子供
占いも、寿命の買取も、年齢制限をしており、未成年者は受け付けない。だがしかし、予約ではない訪問で訪れる者がいる。
「お母さんの寿命を伸ばしてください」
「何故?」
「来週お姉ちゃんの結婚式なの」
小学生くらいの女児が、貯金箱を握りしめてやってきた。
「私は、人の寿命を奪うことはできるけど、増やすことは出来ないわ」
「え」
絶望した顔をして、固まってしまった。やがて助手が駆けつけてきて、蘭から女児を保護していった。
「先生、そうなんですか?」
「コップに入っている水を飲むことは出来ても、溢れそうな小さいコップに水を足すことは出来ないでしょ?」
「あ、そういう理屈なんですね。だから、戻すのは可能なのかぁ」
「厳密に言うと、100取った人に、100戻せるわけではないのよ。コップの例えで言うなら、水の無くなったコップは、水の無い場所が枯れていくの。早ければ100に近い数字になるけど、時間が経てば経つほど、上限が下がっていくのよ。100戻せるのは、当日中ね」
「先生、減らしたことの無い人に、増やそうとするとどうなるのですか?」
「試したことがないわ。減らした人に戻すときに、上限が低いと感じたことはあるけどね。あ、ひとつ、毒のために減った人は、増やせるかもしれないわ」
「そうなんですか!?」
「毒を盛られたのなら、本来の寿命より、器に対して中身が減るからね」
翌日、女児を保護した助手が、女児の状況を伝えてきた。
母親は、寝たり起きたりの入院生活で、その夫(父親)が甲斐甲斐しく看病しているが、なかなか良くならず、病院でも有名な家族らしい。
「少し気になるわね」
「先生、何か可笑しなところがありますか?」
「時間取って見に行きましょうか」
助手の雇い主に許可を取り、病院の面会時間外に、訪問した。面会時間外だと言うのに、患者の夫は付きっきりで、何かしていた。
「ごきげんよう。お見舞いに参りましたの」
「PTA の方ですか?」
「そんな感じですわ。少し席を外してくださる?」
蘭の気高い雰囲気に、男は圧倒されていた。
「え、あ、まあ、わかりました」
不本意だと言いたげに、退室していった。
「私が話すことがお分かりになります?」
「はい。あの、どちら様ですか?」
酸素マスクをしていて、声がくぐもっている。
「私は、夜香 蘭。あなたのお子さんが、あなたの寿命を伸ばしてほしいと、貯金箱を握りしめて、私のところに来ましたのよ」
「え、それは、とんだご無礼を」
「いえ、それはよろしいのですわ。あなた、体にかなり毒を溜め込んでいらっしゃるわね。何て言いましたかしら、そう、あなたの夫、代理ミュンヒハウゼン症候群ですわね」
「え?」
「病気なのは、あなたではなく、あなたの夫ですわね。試しに、夫を含めて、面会謝絶にしてみるとよろしくてよ。あなたからの申し出があれば、病院もそれを実行するようにしておきますわね」
「え?」
「それでは、ごきげんよう」
蘭が退室したあと助手が、「あの人は本物の魔女だから、少し言うことを聞いてみると良いですよ」と助言してきた。
翌日から強制転院し、家族を含め絶対安静面会謝絶の対応になった。
2週間後、助手に連れられた子供が、再び訪ねてきた。
「お姉さんありがとうございます。お母さん元気になりました。お姉ちゃんの結婚式にも出席できました。これで支払います」
再び貯金箱を提出してきた。
「未成年者からは受け取れないわ。あなたが大人になったら支払ってちょうだい」
「はい。必ず払いに来ます!」
女児は、ニコニコして帰っていった。尚、父親は、女児の姉の結婚式の直後から、精神科に強制入院になったそうだ。母親は一時退院のあと、まだ入院はしているが、順調に回復している。女児は、姉が面倒を見ているらしい。
自分が神風 龍一に救ってもらった頃と同年代の女児を見て、蘭は女児を助けたかったようだ。




