賭事
「あの、明日必ず返すので、お金を貸してください」
「こちらは金融業ではございません」
「命を担保に金を貸してくれるんだろ? その担保で、俺に3億円貸してくれ!」
受付で騒いでいるので、蘭が助手に告げた。
「連れていらっしゃい」
「かしこまりました」
連れられてきたのは、20代後半に見える男性だった。
「いったいどうされたの?」
「貴女が、夜香姫か?」
「私、姫と呼ばれていますの?」
「綺麗な若い女で、まるでお姫様のような上品な雰囲気だと聞いている。そして、その通りだと思う」
「まあ、ありがとう存じます。それで、何がございましたの?」
「どうしても3億円必要なんだ。担保も払う。頼む、貸してくれ! いや、貸してください」
「ふふ。まず、少し訂正させていただくわね。ここではお金は貸しません。命の買い取りをしています。質に例えるなら、買い戻しが出来ない質流れしか存在しないのです」
「え、では、俺はどうなるんですか?」
「3億円は、82歳と50日程かしらね。あなたの寿命をもらうと言うことです。お金の返却の必要はありませんわ」
「82歳って、年齢を足したら100越えますけど、俺、そんなに長生きしますか?」
「正確な寿命を見るのに、1万円、もしくは寿命を1日いただきます」
「それは、痛いですか?」
「多少疲れはするようですけど、痛みはありませんわ」
「結果を聞いてから、お金か寿命か選んで良いですか?」
「構わなくてよ」
「お願いします」
「現在の年齢が32歳、なにもなければ寿命は、92歳のようですわ」
「22年足りないのか。駄目か」
「ところで、3億円も何に使いますの?」
「賭事だ。実家を取られ、3億円支払って闇レートの賭けをしなくてはならないんだ」
「勝ったら、どうなりますの?」
「実家を取り戻せる上に相手の財産を奪えるので、プラス5億円くらいになる」
「では、負けたら、全寿命でお支払。勝ったら、5億円のお支払で、いかが?」
「寿命で足りないのはどうするんだ?」
「諦めますわ。勝ったときには、2億円のプラスになりますものね」
「それで頼む!」
助手が、3億円を渡した。ジュラルミンケースに入っていて、札の重さだけで30kgある。
「私も、見学させていただいてもよろしくて?」
「構わないが、危ないぞ?」
「私、割りと無敵ですの」
「では夕方、車で迎えに来るから、用意をして待っていてくれ」
男は急いで帰っていった。
「当主、お戯れを」
「先生、何しに行くんですか?」
「ふふ。先ほどの男性は嘘をついていなかったわ。でも、嘘つきはたくさんいそうよね」
「え」
「あなたの雇い主に、出張店の許可を申請しておいてね」
「かしこまりました!」
夕方、約束どおり車で迎えに来た。
蘭は、乗車を断り、屋敷の者が運転する車でついていくと話し、派遣されてきている助手だけをあちらの車に乗せた。
日ごとに開催場所の違う闇カジノにつき、招待状がないため受付で止められたが、蘭が名を名乗ると、恐れおののき通された。そして噂が会場内にすぐに広まる。
「何故、夜香 蘭が?」
「実在の人物だったのかよ!」
「都市伝説じゃなかったのか!?」
「若い女にしか見えないが、あれで結構年行ってるらしい」
「何しに来たんだ?」
ザワザワと小五月蝿いので、蘭が声をあげた。
「資金でしたら、持ち合わせていましてよ」
助手が持ってきた、3億円入りのジュラルミンケース2つを開けてみせた。
「6億かよ」
「すげーな」
「お初にお目にかかります。夜香 蘭様、本日はお越しくださり、誠にありがとうございます」
支配人らしき男が挨拶に来た。
「飛び入り参加で御免遊ばせ。私は、資金供給と、回収をさせていただこうと思っているわ」
会場がざわつく。
「そちらの方、私が資金を提供しておりますの」
何て所から用立てて来たんだと、更にざわついた。
「賭けに関する占いはしないと、約束をするわ。私から資金を借りたい方がいらしたら、お声がけくださいね」
賭けそのものには参加しないので、会場を見渡せる奥の席が用意された。
「何か、飲まれますか?」
「要らないわ。でも格好がつかないと言うなら、なにか適当にお願いするわね」
「かしこまりました」
美しい色合いのカクテルが提供された。
開始早々は誰も近寄ってこなかったが、とうとう最初の客が来た。
「頼む、1000万円貸してくれ!」
「貸すのなら返却は当日中に1.5倍。買い取りなら寿命を2年と270日ですわね」
「2年? それは、返さなくて良いのか?」
「ええ、寿命をいただきますので、お金はそのままお納めください」
「なら、それを頼む!」
「では、こちらに」
客は蘭のそばに寄ってきた。
助手が契約書にサインを書かせ、蘭がさっと首筋を触り、エナジードレインをした。
「1000万円お渡しして」
「かしこまりました」
助手が、10束の帯札を渡した。1000万円だ。
「本当に返さなくて良いんだな?」
お金を抱え込み、確認してくる。
「ええ、もう、いただきましたので」
蘭が微笑むと、走って去っていった。
次に来たのは、大学生くらいに見える若い男だった。
「あの、返す予定のないお金を提供してくれるんですか?」
「ええ、寿命と引き換えにお渡しいたしますわ」
「レートはどうなっていますか?」
「1日1万円でしてよ」
「100万円もらったら、100日寿命が縮むということですか?」
「その通りでしてよ」
「ちなみに、どのくらい寿命があるかはわかるのですか?」
「正確な診断は、1日分もしくは1万円でしてよ」
「見てください。1日分で支払います」
「よろしくてよ。あなたの現在の年齢は、24歳。何もなければ78歳ですわね。これはサービスですけど、車にお気をつけ遊ばせ」
「はい。わかりました。じゃあ、100万円お願いします」
「では、101日分ですわね」
さっと首筋を触り、エナジードレインをした。
「こちらに100万円をお渡しして」
助手が、帯札を1束手渡した。
そして、100万円から3000万円くらいの客が多数来て、大分賑わった。2、3度来た者も居る。
「当主、資金が足りないかもしれません」
残金が1億数千万円になったのだ。
「大丈夫よ。5億円持ち帰りがあるわ」
「先生、勝つのわかっていたんですか?」
「ふふ、内緒」
蘭の予定どおり、3億円を借りた男性は勝負に勝ち、相手の土地の権利書などを持ってきた。
「お納めください」
「あら、土地の権利書なのね。こちら、売ってもよろしくて?」
「はい。所有権をお渡しします」
「こちらの権利書を、現金化してくださる方はいらっしゃいませんか?」
蘭の呼び掛けに名乗り出た相手は、即金は無理だが、6億円で買い取ると言った。
蘭は、3億円を貸した男に、現金1億円を渡した。建て直しの資金になると言って物凄く感謝された。
後日、蘭の店に、現金6億円を持ってきた相手に権利書を渡し、この取引が終了した。
「先生、資金減っていないんですね!」
「うふふ」
持ち出しは3+6=9、回収が6なので、放出した金額が9億円、現金で回収したのが6億円、エナジードレインで回収したのが5億円分ある。資金としては、減っていないわけではないが、蘭は妖しく微笑み、助手に解説しなかった。




