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命を奪うと言うこと  作者: 葉山麻代
2章 占い師 夜香 蘭

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20/62

海外

 派遣されて来ている助手2人と、屋敷からの者を2人連れ、5人でプライベートジェットに乗り、(らん)の知らない国に来た。

 非公式な国賓の扱いらしい。なのでパスポートは取得していない。

 今回は海外なので、いつもの占い師の装いではなく、和装に面をつけている。


 通訳がてらについて来たらしい助手は、普段から人懐っこい態度で、(らん)にも良く話しかけてくる。名を蒲 公英(がもう きみひで)といい、昨年大学を卒業した23歳だ。(らん)は20歳前後の見た目と違い今年で50歳になるが、もし結婚でもして子供がいたら、このくらいの年の子が居るのかしらと少し考えたことがある。

 もう1人の助手は、普段からあまりしゃべらず、(らん)を監視する役目で来ているらしく、仕事は早いが、良く上役に連絡を取っている。名は鳳 仙花(おおとり せんか)という。同じく23歳だ。

 (らん)が人前で呼ぶことはないが、この2人は担当で一緒になることが多く、影でタンポポ君とホウセンカちゃんと呼んで、(らん)は割りと気にいっている。


「先生、食事はどうされますか? 一律にお断りすれば良いですか?」

「ええ、全てお断りなさって」

「かしこまりました」

 公英(きみひで)の次に、仙花(せんか)が質問してきた。

「あの、先生、私たちは、食べてきても良いですか?」

「もちろんよろしくてよ」

 ここで別れ、ホテルの部屋に先に案内された。スイートルームのようだ。


「当主、身にはなりませんが、お食事をされても問題はございません」

「お腹が空かないというのも有るのだけど、人とは違うという自覚をする為にも、食べないでおくわ」

 (らん)が少し寂しそうな目をして、断っていた。

「とーしゅー、探検してきても良いですかぁ?」

「悪い人に見つからないようにね」

「はーい」

 黒猫になり、部屋を出ていった。


 荷物などを片付けおわり、暫くして、(らん)が言った。

「さあ、あなたは隠れていなさい」

「当主?」

 バルコニーの外に閉め出した。


 コンコンコン。

「ルームサービスです」

「頼んでいませんわ」

「ご依頼主からのお届け物です」

 (らん)は仕方なくドアを開けた。すると、まずはナイフが飛んできた。(らん)が軽く避けてやり過ごすと、次はワゴンと一緒に男たちが押し入ってきた。

「オマエ、ヤコ、ラン、コロス」

 片言の日本語で、犯罪予告をして来た。

(わたくし)は、魔女と名高い、夜香 蘭(やこう らん)でしてよ。御存知無く、お仕事を請け負いましたの?」

「オマエが誰であろうと関係ない」

「コロス」

「コロス」

「殺すなら、殺される覚悟もおありということですわね」

 (らん)は、突進してきた賊を眠らせ、エナジードレインし、ほぼ動けなくした。まだ殺してはいない。


「当主!お怪我ございませんか?」

「問題ないわ。でも、これどうしようかしら?」

 (らん)は視線で今倒した賊を示した。数日間の過去を見てみたが、首謀者はわからなかった。


「先生、あれ? 何かありました?」

 開けたままの戸を見たあと、中を見たらしい。

「大丈夫ですか!?」

 公英(きみひで)が食事から帰ってきて、入り口に転がるワゴンと、転がる不審者を見て、何があったのかと驚いて尋ねてきた。

「強盗かしら?」

「え、えー! (おおとり)さん、ボスに連絡して!」

「はい」

 仙花(せんか)も後ろにいたようだ。


 少しして、今回の依頼主が姿を現した。

Ms.(ミズ)ラン。ハジィメマシテ、ヨロシュク、オネガィシマース」

 外国語訛りの強い日本語で挨拶をされた。

「はじめまして、(わたくし)が、夜香 蘭(やこう らん)でございます」

 強盗らしき男たちは、そのまま引き取るというので、寿命を戻さず引き渡した。

 部屋を変更し、助手たちと同じ階に部屋を取り直した。


 黒猫になって出掛けていた屋敷の者が、帰ってきたら当主がいなかったと、むくれていた。それでも匂いを追って新しい部屋にたどり着いたらしい。何があったのか教えると、驚いて謝ってきた。


「とーしゅ、誰に狙われたんですか?」

「わからないわ。私とわかって襲ってきたのは確かだけど、雇い主の情報は持っていなかったわ」


 その日はおとなしく寝ることになり、翌日は依頼主と仕事の為、刑務所に出向いた。


「痛みはありません。1日辺り、60ドル支払います」

 多言語通訳の人が、囚人の母国語に変換し、伝える。

 前もって説明はしてあったらしいが、眉唾物だと思われていたようだ。

 5人が、「どうせ家族の元に帰れないのなら、生きていても仕方がない」と言って、応じるらしい。


 (らん)はさっと囚人の人生を見てみたが、1人だけ犯罪歴が無いように見えた。

「この方、何をして死刑囚なのですか? 犯罪歴が見えませんわ」

 (らん)の言葉を通訳してくれたらしく、看守が書類を持ってきた。そして通訳の人に説明している。

夜香(やこう)さん、第一級殺人罪だそうです」

「どこかに閉じ込められている間に、人を殺したことになっていたようですわね」

 通訳の人がその囚人の母国語で尋ねると、(らん)が言ったのと同じ説明をしたらしい。


 依頼主が呼ばれ、母国語での裁判を約束し、残る4人から、エナジードレインをした。

 事前に聞いてはいたらしいが、実際に見ると怖かったようで、通訳の人が吐いていた。(らん)は自分が人ではないことをますます自覚していくのだった。


 帰り道、買い物をするために、ホテルの手前で下ろして貰った。

「先生、お仕事終わったんですか?」

 蒲 公英(がもう きみひで)が声をかけてきた。鳳 仙花(おおとり せんか)も一緒らしい。

「ええ、終わりましたわ」

 店の入り口で話していては邪魔になるだろうと、脇道に少し移動して話していた。

「帰国の予定は変わりませんか?」

「ええ、(わたくし)に用事はなくてよ」

 その時だった。仙花(せんか)が何者かに拉致され、あっという間に車で連れ去られてしまった。

(おおとり)さん!」

鳳仙花(ホウセンカ)ちゃん」

「当主、どうされますか?」

「恐らく(わたくし)に用があるのでしょう。ホテルに戻りましょう」

「先生、(おおとり)さんを助けてください!」

「ホテルに戻りますわよ」


 すぐにメッセージがあった。そこには、(らん)が1人で郊外にあるゴーストタウンの立体駐車場まで来いというものだった。

「当主、危険です」

「先生、護衛を連れていってください」

「俺、ついてくー」

「そうね」

 結局、全員でゴーストタウンまで来て、(らん)と黒猫が立体駐車場へ行くのだった。


 指定された階まで階段を上ると、仙花(せんか)が椅子に縛られていた。猿ぐつわもされているらしく、こちらに気付いたようだが声をあげない。


夜香 蘭(やこう らん)が来ましてよ」

 (らん)が声をあげると、ゾロゾロと柱の影から男たちが出てきた。

「どういったご用件ですの?」

「この女の命が惜しくば、こちらへ来い」

「そちらの彼女は解放してくださる?」

「お前が素直に来たら解放してやろう」

「では、階を変えませんのこと?」

「良いだろう」


 椅子に縛られている仙花(せんか)を置き去りにし、(らん)は、男たちと階を移動した。このとき、黒猫を残していった。


「それで、何のご用ですの?」

「お前には死んでもらう」

「何だか、聞き飽きましたわ」

 (らん)は、向かってくる男をことごとく眠らせ、軽くエナジードレインをして、昏倒させた。片付いたと思った一瞬だった。

「とーしゅ、危なーい!!!」

 その声と同時くらいに、ナイフが飛んできて、(らん)に、深く刺さった。

 なんと、ナイフを投げたのは、鳳 仙花(おおとり せんか)だった。

「何故?」

「あんたみたいな化物は、死んだ方が良いのよ!!」


 そこに、残してきた蒲 公英(がもう きみひで)ともう1人の屋敷の者が、駆けつけてきた。

「先生、大丈夫ですか!」

「アイツが、アイツがとーしゅにナイフを投げたんだ!」

 そばにいた黒猫が人に変身し、叫んだ。

「何で(がもう)くんが来ているのよー!!」

「当主、残さず、最後まで命を取り、光の玉にしたあと、それをお飲みください」


 転がっている者たちを、絶命するまでエナジードレインしてまわった。2~3人で光の玉がひとつ作れる。まずは1つ飲み込み、傷を治した。そして4人目に手を掛けようとしたときだった。

()めてー! 兄から手を離してー!!」

 仙花(せんか)が叫んだ。

「これは、あなたの兄なの?」

「そうよ!」

「そう。でも、聞けないわ」

「止めてー!!!」

 (らん)は残り1日になるまで命の光を刈り取った。見るからに老化する。


「何でよ、何でなのよ、この化物ー!」

「あなた、喉が乾いた時に、コップに水があったら、それを飲まない?」

「え?」

「人の命なんて、(わたくし)には、コップに注がれた水なのよ」

 (らん)が妖しく笑う。

「いやーー!」

 叫んだ仙花(せんか)が気を失い倒れた。

 (らん)は、仙花(せんか)の兄という男に、少しだけ命を戻した。

「これを拘束して」

「かしこまりました」


「あなたはどうする?」

 (らん)が、公英(きみひで)に尋ねた。黒猫だった屋敷の者が、敵意を向けているのだ。

「あの、僕は、彼女の知り合いではありますが、この件には関わっていません。本当は内緒なんですけど、無実の証明のために、先生に近づいた理由と自分の正体を明かします。母の名は、(はな)と言い、母の旧姓は八仙(はっせん)です」

「え、(はな)さんの息子さんなの? そういえば、似ているわね」

 大学生時代に写した写真を見せてくれた。(らん)八仙 花(はっせん はな)が仲良く笑っている。他に、大分老けた(はな)公英きみひでが一緒に写っている新しい写真もあった。

「資料写真を見て、もしかしてと思って、占いの館に派遣されるように内部試験をクリアしました」

「そう。(はな)さんは元気なの?」

「それなりに元気です」

「そう。良かった。幸せになった人がいて……」


 今回の依頼主を呼び出し、死体の処理を任せた。仙花(せんか)の兄という男だけ、生かしたまま担いで連れて帰った。


「先生、怪我は大丈夫ですか?」

「あなたは、あれを見ても、(わたくし)が恐ろしくないの?」

 公英(きみひで)が、(らん)を心配していた。

「昔、その力で母を助けてもらったと、聞いています。むやみやたら命を欲する訳ではなく、襲ってきた相手からなので、相手の自業自得と考えます」

「そう。ありがとう」


 仙花(せんか)仙花(せんか)の兄は、拘束したまま行きと同じようにプライベートジェットに乗せ、帰ってきた。

 この兄妹は現職大臣の子供だったらしく、(らん)の報告により、大臣は秘密裏に更迭された。表向きは、病気療養となっている。

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