奪命
占いをしたり、軽いエナジードレインをしたり、蘭にとっての日常を過ごしていたが、訃報が入った。
神風 龍一が、暴漢に襲われたらしい。犯人不明で、捜査に一切の進展がないそうだ。
「先生、神風さんが」
「あなたの雇い主に、確認をしていただけるかしら?」
「なんでしょうか?」
「犯人の命を奪っても良いのかを」
「至急、確認して参ります!」
助手は慌てて出ていき、回答を持って即帰ってきた。
出来れば殺さないでほしいが、身の危険を感じた場合は、その限りではない。という回答だった。
そしてすぐに来た。延命希望のあの男が。
「どうだ気が変わったか?」
「何の事でございますか?」
「まだ強情を張るのか!」
「何かございましたか?」
「神風 龍一が死んだのは、お前のせいだな」
男がニヤリと笑った。
犯人だという言質がとれ、蘭は態度を変えた。
「あなたの寿命、あと10年もないのね。こちらへいらっしゃい」
優しく微笑んだ蘭を見て、安心したらしい。
「やっとその気になったか」
勘違いし、近寄ってきた男の首筋を、蘭が触った。一気に男が萎んでいく。そして座るのがやっとと言う状態になった。
「あと1日ね。御愁傷様」
「何をするんだ。早く戻せ」
弱々しくわめき散らすが、ひょいと避けた蘭に、手すら届かない。
蘭が、助手を呼んだ。
「あなたの雇い主に差し出すわ。1日しか持たないけどね」
「か、かしこまりました」
助手が慌てて連絡する声が聞こえた。
お金で寿命を売り渡す人。お金で寿命を買いたい人。色々な人がいる。段々と人の心を無くしていく蘭に、脅しは逆効果だ。
とうとう蘭を育ててくれた大切な人がいなくなってしまった。それによって蘭は、一気に人の心を失っていく。
蘭の助手をしている者の雇い主から、オファーがあった。「死刑囚の命を奪うのはどうか?」と。
本人と対面し、本人が了承した場合のみ、受け付けると返答した。
対面前日。執行予定の死刑囚に、個別の通達がされた。
特殊な方法で、痛みも苦しみもなく今すぐの死刑を受けるなら、残りの寿命相当の日数×1万円を遺族に渡す。というものだ。
死刑執行など、滅多に実行されないと、たかをくくっていた死刑囚は驚いた。刑務作業もなく本を読んでいられる生活を、心地よいと感じている者と、怯える毎日から早く逃れたいと考えている者と、色々いるのだ。
何よりも、執行官の心的負担が一番の問題らしく、出来ることなら、全ての死刑囚を引き受けてほしいらしい。
経緯を理解し、名乗りを上げた数人から、絶命するまでのエナジードレインをした。あの女のように、塵になって消えたりはしなかったが、蘭に残る僅かな人の心は完全に壊れていった。
目の前で、人が死んでいく。自分のしたことで、人が死んでいく。蘭には全く関係の無い人間が、死んでいく。5人を超える頃、蘭は無心になった。
作業としての奪命。あの女に与えた死は、慈悲だった。でもこれは違う。単なる作業だ。
僅かに残る人の心を完全に無くしてしまうには充分だった。そして、蘭は人間ではないことをはっきり自覚した。
その作業が終る頃、助手が支払いをし、帰る時には刑務官たちには敬礼され、見送られた。
人を殺して褒められ、有り難がられ、己の存在意義を呪った。




