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命を奪うと言うこと  作者: 葉山麻代
3章 貴族交流

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次代

「あの、ホテル王さんから紹介されたんですが、夜香 蘭(やこう らん)さんは、こちらですか?」

 それは、瓶底眼鏡をかけ、やぼったい服装の女性だった。

「はい。先生の名前が、夜香 蘭(やこう らん)です。占いをご希望されますか? 何かご相談ですか?」

「どう違うんですか?」

「ご相談だけなら、基本料金の1万円だけです。占いは、年収の1%の料金で、あなたの過去や未来を見ます」

「占いかもしれないけど、とりあえず相談で」

「かしこまりました。1万円お預かりいたします」

 そして渡してきたのは、伊藤博文の千円札を2枚だった。次に渡してきたのは、新渡戸稲造の五千円札、次に首里城の弐千円札、岩倉具視の五百円札、そして他に細かいのが無かったのか、最後に聖徳太子の壱万円札。なぜか全てピン札だ。

「す、凄い、旧札、初めて見ました! もし可能なら、僕のお札と交換して貰えませんか?」

 受付にいる若い助手の男性は、生まれる前に発行された札に目を輝かせていた。

「良いですよ。まだありますけど、他にも取り替えますか?」

「可能な限り!」

 合計で10万円近くあったらしく、他の助手から、明日返すからと言って現金を借りていた。

「うわー。嬉しい! 僕も、僕の兄も、古銭とか集めるの好きで、家に帰ったら、自慢したあと、兄と分けます!」

「あ、分けるんですか。良い兄弟ですね」

 微笑ましそうに笑っていた。


 (らん)のところに案内されて来て、少し笑ったままの客に、(らん)がお詫びを伝えた。

「ご面倒をお掛けしたみたいで、申し訳ございません」

「いえいえ、あんなに嬉しそうにされたら、持ち出した甲斐が有ります。最近自分でお金の受け渡しをすることが少なくて、タンスの奥のお金を久しぶりに出してきました。新しい壱万円札は、なんだか斬新なデザインなんですね」

「新札に変わってから、お札を使用されていなかったのですか?」

「支払いには旧札でも払えますし、お釣りはほとんど硬貨だったので、特に新壱万円札を手にする機会がありませんでした」

 確かに、お釣りで壱万円札は渡されない。


「今日は、どのようなご相談ですか?」

「はい。私の能力を、誰に相続させれば良いか、相談させてください」

 その女性は、分厚いレンズの眼鏡を外した。すると、見たこともないような不思議の色の瞳が現れた。透き通った黄緑色に見える瞳は、宝石のように美しい。

「私の能力は、植物の育成です」

「あ、貴族の方なのですね。存じ上げずに申し訳ございません」

「いえいえ、先日の集まりに欠席しましたので、今日、ご挨拶できればと思いまして。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 結局、占いで運命を見ることになり、(らん)は衝撃的なこの女性の未来を見た。

 次代に能力を譲る約束をした後、畑の土に埋まり、植物に変化し、そこに生った実を食べることによって、次代の主が決まるのだ。植物に関する全ての記憶が継承されるらしい。この能力は、仮当主が存在しなく、本当主になるしかないようだ。


 生き埋めを見て、(らん)の顔色が悪くなる。

「あ、あの、譲り方については、ご存じなのですか?」

「はい。あ、埋まるのを見ちゃったんですか?」

「ええ、ご存じなのですね。……みいちゃんと呼ばれる女児が、『お婆ちゃんの実』と言いながら食べていました」

「あ、玄孫(やしゃご)なんですね。なるほど、子供たち、孫たちにあたってみても反応がないわけだわ」

 (らん)のところに相談に来たのは、次代の捜索に行き詰まったのだろう。

「あと、あなただった木は、もう1つ実をつけ、多分一般人の若い男性が食べました」

「あ、予備当主ですね」

「予備当主ですか?」

夜香(やこう)さんのところだと、仮当主ってあるでしょう? それと同じようなもので、本当主が継ぐまでの中継ぎです。次代へ引き継ぐ能力はなく、本当主が覚醒するまで農業指導などをします」

 本当主が覚醒するまでと聞き、(らん)は、恐る恐る尋ねてみた。

「本当主が覚醒したらどうなるんですか?」

「何年もかけて徐々に知識がなくなるそうですが、大体本当主と結婚しますね」

「消えてなくなったりしないのですね」

夜香(やこう)さんのところは、一掃ですものね」

「ええ」

 夜香(やこう)家の本当主の誕生は、仮当主を全て滅する。貴族の中では知れたことのようだ。

 他の貴族は違うのかと、(らん)は少しホッとした。大事な人を生け贄に使う儀式は、2度としたくない。

 (らん)は知らないが、本来、夜香(やこう)家は、母親を贄に本当主を引き継ぐのだ。子を生んだ時点で寿命が縮むのだから、覚悟の上である。いつの時代かの当主が、次代に本当主を引き継がずに仮当主のままで、(らん)の親の代まで来たのだろう。ちなみに仮当主は、人以外を贄に使うが、定期的に繰り返し儀式を行う必要がある。


 夜子(よるこ)も、(りん)が成人して暫くして落ち着いたら、本当主の儀式をするつもりでいたが、(りん)が成人する前に、夫に謀られたのだった。そんな世界線があれば、(らん)は、いつまでも幸せだったかもしれない。


夜香(やこう)さん、今日は助かりました。私の年収って、お金としてはほとんど無いので、うちで扱っている農作物をあとでお屋敷に届けますね」

「ありがとう存じます。(わたくし)こそ、勉強になりました」

「玄孫はまだ幼稚園にも入っていないので、次回もどこかでお会いしましょう」

「はい。楽しみにしております」

 受付で、年収の1%にあたる、12000円になるように、2000円を払って帰っていった。現金としての収入は、120万円しかないらしい。食品も衣類も紙も、植物を操るので困らない。その他の肉や魚は、お礼に誰かが持ち込み、家の維持は既に孫夫婦がしており、現金が必要なのは、お年玉くらいなのだ。

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