観測
「お初にお目にかかります。観測者です」
貴族の交流会に参加しなかった、名前の上がった相手が訪ねてきた。
「初めまして。夜香 蘭ですわ」
「困っていることはありませんか?」
「私、何を困っているかが、わかりませんわ」
「学習不足には、困っていませんか?」
「困ってはおりませんが、確かに貴族の常識は存じ上げませんわね」
「何か困り事があったら、どうぞ頼ってください」
「ありがとう存じます」
「今日はそれだけです」
「他にご用は無いのですか?」
「ええ、ホテル王と、翠眼の女王が来たでしょう?」
植物育成の女性は、翠眼の女王と呼ぶらしい。
「えーと、その肩書きは、私にもございますの?」
「え、あ、ご存じ無いのなら、」
「うふふふふ。存じ上げませんが、死神とかその辺でしょうか?」
走馬灯のような物を見て、命を刈ることが出来る存在は、他に死神くらいしか思い付かない。
「あー、えーと、悪口で言う人は、そう呼びますが、本人が名乗るときは、ブラックキャットか、碧眼の黒猫と名乗っていましたよ」
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黒猫に変身できるのでしょう?
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声に出さず、手に持っている小型の電子機器に、表示して見せてきた。記録係からは見えないように配慮してくれたらしい。
「ありがとう存じます。これからは、そう名乗ることといたします」
悪口では、死神と呼ばれているらしい。悪魔や化物よりはマシかな?と蘭は思ったのだった。
「ところで、ホテル王さんから旅行券を貰いませんでしたか? そちらを使って旅行をする際には、事前に行き先をご登録願います」
「登録ですの?」
「こちらは、……助手の方がたくさんいらっしゃるようなので、声をかけておけば良いと思います」
監視と言いそうになり、言葉を飲み込んで、助手と言い直したらしい。
「それをしないと、どうなりますの?」
「私がフルで働くことになります」
「え?」
「私が休日返上で、働かなければいけなくなります」
余計な仕事を増やすなと言いたかったらしい。
「あ、観測者さんですものね。わかりましたわ。必ず、事前にどなたかにはお伝えいたしますわ」
「よろしくお願いします」
「ところで、少しうかがってもよろしくて?」
「なんでしょう? わかることなら答えますよ」
「私のことを認識したのは、どうしてですの?」
「説明が難しいのですが、夜香さんのお屋敷にある、黄色い光が、青い光に変わったのを観測したのであって、夜香 凛さんから、夜香 蘭さんに変わったことを知ったわけではありません。当初は、夜香籍を抜けているはずの、凛さんの保護者と名乗っていた前当主のご姉妹が、継いだのかと考えていました。凛さんは、明らかに未成年でしたからね」
どの程度の把握なのだろうと、蘭は疑問に思っていたのだ。思いの外詳しく説明され、少し驚いた。
「ありがとう存じます。とても不思議に思っておりました。えーと、未成年者は、本当主にはなれませんの?」
「たしか、夜香さんのところだと、15歳以上だったと思います。私の能力は、色の違う光の玉のように見えて、貴族家当主の居場所を地図上に把握できますが、常に見ているわけではないので、定期的に観測した情報を機関に伝えています。夜香さんは、青い光を纏った玉に見えます。ホテル王は、今だと、まだらに金色に輝く茶色っぽい玉、翠眼の女王は、黄緑色の輝く玉です。亡くなると、光を失います」
「ありがとう存じます。とてもわかりやすくご説明くださり、感謝いたします」
観測者は、連絡先一覧が書いてある紙を、隠すことなく置いて帰っていった。貴族名簿らしい。
「これをしまっておいてちょうだい」
「かしこまりました。当主、複製しておきますか?」
「あ、そうね。なくさないように、コピーもお願いするわね」
次回の貴族交流会の時に早速使用しようと、少しうきうきするのだった。
「先生、そちらの紙は見せて貰えますか?」
「構わないと思うけど、貴族の連絡先が書いてあるだけですわ」
「あー、では、書き残さないので、黙視だけさせてください」
「ええ、どうぞ」
その紙を見ながら、助手が発言した。
「先生、そういえば、公英の再教育プログラムが、終わったらしいですよ」
蒲 公英は、再びこの占いの館に勤めるために父親から出された条件で、教育プログラムを受けることになったらしく、暫く姿を見ていない。
「結構本格的な再教育でしたのね」
「成績優秀だと飛ばせる行程も、全て飛ばせなかったらしいです」
道理で時間がかかるはずである。蘭も、公英が復帰するまでは、母親の花に会わない方が良いだろうと考え、お誘いを断り続けている。そしてふと思ったのだ。
「それは、鳳 仙花さんも受けるのかしら?」
「え、先生、先生側から見て、それは許容できるんですか?」
状況は正しく把握しているらしい。
「別に構わないですわよ?」
「鳳さんって、仕事は物凄く出来るから、復帰してくれるならありがたいなぁ」
「私から願い出ることはできませんが、本人に復帰の意思があるなら、歓迎いたしますわ」
助手は喜んで、雇い主に報告をしていた。
日間集計は、時の運みたいですね。
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