表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命を奪うと言うこと  作者: 葉山麻代
2章 占い師 夜香 蘭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/62

掃除

「儂からいくら取れるかね?」

「細かい数字は、先生にお伺いください」

「聞いたら最後、全部取られてしまうではないのか?」

「今は占いの時間なので、12時過ぎにお越しください」

「なんだと」

()(かく)、出直してください」

 フリー受付の時間に、受付でもめている老人がいた。助手が断ったが、納得いかない様子だった。


「12時過ぎに来ますかね?」

「どっちでも良いわ」


 12時に入り口を開けると、早速乗り込んできた。

「儂からいくら取れるんだ?」

 見た目は80歳を越えているように見える。老い先短いだろう老人が、延命希望でなく来るのは、かなりの想定外だ。

「命をお金に変えるのですか?」

 (らん)は、思わず聞いてしまった。

「そうだ」


 相手の落ち着いた返答に、(らん)も気を取り直した。

「正確な寿命を見るのに、1日分もしくは1万円必要でしてよ」

「そうか。なら、見てくれ」

 早速拝見し、読み上げる。

「あなたの現在の年齢は12歳。12歳!? なにもしなければ寿命は、……不明です」

 とても12歳には見えないが、寿命も数字が安定していなく、もやがかかったように正確に読めない。

「何か、なさいましたか?」

「屋敷に伝わる、光る木の実のようなものを食べた。110歳を越えた者に与えると書いてあったんだ。少し前まで112歳だっだ。親しい者も皆死に絶え、儂だけ生き恥をさらすなんて、耐えられん。儂を元の112歳に戻してくれ!」

 (らん)では判別出来なかったが、屋敷の者が答えてくれた。

「光の玉の保存状態が良くなかったのでしょう」

 過去に盗難などで流出した光の玉らしい。夜香(やこう)家は暫く正統な当主が出なかったと聞いている。いったいいつの時代から受け継がれた物なのだろう。


「様子を見ながらエナジードレインしていきましょう」

 3年刻みくらいでエナジードレインをしていった。

「う、なんか、気持ち悪い」

 (らん)は胸がムカついて、気分が悪かった。普段のエナジードレインは、味や匂いがあるわけではなく、温かく感じるだけなのだが、冷凍焼けした食品を食べたときのような不快感があるのだ。102年分取り、光の玉を作ってみた。

 なんともいえない色合いで、光が淀んでいる。


「儂は気分が良くなったぞ!」

「淀んだ光は全て取り除いたので、元の年齢よりも2歳足りないですが、どうされますか? 今なら、6万円でプラスしておきます。あと、この命は買い取れません」

「寿命は?」

「115歳ですね。ですが、このままだとあと1年です。戻すなら、あと3年になります」

「戻さんで良い。あと1年を楽しく生きる」

「わかりました。2年分は、(わたくし)の未熟と捉え、2万円お支払いたします。この濁った光の玉はお持ち帰りになりますか?」

「要らん。処分しておいてくれ。2万も要らん。迷惑料として受け取るか、どこかに寄付しておいてくれ」

「わかりました。では、曾孫(ひまご)さんに必ずお会いください」

「曾孫か。明日にも呼び出すとしよう」

 矍鑠(かくしゃく)とした老人は、明るい笑顔で帰っていった。


「寿命が要らない御老体って、実在するんですねぇ」

「ええ、色々驚いたわ」


 浦島太郎の玉手箱感覚だったのか、そもそも寿命を縮めるつもりだったらしく、それがむしろ食欲が増してしまい、おかしいと気付き、噂を聞いて(らん)のところに来たようだ。

 1か月後、この老人の曾孫という子供を連れた養父母が来て、事情とお礼の言葉を話していった。生前贈与として、高額のために諦めていた手術費用を出してもらったそうで、ここへはお礼のためだけに来たらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ