復帰
蒲 公英が、助手として復帰してきた。かなり長い再研修を受けさせられたらしく、暫くはキリッとしていたが、だんだん以前のように、人懐っこいキャラクターに戻っていった。今日は休みだが、週5日出勤している。
「先生、今日のおやつはなんですか?」
本日の記録係の助手が、声をかけてきた。
「冷蔵庫に、メロンのゼリーを入れてあるので、皆さんでどうぞ」
「ありがとうございます!」
あまりに皆がおやつを楽しみにするので、ほとんど毎日、蘭がおやつを自作して持ち込んでいる。少し多めに持ち込み、来客などがなければ、じゃんけんなどで決めた人が残りを持ち帰る取り決めらしい。今日のメロンゼリーは、上部がゼリー、下部がムースになっていて、飾りに小さなメロンがのっている。
「先生、まだ時間外ですが、面会希望です」
受付担当の助手が、報告してきた。
「お通ししてください」
営業開始前に、鳳 仙花が挨拶に来たのだ。蒲 公英が付き添ってきた。
「ご無沙汰しております。あの、私の復帰について、先生が許可なさっているとうかがったのですが、本当でしょうか?」
「本当ですわ。立場上、来て欲しいと願い出ることはできませんが、断ることはできますの。私的に、仕事が出来る方は、大歓迎なのですわ」
つまり、嫌ならちゃんと断るけど、来てくれと言い出すことは出来ないと立場と気持ちを表した。
蘭の言葉に、仙花がポロポロと涙を流し泣き出した。
「あんなことがあったのに、あんなことをしたのに、」
「あの時点では、あなたは確信犯だったのだから、仕方がないわ。今は考えを改めたのでしょう?」
本人は、それが正しいと信じていたのだから、仕方がないと蘭は思っている。尊敬する父親からの洗脳だったのだ。子は親に逆らえないのは、凛の件で身に染みている。
「はい。父のことは、今でも尊敬してはおりますが、全てが正しいわけではなかったと、兄共々反省しております。母の言葉で目が覚めました。家族を諦めずにいてくれた母に、皆感謝しております」
当の父親は、己は為政者には向いていなかったと言って、地域に根差した奉仕活動をしているらしい。鳳家は、特に働かなくても困らない資産があるらしく、暫くは奉仕活動に専念し、もう少し年を取ったら、田舎で畑を耕しながら余生を送る予定なのだとか。
「落ち着いたようで良かったわ。せっかく来たのだから、よろしければ、おやつをどうぞ」
仙花の後ろに、お茶とメロンゼリーを持って、助手が立っていた。蘭にはお茶だけ提供された。
「あら、美味しそうですね。ありがとうございます」
1口食べて美味しい笑顔を見せ、2口食べて、「美味しい」と言葉にし、3口食べたところで質問してきた。
「こちら、どちらで購入されたのでしょうか?」
「私が、作りましたわ」
「え? 先生、お菓子作れるんですか!?」
「ええ、まあ」
仙花は、ゼリーを持ってきた助手をみた。
「先生が、ほとんど毎日違うお菓子を作って持ってきてくれるんだよ!」
助手は、自慢げに話していた。
公英も、頷いている。
「先生、凄いですね。買って来た物かと思いました」
「中高生の頃に、本職の方に習ったので、むしろ家庭的なおやつはわからなかったりするわ」
「家庭的なおやつ、牛乳混ぜるだけのデザートとか、アルミ製のフライパンつきのポップコーンなら作って食べました。調理場には入らせて貰えなかったので、未だに料理はからっきしです」
鳳 仙花も、上流階級のお嬢様なので、一般人とは違うらしい。
「お嬢様2人がいくら話しても、一般家庭のおやつは出てこないと思います」
助手が話しに割り込んできた。なんなら公英も良いところの出なので、お嬢様と変わらないだろう。
「子供の頃、どんなおやつを食べたんですか?」
「どの様な物を召し上がっていらしたの?」
仙花と蘭が尋ねた。
「市販のお菓子以外、食べたことありません! 手作りだと、お婆ちゃんが作るおはぎくらいで、普段は主に、駄菓子と呼ばれるものを食べてました」
「どの様なものですの?」
「説明するのは難しいので、今度買って持ってきます」
「楽しみですわ」
「私も食べてみたい」
話がまとまったところで、時間になり、お店を開店させた。
仙花には、帰る前に制服になるシャツの生地を選んで貰った。公英と一緒に帰っていった。
今日も、貴族の集まりに来なかった貴族家当主が、挨拶に来た。皆友好的で、蘭は少し不思議だった。神風家にいた頃に習った貴族たちと、あまりに印象が違うのだ。貴族外から見た印象が悪いからこそ、平和的に仲良くしているのかしら?と、蘭は考えていた。
実のところ、恐れ敬われているのは確かではあるが、一生関わらない人の方が多いため、噂が一人歩きしている部分が大きいのだ。貴族から見捨てられるならともかく、反撃に出られたら一般人には勝ち目はないので、かかわり合いたくないと考える人が一番多いのである。
確信犯
政治的・思想的、又は、宗教的信念に発して、それが(法的に罪になるとしても)正しい事だと確信して行う犯罪。




