表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命を奪うと言うこと  作者: 葉山麻代
2章 占い師 夜香 蘭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/62

日記

 ある日、ふと思い出したことがあり、(らん)は以前使っていた部屋の本棚の裏を見に行こうと思った。そこには隠し扉があり、小物をしまっておける場所がある。

 この屋敷に戻ってからは、当主の部屋を使っているため、(らん)が少女だった頃に使っていた部屋は、妹の(りん)が使っていたままになっており、片付けずそのまま手をつけていないのだ。


 (らん)がメイド服を着込み、掃除道具を持って廊下を歩いていると、黒猫がそっとついてきた。

「あなたは、本物の黒猫さん? それともお屋敷のどなたかかしら?」

「にゃー」

「皆さんには内緒にしてくださいね」

 黒猫は返事をせずに行ってしまった。


 (らん)はそのまま以前の部屋に行き、掃除を始めた。30年は手付かずの部屋だ、さぞやホコリだらけだろうと考えていたのに、予想外に部屋は綺麗だった。雑巾は汚れないし、塵取りに塵も溜まらない。

「あら、これならお掃除しなくても大丈夫そうね、なら、本棚を退かしてみましょう」

 子供の頃の勢いのまま、力いっぱい棚を押すと、本棚は勢い良く滑っていった。

 バーン!

「あ、あ、力加減がぁ」

 慌てて廊下に出て、誰も来ないかを確かめた。


「誰も来ないみたいね」

 安堵して、本棚裏にある壁の扉を開け、中の物を取り出した。

 オルゴールのついた綺麗な箱を開けると、母親から貰ったペンダントがそのまま入っていた。

「うわー、懐かしいわ」

 猫目石のついたおしゃれなペンダントだ。イエローとブルーの2種類がある。


 当時母が、「このペンダントは、大きくなったらつけて良いから、あなたにあげるわ。大事にしてね」といって、渡してくれた事を思い出す。

 大きくなったから、つけて良いのかしらね。と、(らん)は思い、黄色い猫目石のついたペンダントをつけた。青い猫目石のついたペンダントは、部屋に持っていこうとポケットにいれ、箱を元の場所に戻そうとすると、見覚えのない日記が入っている事に気がついた。大学ノートの表紙に日記と書いてある。箱を取るときには、見落としたらしい。

 なにかしら? と、(らん)はその日記を手に取り開いてみた。日常以外の、(らん)に関係有りそうな所を読んでみる。


━━━━━━━━━━━━━━

 ○月○日

 明日、とうとうお披露目式がある。10歳になんてなりたくなかった。お姉ちゃんはどうしていなくなっちゃったのかな。


 ○月○日

 知らない大人がたくさん来て、みんなが私に頭を下げていった。変なの。お披露目式は、綺麗なドレスを用意して貰えたし、そんなに嫌じゃなかった。


 ○月○日

 仮当主になるための試練を受けなきゃいけないらしい。怖いのと痛いのは嫌だな。


 ○月○日

 不味い薬を飲まされて、真っ暗な部屋で、凄く臭いの変な煙の中で、動物を触って、その動物がだんだん冷たくなった。


 ○月○日

 またあの儀式をしなきゃいけないらしい。もうやりたくない。お姉ちゃんはこれが嫌で、いなくなったのかな?


 ○月○日

 儀式がどうしても嫌で、誰も来ない部屋に隠れて、お姉ちゃん助けてって、心の中で叫んだら、お姉ちゃんに会えた。でも、お姉ちゃんはお姉ちゃんじゃないって言ってた。


 ○月○日

 お母様に、お姉ちゃんが生きているって言ったら、信じてくれなかったけど、お父様と何か話して、お母様は凄く怒っていた。


 ○月○日

 お母様に頼まれて、お母様に生命エネルギーを渡してみたけど、あまりうまく出来なくて、怒られた。後で鏡をみたら、私がお姉ちゃんそっくりになっていた。


 ○月○日

 お父様が、知らないお姉さんをつれてきた。このお姉さんの生命エネルギーを取ってみろと、お父様に言われた。私が近づいたら、「信子(のぶこ)さん?」と聞かれた。


 ○月○日

 お姉さんは、縛られたままで可哀想。お父様が、生命エネルギーを全部取る必要はないと言うので、少しだけ取るつもりだったけど、一気に減ってしまって、お姉さんがおばあさんに変わった。


 ○月○日

 お父様が、買い物に連れていってくれると言うからついていったら、知らない優しそうなおばさんを捕まえて、こいつから生命エネルギーを取る練習をしてみろと言った。今回は少しだけ取ることに成功した。


 ○月○日

 お屋敷に、格好良い男性が訪ねてきた。お母様がすぐに追い返したけど、お庭にいた私に声をかけてきた。話くらい聞けば良いのにと思って答えると、いきなり私の肩を掴んで、「神風(かみかぜ)君を困らせているのは君だろう?」と、訳のわからない事を怒鳴られて、怖くなって生命エネルギーを取っていったら、気がついたらミイラみたいになっていた。


 ○月○日

 私は人間じゃないのかもしれない。お姉ちゃん助けて。もう、誰も傷つけたくない。


 ○月○日

 お姉ちゃんがいる学校に行ってみた。お姉ちゃんは、お役目が嫌で逃げたんじゃなかった。捨てられたって言っていた。嘘つきは誰なの?


 ○月○日

 お母様に本当の事を教えてと頼んだけど、お姉ちゃんが嘘をついているとお母様は答えた。嘘つきは誰なの?


 ○月○日

 お父様が、お姉ちゃんの家に連れていってくれるというので行ったけど、お姉ちゃんはいなかった。そこにいた人に聞いてみたら、お姉ちゃんと同じことを言った。少しだけ生命エネルギーをとって怖がらせてみたけど、言うことを変えなかった。嘘つきは誰なの?


 ○月○日

 助けてお姉ちゃん。もう嫌だ。

━━━━━━━━━━━━━━


 日記はここまでだった。

 (らん)は、(りん)の苦悩を知って、心を痛めた。利用されただけの(りん)、血の繋がった妹。最後は、(らん)の覚醒によって、仮当主の(りん)を滅してしまった。

 だいぶ人の心を捨てた(らん)だったが、精神的に幼い妹の心の叫びを今さら知り、心を痛めるのだった。


 当時、(らん)の通う大学の教員が夜香(やこう)家を知っていたのは、(らん)の提出した戸籍の書類に、本名が載っていたからだった。


 部屋を出ると、屋敷の者に見つかった。外に待っていたらしい。

「当主、また珍しい物を」

「なにかしら?」

「そちらのペンダント、青い物はございませんでしたか?」

「あるわよ」

 ポケットから取り出し見せた。

「有るのでしたら、青い方をご使用ください」

「何か違いますの?」

「黄色は、仮当主用でございます。青い瞳は当主のみですので」


 何か不思議なことを言われた。

「青い瞳? とは、何ですの?」

 (らん)の瞳は、標準的な焦げ茶色だ。

「猫になったときの瞳の色でございます」


 (らん)は慌てて部屋に戻り、鏡の前で猫になってみた。そこには瞳の青い猫がいる。

「本当だわ!」

「ご存知なかったのですか?」

 (らん)は姿をヒト型に戻した。

「ええ、猫になって鏡を見る機会はなかったもの」

「100年を越え当主を続けると、ヒト型の時も瞳が青く変わります」

「黒髪には無さそうな組み合わせね」

 (らん)は、自分の真っ直ぐな黒髪を見ながら呟いた。

「この辺りでは珍しいかと思われますが、東欧などには居ります」

「そうなのね。100年越えたらか。あと70年近く有るわね」

「100年を越えると解放される力もございます。ご健闘をお祈り申し上げます」

「もう充分人間離れしているけど、更に人から遠ざかるのね」

 (らん)が少し寂しそうに呟いた。


「当主、人でありたかったですか?」

「わからないわ。でも、運命だとは思っているから、逃げたりはしないわ」

「我ら一同、何処までもお供いたします」

「ありがとう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ