籠盛
ある日、籠盛りの花が届いた。アレンジメントフラワーというものだ。カトレアや薔薇を使ったかなり豪華なタイプで、香りの良いヒヤシンスも入っている。
「先生、このお花、どうしますか?」
「受付に飾ったら良いわ」
「先生の見えるところに飾らなくて良いんですか?」
「ふふ、お客様が落ち着かないわ」
見た目の華やかさの他に、香りも凄いのだ。
「成る程。それにしても、誰からですかね?」
「そのうち見えるでしょう」
午前中の飛び込み客ではなく、午後の予約客に、花の送り主はいた。
「綺麗なお花をありがとう存じます」
「あれ、無記名にしたんですが、流石ですね」
それは、あの、闇カジノで100万円を受け取った青年だった。左腕を三角巾で吊っている。
「先生からの助言で、車に気を付けてこの怪我で済みました。反応が遅かったら、巻き込まれて重傷になるところでした。花は、そのお礼です」
蘭がサービスした分にまで、お礼などのきちんとした反応を返してくる人は珍しい。
「ありがとう存じます。花は、あなたが種類を指定なさったの?」
「カトレアを入れて華やかにと言ったら、どういった相手かと聞かれて、占い師の先生で、夜香 蘭さんって方だよと説明したんです。そしたら、それなら、ヒヤシンスをと言われて、任せました。今日来て看板にヒヤシンスがあるのを見て、流石花屋だなぁと感心しました」
「ふふ、夜香蘭ていうのは、ヒヤシンスの和名なのよ」
「そうなのですか!?」
「勉強熱心な花屋さんですのね」
「花屋を、褒めておきます」
「ふふふ、あなた、素晴らしい行動力ね。それで、今日はどうなさったの?」
「はい。あのカジノで勝った資金を元手に、商売を始めるか、留学をするかで迷っています。助言をいただけると」
「占いで良いのかしら?」
「はい。お願いします」
「商売は、ご友人からのお誘いはお断りなさって、ご自身で決めたものがよろしくてよ。留学は、半年経ってから行き先を決めると、トラブルが減るわね」
「即行動するなら、自分で考えた商売ってことですか?」
「そのような考えでよろしくてよ」
「ありがとうございます!」
自分でも、それに近い予定を組んでいたらしく、即実行すると言って、帰っていった。
「先生、今の人、行動はキザなのに、キザっぽく見えないのは、なんでですかね?」
「格好をつけるためにしている訳ではないからでしょうね」
「え、あれが素なのか!?」
その後助手は、どうやったら素でイケメンになれるのかを、ずっと悩んでいるようだった。
「先生、お花を貰うと嬉しいですか?」
「それは、私に聞いているのかしら、女性はという意味かしら?」
「どちらも知りたいですが、これ、相談になっちゃいますか?」
派遣されてきている助手は、夜香 蘭の客になってはいけないと言われているらしい。
「まあ、良いわ。私は、お花を見るのは好きでしてよ。でも、飾る趣味はないわ。他の女性は、花を貰うのが好きな人が多いけど、なかには植物が嫌いな人や、苦手な種類がある人もいるといった感じかしらね」
「女性に花束って、万能ではないんですね」
「好みは千差万別ね。相手を良く見極めるのが、重要ですわね」
「先生、ありがとうございます」
珍しく予約枠が空いているので、助手たちとおしゃべりをしていた。
「先生、ここの仕事は、自由服と言われてきたんですけど、みんなジャケットを着ていて、少し堅苦しく感じませんか?」
ノーネクタイではあるが、皆自発的にジャケット着用で仕事をしている。
「私からは、何も要望を出しておりませんわ。清潔そうな服であれば、構わなくてよ」
「清潔そうな、あー、ジャケットが無難なのかぁ」
ヨレヨレのTシャツでも着てこない限り、着替えてもらおうとは考えていなかった。
「いずれ、何か考えてみましょう」
そもそも、蘭は、お腹は出していないが、ベリーダンスの衣装のようなハデハデな服装なのだ。占い師っぽい雰囲気を出すためと、フェイスベールをしても違和感の無い服装をと考えたときに、こういう結果になったらしい。
「先生、次の休みはいつですか?」
助手が、お店の休みを確認してきた。
そこへ、今日は休みのはずの助手が、手紙を持って訪れた。
「こちら、緊急で預かって参りました。中身が外国語らしいのですが、大丈夫でしょうか?」
「ええ、一応大学には行ったからね」
「先生、大卒なんですか?」
「卒業はしていないわ。19歳からこの仕事をしているのよ。正式な当主になって、大学どころではなくなってしまってね」
そう話ながら手紙を受け取った。手紙は、某国で、死刑囚に対応してほしいというものだった。
「これ、中身も把握していらっしゃるの?」
「はい。先生の同意があれば、プライベートジェットで迎えに来るそうです」




