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命を奪うと言うこと  作者: 葉山麻代
2章 占い師 夜香 蘭

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奪命

 占いをしたり、軽いエナジードレインをしたり、(らん)にとっての日常を過ごしていたが、訃報が入った。

 神風 龍一(かみかぜ りゅういち)が、暴漢に襲われたらしい。犯人不明で、捜査に一切の進展がないそうだ。


「先生、神風(かみかぜ)さんが」

「あなたの雇い主に、確認をしていただけるかしら?」

「なんでしょうか?」

「犯人の命を奪っても良いのかを」

「至急、確認して参ります!」


 助手は慌てて出ていき、回答を持って即帰ってきた。

 出来れば殺さないでほしいが、身の危険を感じた場合は、その限りではない。という回答だった。


 そしてすぐに来た。延命希望のあの男が。

「どうだ気が変わったか?」

「何の事でございますか?」

「まだ強情を張るのか!」

「何かございましたか?」

神風 龍一(かみかぜ りゅういち)が死んだのは、お前のせいだな」

 男がニヤリと笑った。

 犯人だという言質がとれ、(らん)は態度を変えた。

「あなたの寿命、あと10年もないのね。こちらへいらっしゃい」

 優しく微笑んだ(らん)を見て、安心したらしい。

「やっとその気になったか」

 勘違いし、近寄ってきた男の首筋を、(らん)が触った。一気に男が萎んでいく。そして座るのがやっとと言う状態になった。

「あと1日ね。御愁傷様」

「何をするんだ。早く戻せ」

 弱々しくわめき散らすが、ひょいと避けた(らん)に、手すら届かない。


 (らん)が、助手を呼んだ。

「あなたの雇い主に差し出すわ。1日しか持たないけどね」

「か、かしこまりました」

 助手が慌てて連絡する声が聞こえた。


 お金で寿命を売り渡す人。お金で寿命を買いたい人。色々な人がいる。段々と人の心を無くしていく(らん)に、脅しは逆効果だ。


 とうとう(らん)を育ててくれた大切な人がいなくなってしまった。それによって(らん)は、一気に人の心を失っていく。



 (らん)の助手をしている者の雇い主から、オファーがあった。「死刑囚の命を奪うのはどうか?」と。

 本人と対面し、本人が了承した場合のみ、受け付けると返答した。


 対面前日。執行予定の死刑囚に、個別の通達がされた。

 特殊な方法で、痛みも苦しみもなく今すぐの死刑を受けるなら、残りの寿命相当の日数×1万円を遺族に渡す。というものだ。

 死刑執行など、滅多に実行されないと、たかをくくっていた死刑囚は驚いた。刑務作業もなく本を読んでいられる生活を、心地よいと感じている者と、怯える毎日から早く逃れたいと考えている者と、色々いるのだ。

 何よりも、執行官の心的負担が一番の問題らしく、出来ることなら、全ての死刑囚を引き受けてほしいらしい。


 経緯を理解し、名乗りを上げた数人から、絶命するまでのエナジードレインをした。あの女のように、塵になって消えたりはしなかったが、(らん)に残る僅かな人の心は完全に壊れていった。


 目の前で、人が死んでいく。自分のしたことで、人が死んでいく。(らん)には全く関係の無い人間が、死んでいく。5人を超える頃、(らん)は無心になった。

 作業としての奪命。あの女に与えた死は、慈悲だった。でもこれは違う。単なる作業だ。

 僅かに残る人の心を完全に無くしてしまうには充分だった。そして、(らん)は人間ではないことをはっきり自覚した。


 その作業が終る頃、助手が支払いをし、帰る時には刑務官たちには敬礼され、見送られた。


 人を殺して褒められ、有り難がられ、己の存在意義を呪った。

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