謝罪
ある日、大金を持って、命を戻してくれと騒ぐ女が来た。
「お金ならここに有るのよ、お願いだから、もとに戻してください! お願いよ!」
騒いでいるが、客として来たことが無い者らしい。
「先生、ちょっと見てきます」
「危なくてよ」
「あの声、聞いたことがある気がするんです」
蒲 公英は、思い当たることがあるらしく、受付に見に行った。
「やっぱり。鳳さんの、」
「あなたは、仙花のお友達の蒲君? 何故、こんな所に居るの?」
「仙花さんから聞いていないのですか?」
「ええ、仙花からは、何も聞いていないわ」
「とりあえず、騒がないでください。話だけなら出来るように、頼んでみます」
公英は、蘭に頼みに来た。
「先生、やはり、鳳さんのご家族でした。お嫌でなければ、話だけ聞いていただくことは出来ませんでしょうか?」
「放置しても解決しないですわね。空き時間を見て、あなたが予約を入れたら良いわ」
「先生、ありがとうございます」
公英は、鳳夫人に、告げに行った。
「当主、よろしいのですか?」
「鳳仙花ちゃんの兄のことよね。まあ、むしろあの時の罪は、兄よりも鳳仙花ちゃんの方なのよね」
「はい」
15時からの午後枠の1番に、鳳夫人は蘭の前に座った。目の前に現金1億円と6億円の小切手を置いている。
「大変申し訳ございませんでした。主人の偏見で子供の思想教育に失敗してしまいました。お金では無理であるなら、私の命で償いますので、どうか息子の余命を戻していただけないでしょうか?」
一気に喋ると、その場に土下座した。
「どなたから聞きましたの?」
「え、どれのことでしょうか?」
「息子さんがこうなった経緯は、どなたから聞きましたの?」
「夫と息子からです」
「娘さんからは聞いていないのですか?」
「え? 娘も?」
「私は特に口止めをされていませんので、何があったかお話しましょう」
蘭は、エナジードレインをしなければいけなくなった経緯を説明した。
「ですので、娘さんが放ったナイフがなければ、寿命の1部しか取らなかったのです。私の回復のために、息子さん以外は、全員絶命させました」
「仙花が、人を傷つけた……」
「娘さん曰く、私は、人ではなく化物なので、人を傷つけたつもりはないのでしょう」
「なんてことを」
「なので、裁判を受けて反省するのなら、戻せるだけ戻すのは構いませんが、謝罪は今のところ有りませんので、私も何もする気がないのですわ」
「本当に申し訳ございませんでした。娘と話して参ります」
「息子さんの命の光を戻したいなら、なるべく早い方が良いですわよ。現時点で余命1年を切っているわ。遅ければ遅いほど、戻しても元の年齢までは戻らないの。なるべく早い方がよろしいですわ」
「夜香 蘭様、お時間を取ってくださり、ありがとうございました」
鳳夫人は、絶望的な顔をしたまま帰っていった。
数日後、鳳 仙花の謝罪文と共に、警察病院まで御足労願いたいという、法務大臣からの要請が届いた。
「先生、一緒に行っても良いですか?」
公英が声をかけてきた。仙花が抜けたあと、ほぼ毎日来ている。
「私より、あなたの雇い主に確認なさって」
「それなら問題有りません!」
「でしたら、よろしくてよ」
屋敷の者を2人連れ、4人で警察病院まで出向いた。
案内された場所は、格子扉の鍵を開けて進む、精神科病棟だった。
「こちらです。お帰りになるさいや、何かありましたら、ナースコールでお知らせください」
2重扉で施錠されていて、戸を閉めると自動的に鍵がしまるらしい。
「ありがとう存じます」
「あれ、鳳さんがいる!?」
「何で蒲君が来ているのよー!!」
「デジャヴだわ」
鳳兄妹は、同じ部屋に入院していた。兄から離れたら死んでやる!と、騒いだためらしい。
兄は自身の容姿に発狂してしまい、裁判どころではないそうで、付き添いを兼ねて入院しているのだと、仙花が落ち着いて話してくれた。
「謝罪文が届きましたわ。本心ですの?」
「はい。夜香 蘭様、私の片寄った考えで、あなたを傷つけてしまい、大変申し訳ございませんでした。処罰は当然と受け入れたいところですが、出来ることなら、命は、兄ではなく、私から取ってください。お願いいたします」
「貴女の言っている言葉が本心なのか、心を見てもよろしくて?」
「はい」
目を見ての即答だった。本当に心を入れ換えたらしい。
「そう。刑事罰を受けるなら、戻せる限りにはなるけど、戻しましょう」
「本当ですか! ありがとうございます。ありがとうございます」
蘭は、仙花の兄をしっかり眠らせ、戻せるだけ命の光を戻した。仙花の兄は25歳だったらしいが、25歳までは戻せず、それでも、余命1年弱だった老体からは見違える若さになった。
「お兄ちゃん!」
「これが限界ですわ」
「先生、ありがとうございます。本当にありがとうございます。では、早速私から今の分を引いてください」
「その件に関しては、貴女のお母様が支払ってくださるそうですわ。ご連絡なさってね」
「母が!?」
仙花は泣き出した。母親が助けてくれるとは、考えていなかったらしい。
「鳳さん、しっかり罪を償って来てください。僕はいつまでも待ってます」
「蒲君、ありがとう」
蘭がナースコールを押し、看護師が扉を開けに来た。
翌日、鳳夫人が再びお金を持ってきた。今度は7億円全て現金だった。数人の警備つきだ。
「1億円だけいただきます。刑事事件としては罪を償っていただきますが、民事で訴えたりはしませんので、示談成立と致しましょう」
被害者がすでに回復していることや、示談が成立しているということで、後の裁判で、鳳兄妹は、執行猶予がついた。
接近禁止すら希望しなかったので、鳳兄妹は、蘭に直接お詫びとお礼をしに来た。その時に父親の話を聞いた。某大臣であった父親は、死刑廃止論者で、人が人を殺すなんてとんでもないという考えが飛躍しすぎて、死刑囚の命を奪った蘭を邪魔に思い、消そうとしていたらしい。がしかし、母親(妻)から、「死刑が嫌なのに、私刑で誰かを殺すなんて、矛盾に気が付きなさい!」と諭されたのだそうだ。




