掃除
「儂からいくら取れるかね?」
「細かい数字は、先生にお伺いください」
「聞いたら最後、全部取られてしまうではないのか?」
「今は占いの時間なので、12時過ぎにお越しください」
「なんだと」
「兎に角、出直してください」
フリー受付の時間に、受付でもめている老人がいた。助手が断ったが、納得いかない様子だった。
「12時過ぎに来ますかね?」
「どっちでも良いわ」
12時に入り口を開けると、早速乗り込んできた。
「儂からいくら取れるんだ?」
見た目は80歳を越えているように見える。老い先短いだろう老人が、延命希望でなく来るのは、かなりの想定外だ。
「命をお金に変えるのですか?」
蘭は、思わず聞いてしまった。
「そうだ」
相手の落ち着いた返答に、蘭も気を取り直した。
「正確な寿命を見るのに、1日分もしくは1万円必要でしてよ」
「そうか。なら、見てくれ」
早速拝見し、読み上げる。
「あなたの現在の年齢は12歳。12歳!? なにもしなければ寿命は、……不明です」
とても12歳には見えないが、寿命も数字が安定していなく、もやがかかったように正確に読めない。
「何か、なさいましたか?」
「屋敷に伝わる、光る木の実のようなものを食べた。110歳を越えた者に与えると書いてあったんだ。少し前まで112歳だっだ。親しい者も皆死に絶え、儂だけ生き恥をさらすなんて、耐えられん。儂を元の112歳に戻してくれ!」
蘭では判別出来なかったが、屋敷の者が答えてくれた。
「光の玉の保存状態が良くなかったのでしょう」
過去に盗難などで流出した光の玉らしい。夜香家は暫く正統な当主が出なかったと聞いている。いったいいつの時代から受け継がれた物なのだろう。
「様子を見ながらエナジードレインしていきましょう」
3年刻みくらいでエナジードレインをしていった。
「う、なんか、気持ち悪い」
蘭は胸がムカついて、気分が悪かった。普段のエナジードレインは、味や匂いがあるわけではなく、温かく感じるだけなのだが、冷凍焼けした食品を食べたときのような不快感があるのだ。102年分取り、光の玉を作ってみた。
なんともいえない色合いで、光が淀んでいる。
「儂は気分が良くなったぞ!」
「淀んだ光は全て取り除いたので、元の年齢よりも2歳足りないですが、どうされますか? 今なら、6万円でプラスしておきます。あと、この命は買い取れません」
「寿命は?」
「115歳ですね。ですが、このままだとあと1年です。戻すなら、あと3年になります」
「戻さんで良い。あと1年を楽しく生きる」
「わかりました。2年分は、私の未熟と捉え、2万円お支払いたします。この濁った光の玉はお持ち帰りになりますか?」
「要らん。処分しておいてくれ。2万も要らん。迷惑料として受け取るか、どこかに寄付しておいてくれ」
「わかりました。では、曾孫さんに必ずお会いください」
「曾孫か。明日にも呼び出すとしよう」
矍鑠とした老人は、明るい笑顔で帰っていった。
「寿命が要らない御老体って、実在するんですねぇ」
「ええ、色々驚いたわ」
浦島太郎の玉手箱感覚だったのか、そもそも寿命を縮めるつもりだったらしく、それがむしろ食欲が増してしまい、おかしいと気付き、噂を聞いて蘭のところに来たようだ。
1か月後、この老人の曾孫という子供を連れた養父母が来て、事情とお礼の言葉を話していった。生前贈与として、高額のために諦めていた手術費用を出してもらったそうで、ここへはお礼のためだけに来たらしい。




