制服
「出来ましてよ」
「え?」
「制服を作りましてよ」
「えぇー!! まだ1月くらいしか経って無いですよ?」
助手12名、屋敷の者4名の、シャツ1人2~3着、ズポンやワンピース2~3着を作ったと言うのだ。合計約80着。
「ミシンですので、カットしてしまえば、早いのですわ」
ほとんどの人がMかLサイズを指定してきたので、カットもまとめて早かった。
週1~2日くらい来る人と、4~5日来る人がいて、前者が2着ずつ、後者が3着ずつだ。「僕もワンピース頼んで良いですか?」と聞いてきた男性に、「欲しいのでしたら構いませんわ」と蘭が答えた為、女装して着るつもりらしい。受付には女性が居た方が、始めての人は入って来やすいと力説していた。女装も女性に入るんだろうか?
誰かの押し付けではなく、本人の希望なので、蘭は好きにさせている。痩せ型の瓜実顔で色白なので、化粧したら、映えそうではある。
「お名前は、ヨーク部分の内側に刺繍してございます、着用前なら見えますので、間違えることもないですわね」
「1日何着作ったんですか?」
「毎日2~3着でしてよ。先日のお休みの日に、大分作りましたわね」
休みはこの期間に3回有り、最初の休みはアンケートを集めた翌日だったので、布の裁断にあて、その日からすぐに作り始めたのだ。
「先生、中にタンクトップを着て、ボタンを開けていても良いですか?」
「だらしなく見えない程度でしたら、構いませんわ」
すっかり南国ムードになり、店内が華やかになった。スーツやジャケットの助手ばかりの中、蘭は1人で派手だったので、これで少し浮かなくなるかもしれない。
蘭に同行してお店まで来る屋敷の者たちは、蘭の手作りの服を貰えるとあって、ちょっとした争奪戦があったようで、普段ついてくることが多い、指導役と、自由な黒猫の彼以外、余り屋敷を出たがらない者まで来たがった。そのうち、屋敷のメンバーのシャツも仕立てようかと蘭は、考えている。
時間になり開店し、最初の客が店内に入ったあと、すぐに出ていき、看板を見てから再度入ってきたらしい。たまたま受付に居た自由な黒猫の彼が笑いながら報告してくれた。
「とーしゅ、とーしゅ、ビックリして帰っちゃったけど、またすぐに来たー!」
そしてその客が案内されてきた。
「なんか、制服が変わりましたか?」
客の最初の質問が、これだった。
「ジャケットが堅苦しく思いまして、変えましたの」
「そうなんですねぇ。店間違えたかと思っちゃいました」
確かに、かなりのイメージチェンジだ。以前来たことがあるからこそ、あれ?と思ってしまったようだ。
「今日は、どうされましたか?」
「はい。ご報告と、ご相談があって、参りました」
「伺いますわ」
相談内容は、会社を辞め、蘭に言われた通りに、起業する知り合いの仕事を手伝うつもりで勉強していたけど、別々の2人から誘われて、どちらを選ぶべきかわからないと言うものだった。
「手を触ってもよろしいかしら?」
「は、はい、どうぞ!」
蘭は、詳しくみるために、手を触ってしっかり見定めてみた。以前見たときに、2人も出てきたりはしなかったのだ。そして、やはり以前見たときと変わらない結果を見た。
「具体的にお名前を出しますが、○○さんからのお誘いしか、私には見えないのですが、もうお一方は、どのようなお話ですの?」
「△△さんと言う、前の会社の部署違いの同期です。出資を頼まれています」
「その方なら、会社をお辞めになってはいないわね。あなたの未来にはいらっしゃらない方なので、詳しくはわかりかねますが、あなたの元上司の息がかかった方のようですわね」
「えぇー!!! あいつ、俺を騙したのか」
「騙すつもりがあったかはわかりませんけど、出資はお断りなさった方がよろしくてよ」
「ありがとうございます。○○さんの話の方に引かれましたが、元同期の頼みを無下に断って良いものかと考えてしまいました」
「優しさに付け込む人もいますわね。お気をつけ遊ばせ」
「これで、悩まず頑張れそうです! ありがとうございました」
蘭は、少し反省した。流れ的にはほんの少ししか登場しない人物でも、その場のその一瞬では、未来まで見通せないのだから、普通の人間には、相手が自分の人生から退場するかどうかなんて見定められない。
「先生、手を触ると何か変わるんですか?」
「目を見ただけより、詳しくわかりますわよ」
「あ、普段は、目を見てるんですね」
「ええ、目が合うように、私は、目だけを見せるようにこんな服装をしていますのよ」
フェイスベールをしていて、相手からは目しか見えない。
「え、先生の趣味かと思ってました」
「ふふふ、洋裁は趣味ですわね。作っていて楽しくなってしまって、予定より少し派手になったことは、認めましてよ」
「やっぱり趣味なのか」
助手がボソッと呟いていた。
高い料金の占い師が、Tシャツ短パンで出てこられても、信憑性に欠けると言うか、言葉に重みがないと言うか、見た目が与える印象は大事なのである。




