告白
「先生、次のお休みに、デートしてください!」
先ほどまで雇い主への書類を作っていたはずの蒲 公英が、とんでもないことを言い出した。
「皆さんで、何処かにお出かけしたいということかしら?」
屋敷の者たちもかなり驚いたようで、目を丸くしてこちらを見ていた。派遣されてきている助手たちは知っていたのか、ほんわかした表情をしてこちらを見ている。
「いえ、先生と2人だけで、出掛けたいです」
「お母様にプレゼントでも買いたいのかしら?」
公英の母といえば、八仙 花だ。まあ、今は蒲 花なので、アジサイではなく、ガマの花になったようだが。
「違います!先生とデートしたいんです!」
蘭のやんわり断るごまかしでは折れないらしい。
「お母様はご存知なの? お祖母様やお祖父様は絶対にお許しになられないと思うわよ?」
「お祖母様?お祖父様? え、ご存知なのですか?」
「学生時代は、花さんと仲良かったのよ。お宅に伺ったこともあるわ」
「祖母は健在ですが、祖父は一昨年亡くなりました。父方の祖父母はずっと前に亡くなっています」
「お母様とお祖母様と、しっかり話し合っていらっしゃい」
公英は、返す言葉がなかったのか、項垂れてしまった。
いつも蘭の後ろに控えて記録取りをしているが、今日は気まずかったのか、蘭から離れて受付を担当するらしい。受付にいた男性が交代でこちらへ来た。
「先生、公英駄目なんですか?」
「私、彼の母親と同じ年齢ですのよ? その母親と知り合いですのよ? 無謀でなくて?」
「あ、本当にお知り合いなんですね。写真を見たことはあるんですが、単なる同窓生ということもありますから」
「私のせいで、彼の母親を、ご家族を傷つけたことがございますの。だから関わりになってはいけないと……」
蘭が言葉に詰まると、慌てて話題を変えてきた。
「あ、先生、以前先生の手料理をみんなで食べたって聞いています。僕はその時行けなかったんですが、もう機会はありませんか?」
「何か食べたい物がございますの?」
「甘いもの好きなんで、何かお菓子かケーキを食べたいです」
「よろしくてよ。今度何か作ってまいりますわ」
「やったー!ありがとうございます!!」
時間になり、午前中の受付を開始した。
順調に午前の仕事が終わるかと思いきや、昼少し前、受付が騒がしい。
「先生、ちょっと見てきて良いですか?」
「どうぞ、お気をつけ遊ばせ」
そして現れたのは、現法務大臣と名乗る男性と、その秘書らしき男性。秘書は、蘭の屋敷での食事会に参加していた。その秘書が紹介をする。
「こちら、法務大臣の蒲先生です」
後ろから、公英が青い顔をしてついて来たのだ。
「蒲 公英君とは、どういったご関係ですの?」
「これは、倅です。ご存知なかったのですか?」
「ええ、助手の心は見ないことにしておりますし、そういった紹介はされておりませんので」
蒲大臣は頭を抱え、公英の方を向いた。
「お前はいったい何を考えているんだ」
「いったいどうされましたの?」
「倅から、何か言われませんでしたか?」
蘭は、言っても良いのだろうかと、公英を見た。
「僕が、先生にデートしてくださいって頼んで、玉砕しました」
「そうなんですか?」
「ええ、お母様やお婆様がお許しになられないと思うわと返答いたしましたわ」
「そうでしたか。妻が、いえ、息子の母が誰かは御存じなんですね」
「ええ、鳳 仙花さんの件で、教えていただきました」
「ああ、鳳さんか」
それなら仕方ないと思ったようだ。テロの一員かと疑われるよりは、正体を明かした方が身の安全を確保できる。
「私は、花さんに会わせる顔を持ち合わせておりませんので、公英君の要望に答えることは、未来永劫あり得ませんわ」
完全なる拒絶に、公英が膝をつくほどがっくりと項垂れた。
「夜香さん、申し訳ないが、今日はこれを連れて帰っても良いだろうか?」
「私は構いませんが、助手の方同士で話し合ってくださいます?」
政府から派遣されてくる助手は、蘭が頼んでいるわけではなく、主に蘭の監視のために来ている。どうやら秘書が代わりに残るらしい。
「夜香さん、先日は大変ごちそうさまでした。本日は、よろしくお願いいたします」
「はい。よろしくお願いいたします」
その日、蒲 公英は戻ってこなかった。




