くのをお止めなさい。虚勢を張るのをお止めなさい。己の現実を認めなさい」

 (らん)が、優しい声で諭した。


「うわぁぁぁん」

 泣きじゃくる女性に虚勢はなくなり、幼い少女のようにただ泣くのだった。


「この者を別室へ」

「かしこまりました」

 助手の女性が付き添い、秀美(ひでみ)を休憩室へ連れていった。


「先生、今の女性どうしますか?」

 記録係の助手が、確認してきた。

「起きたら、お帰りいただいて結構ですわ」

「追加料金は必要ないのですか?」

「過去を見せましたけど、ご本人の願いではありませんですし、特に同意も得ていませんですからね」

「わかりました。受付に伝えてきます」


 伝えに行った記録係は、次の客と共に戻ってきた。


「あの、ここに友人が来たと思うのですが、」

「先程の彼女かしら?」

「多分そうです」

 付き添いで来ていたらしい。

「あなたはきちんと受付を済ましていらしたの?」

「ええ、はい」

「でしたら、お分かりになりますわね。(わたくし)に嘘を吐いてはいけないと」

 同意書の内容を思い出したのか、さっと顔色が悪くなった。


「えーと、嘘を吐いたら、どうなるのですか?」

「当然の報いは受けていただきましてよ」

 顔色がさらに悪くなり、血の気が引いて今にも倒れそうだ。それなのに、(らん)が怖いだろうに、半泣きになり目を潤ませながらも必死で反論してきた。

「彼女は辛い事が多すぎて、自分の殻に閉じ籠ってしまっただけなんです。夜香 蘭(やこう らん)様に嘘を吐こうとしたわけではないんです。どうか、お許しになっていただけませんでしょうか?」

 こうまで必死になって庇う友人がいたとは、意外だった。

「あなたは、なぜ彼女を庇うんですの?」

 先程チラッと見た彼女の日常に、この女性は登場しなかったのだ。

「私が辛いときに支えてくれた大切な友人なんです。彼女がここに来ると聞いて、止めようと付いてきました。結局止められませんでしたけど……」

「過去に何がございましたの?」

「他の方には話しませんが、夜香 蘭(やこう らん)様は過去を見ることが出来ると聞いていますので、私から見た彼女の過去をお話しします」


 その話の中の秀美(ひでみ)は、勤める会社の御曹司と、婚約までしたのに裏切られ、手酷く捨てられたらしい。それを認めたくなくて、婚約破棄されたことを隠したまま会社に居続け、少し言動がおかしくなっても会社側も無碍に解雇できず、ここまで来たそうだ。


「そうでしたの。お気の毒ではございますが、過去は変えられませんわ。きちんと未来を生きるように、あなたが支えて行ったら良いですわ」

「え?」


 少し眠り、目が覚めておちついたのか、助手に連れられた秀美(ひでみ)が、奥のドアから入ってきた。

秀美(ひでみ)!」

裕子(ゆうこ)、心配かけてごめんね。私、目が覚めたよ」

「無事で良かったぁー」

 裕子(ゆうこ)が泣き出し、(らん)がミニタオルを差し出した。

「そちら、差し上げます。お帰りになって結構ですわ」


 助手が外まで送り、2人で帰っていった。

 助手によると、正式に婚約をしていたならば、一方的な婚約破棄は慰謝料が取れるらしく、その方面に強い弁護士を紹介しておいたらしい。


「あなたたちは、聞いた話を頭に入れてはダメでしてよ」

「大丈夫です! もう、すっかり忘れました!」

「それなら、良かったですわ」

 (らん)が優しく笑った。


 書面での記録は残るが、他言無用なのである。

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