友情
「あ、あの、我ら3人の寿命を少しずつ削って、友人を助けてください!」
大学生くらいの若い男性が押し掛けてきた。
「学生はお断りですわ。それにね、寿命を奪うのは可能ですけど、成人、未成年問わず、与えるのは出来ませんのよ」
「え、そんな、与えられた人がいるって聞いたのに」
「以前も言われたのだけど、それはどのようなお話ですの?」
3人は、それぞれが聞いたと言う話を、披露してくれるらしい。
「僕が聞いたのは、ミイラのようになってしまった人を若く戻した。です」
「俺が聞いたのは、入院しても治らなかった死にそうな人に見舞いに来て、元気になったと言う話でした」
「私は、大金を払ったら、30歳若返ったと聞きました」
確かに、蘭にはどれも心当たりがあった。
「そうね、まあ、心当たりがないわけでもないわね。でもね、そのお話のどれも、前提条件が抜けているわね」
蘭は、プライバシーに接触しない程度で、訳を話した。
「だから、引かれたものを戻しただけなのよ。引かれていないところに足すことは出来ないの」
「そんなぁ」
「お友達さんは、ご病気なの?」
「病気と言えば病気ですが、原因は不明らしいです」
「あら、そうなの? それなら、何か出来るかはわからないけど、情報のお礼に1度伺ってみましょう」
「ありがとうございます!」
蘭は、早速夕方から出掛けることにした。
派遣されている助手と、屋敷から来ている者の他、件の3人も、案内を兼ねてついてきた。
病室に入ると、空気が黒く淀んでいた。その黒さが1番濃いのが患者の回りであり、黒い空気の後ろには、揺らめく白っぽい影が多数ある。どうやら人間たちには見えないようだ。
「あなたは見える?」
蘭は、屋敷から来ている者に尋ねた。
「当主、あれは怨霊です。悪霊と、生き霊も多数います」
「やはり、そういうのなのね。話を聞けるかしら?」
「当主なら、可能かと」
「そう。なら試してみるわね」
「あなたたち、その人についている訳を話してくれるかしら?」
生き霊は、『呪う、呪う』や『許さない』と呟くだけで、単語しか話せないようだったが、怨霊と言われた霊は、蘭の要請に応じてくれた。
『おぬしは人ではない者だな。我は呪いによって遣わされた。こやつは数多の者から恨みを買っておる。生き霊は全て、こやつに陥れられた者だ。夜になればさらに増える』
「どうもありがとう」
怨霊さえ呆れる情況らしい。
派遣されている助手が、蘭が1人でしゃべっているので、困り果て、声をかけてきた。
「先生、何かわかったのですか?」
「わかったわよ。でもね、そちらの3人には、ショックな話だと思うわ」
「治らないんですか?」
「そういう方向の話ではないわね。その彼女の状態の話ね」
「聞かせてください!」
案内でついてきた他の2人も同意して、首を縦に振っていた。
「彼女は、病ではなく。恨みによって呪われていますわ。それも、1人や2人からではなく、現時点でも7人以上からね。多数ついている生き霊は、許さないと呟いているわ」
「そ、そんなぁ」
「なんで、純真無垢な彼女が」
「逆恨みなのか?」
「何故こうなっているのか占いで見ても良いけど、あなた方に支払えるかしら?」
若者3人は、逆恨みであると考え、公正な立場から見てもらおうと話し合っていた。
「払います!」
「俺も払う!」
「じゃあ、僕も」
「合計で、10万円で良いわ」
蘭は、呪われている彼女が何をして、多数から呪われているのかを見てきた。10年程の過去見だ。
「現在22歳。ご友人のお付き合いしている方に横恋慕して、嘘の噂を流して破局させたり、人を陥れたりが日常茶飯事のような生き方をされているわね。一番強い悪霊さんは、大金を騙し取られたベンチャー企業の社長さんね。自殺されているわ。話に応じてくれた怨霊さんは、この彼女の悪質ないたずらで子供を失った女性からの依頼で、呪いの本職が送ってきたようね」
「そんな、まさか」
信じられないらしく、3人は戸惑っているようだった。
「ふふ。あなた方が以前お付き合いされていた女性とお別れしたのは、どうしてかしら?」
蘭にそう言われ、思い至ったらしい。全ては、この女から聞かされたことだと。
「本当に本当の事なんだ」
「俺たちは、馬鹿だったのか」
「早く謝らなければ」
3人は、目が覚めたようだった。
「ご自分の命は、大切になさってね」
「ありがとうございました。現金が足りないので、必ず明日支払いに行きます」
「はい。お持ちしているわね」
学生たちは、先に退室していった。
「当主、何故助けたのですか?」
「助けていないわよ? 私、人を陥れる嘘をつく人間は、大嫌いですの」
蘭が、本当の意味で夜香 蘭になったのは、騙されたからだ。反撃すら出来ないうちに、その相手は殺されてしまった。悪意をもって人を陥れるような輩は、蘭には永遠に許せないのだろう。
「明日、支払いに来たら、その予算は、あなたの愛しい女性と一緒にお使いなさい。と、伝えてくれるかしら?」
「かしこまりました」
蘭は、覚悟をみるために言ったのであって、学生から支払ってもらうつもりはなかったのだ。




