休日
「先生、明日はお休みですね」
「そうね」
「そういえば、お休みは、どういう決まりなんですか?」
曜日や数字での括りではなく、1月に2~3回、約2週間に1回くらいの休みのため、休みの定義が不思議だったらしい。
「あら、説明したことはなかったかしら? 新月と満月の日がお休みですのよ」
「成る程! やはり、力に異常が出たりするんですか?」
「ふふ。その方が神秘的で占い師らしいでしょ?」
「え、そんな理由なんですか!?」
「ふふふ」
蘭は、エナジードレインをするようになってから、ほとんど睡眠も必要なく、休息も必要なく、ブラック労働者も真っ青になるくらい活動している。寝なくても疲れないため、家に戻ってから、好きなだけ好きな事をしても、時間があり余るのだ。その為、政府から派遣されてくる助手は、蘭の活動に合わせ、数人が交代で担当している。
「なにか予定があるのですか?」
「そうね。久しぶりにお料理でもしてみようかしら」
「え!? 先生、料理できるんですか?」
助手たちは、蘭や蘭の屋敷から来る者たちが、食べているところを見たことがないので、人と同じような物は食べないのだろうと考えていたのだ。
「私、一般家事は、なんでも出来ましてよ。ことお料理に関しては、プロから習いましたから、ホームパーティを準備できるくらいには、自信がございますのよ」
「え、先生、凄い」
「美人で家庭的で才能で稼いでいて、非の打ち所が全く無い!」
「あら、それは、ありがとう存じます」
神風家にいた頃に、飛 信子からプロ級の掃除や裁縫を習い、屋敷のシェフから料理を習ったのだ。錦 百合からお洒落や社交術を習い、本当になんでも出来る。
しかし使いどころはない。
「先生、お料理を作ったら、誰と食べるんですか?」
「あら、そういえばどうしようかしら。あなたたち、お味見なさる?」
「良いんですか?」
「私も行きたーい」
「よろしくてよ。どなたとどなたがいらっしゃるの?」
「先生、人数がわかれば良いですか? 誰が来るかわかった方が良いですか?」
「人数をお願いしますわ」
「今日中にご連絡致します!」
「お願いするわね。では、ごきげんよう」
夕方以降の依頼はないため、蘭は屋敷に帰った。
2~3人ずつ派遣されてくる助手たちは、最大でも12人なので、蘭は10人前を作るつもりで準備を始めた。
21時少し前に、参加希望は8人で、もしかすると役人が1人参加するかもしれないから、9人分お願いしますと連絡が来た。12時頃迄に集合と決め、手土産は要らないので持ってこないようにと告げた。
「当主、何かお手伝い致しますか?」
「ありがとう。10人座るには、どの部屋が良いかしら?」
「東の、花の庭園が見渡せるお部屋はいかがですか?」
「そうね。久しぶりに人を招くから、よろしくお願いするわね」
「かしこまりました」
出入り業者に、特注で食材を注文すると、2時間後には注文品を揃えて持ってきた。
蘭はパイ生地とパンを仕込み、テーブルナプキンに刺繍をしたあとアイロンを掛け、銀製のカトラリーを磨いた。
日記を書いたあとに、万全を期して2時間ほど休み、部屋の掃除をし、外の掃除をしていると、まだ薄暗い時間なのに、訪問者があった。
「大変申し訳ございません。こちらの御当主様からのご注文の品に、品質の間違いがございまして、可能でしたら、お取り替えをさせていただきたいのですが、」
「間違いがございましたの?」
「はい。大変申し訳ございません」
「小麦粉は仕込みに使ってしまったけど、他の素材を使うのは9時過ぎだから、お肉なら9時までに挽き肉にして納品してくれれば、問題ないわ」
「ありがとうございます! 間違った品は、そのままお使いくださっても処分してくださっても構いませんので、よろしくお願いします!」
「ところで、何が間違いなんですの?」
「国産牛と国産豚の特上挽き肉をご注文のところ、国産ではありますが、ランクが少しだけ低い肉が混ざってしまっているそうです。御当主様に、どうかよろしくお願いいたします」
「ふふ。大丈夫よ。怒っていないわ」
蘭がメイド服を着て掃除をしているので、メイドだと思い話しているらしい。
「こちらの御当主様は、怒ったりされないのですか?」
「怒ったこと、ここ最近はないと思うわ」
「ここ最近ですか? では、こちらで前回怒られたのはいつなのですか?」
「そうねぇ、30年前かしら」
「え?」
業者の男性は、初めて顔を上げ、蘭の顔をしっかり見た。若い女性が30年前ってなんだろう?と思ったらしい。
「夜香 蘭様……」
どうやら顔は知っていたらしい。
「はい。私が、夜香 蘭ですわ」
業者の男性は、青くなり、ガタガタ震えだした。
「な、なぜ、メイドの格好をしていらっしゃるのですか?」
「お掃除の時にドレスを着ていたら、動きにくいでしよう?」
蘭の答えを聞いて、狼狽えている。
「当主、ですから掃除は私どもがした方が、利にかなっているのです」
そっと近づいてきた屋敷の者にまで、言われてしまった。
「私は、お掃除をしたら駄目ですの?」
「現に、混乱されている」
確かに業者の男性は、二の句が繋げないのか、口をパクパクしている。
「わかりました。お掃除の続きをお願いします」
蘭は、外の掃除を諦め、部屋に戻った。
「あなたも、仕事に戻られると良い」
「あ、ありがとうございます」
業者の男性は、慌てて帰っていった。
そして挽き肉は、8時前には納品された。
集合は12時頃と伝えてあるが、9時頃に3人ほど、手伝いたいと早く来ていた。
「先生、メニューはなんですか?」
「お時間がランチですから、サラダ、コーンスープ、ハンバーグステーキ、テーブルロール、アップルパイ、紅茶ですわ」
「え、レストラン?」
「厨房をご覧になる?」
「はい、見たいです!」
3人を厨房に案内し、設備を説明した。
「業務用オーブンとか、凄いですね!」
「そうなんですの? ここも、昔いたところも、このような感じでしたから、これが普通だと思っていたわ」
「そういえば先生は、生粋のお嬢様だった」
蘭は、一般家庭を知らない。
「アップルパイを作ります。お手伝いされるなら、林檎を剥いてくださる?」
「はい!って、先生、お菓子も作れるんですか!?」
「作れなかったら、どうやって食べるんですの?」
「およその一般人は、お菓子は買ってきます」
「そうなんですの? お家ではお料理だけですのね」
助手たちは、材料を見て、少し不思議に思ったらしい。
「あれ、先生、コーンスープって、何処から作るんですか?」
「どこから?」
「材料はなんですか?」
「とうもろこし、玉葱、牛乳、調味料ですわ」
「スープもか。まさか、パンは市販品ですよね?」
「テーブルロールを作る予定ですけど、違うのが良かったかしら?」
「いえ、それが良いです。作り方、教えてください」
「ええ、良いですわよ」
日頃、仮面やフェイスベールをつけたままゆっくり動き、ゆっくり話し、優雅に行動する蘭が、素顔のままで動きやすそうな服装をして、少し早口で指示を出して、てきぱき動き、どんどん作り進める光景は、助手たちにはかなりの驚きだった。
「先生、レストラン経営できそうですね」
「ふふ、ありがとう存じます」
12時少し前に、参加者が全員集合した。
「スープはとうもろこしから作っていたし、パンもデザートも手作りだし、手際も凄くて、先生を知らない人が見たら、料理のプロだと思っちゃうよ」
「えー、俺も早く来れば良かった―」
「パンの作り方、習っちゃった!」
「そのパンはどうなった?」
「持って帰って良いって言われたから、別にしてあるー」
楽しげに助手たちが話している。蘭が余り見かけたことがない人が1人いたが、この人が政府の役人らしい。
「先生、アップルパイおかわり有りますか?」
「たくさん有るわ、お好きなだけどうぞ」
「やったー」
多めに作ったパンやアップルパイは、食べきれなかった分は持ち帰り、きれいにすっかりなくなった。
「先生、ごちそうさまでした!」
「はい。またいらしてね」
助手たちは、大満足で帰っていった。




