仕事
占いの場所を移転した。
午前中は、一般客を30分間に1組ずつの6組。
午後3時からは、予約客を30分間に1組ずつの6組。
蘭は9時から12時と15時から18時を占いの仕事場で過ごし、それ以降の時間は、出張で対応していた。
出張する条件は、食事を絡めないこと。大人数を同席させないこと。
いずれの場合も、蘭に対し、嘘をつかないこと。
料金は、年収の100分の1で、最低料金は1万円から。未成年者と学生は基本的に受け付けない。
料金が跳ね上がったことで、気軽には来られなくなり、客数は、大幅に減った。
同時期に、怪しいアルバイトの募集があった。
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◎あなたの寿命買取ります◎
内容 1日分で1万円
作業は30分弱寝ているだけ
応募条件 成人していること
余命宣告を受けていないこと
怪我や重病ではないこと
本人の意思であること
日時 12時から14時迄にお越しください。
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初の希望者が現れた。助手が対応する。
「あの、寿命の買取は本当ですか?」
「本当です。何日がご希望ですか?」
「給料1か月分で!」
「それは、具体的においくらですか?」
「あ、そうか。俺の給料なんて知らないよな。50万円だ」
大見栄を張って、その男性はかなり多く言った。
「はい。では、そこのベッドに横になってください」
「服は脱ぐのか?」
「寝転がるのに窮屈ではない程度の服装で結構です」
言われた通り上着だけを脱ぎ、診察台のようなベッドに横になった。丁寧だが抑揚の無いしゃべり方の係員が不気味である。
男が横になり待っていると、若い綺麗な女が来て、首筋を触り、そして出ていった。すると係員が戻ってきた。
「はい。終りました。こちら封筒の中身を確認してください」
「え、もう終ったのか!?」
「帰って構いません。今日は、静かにお過ごしください」
「お、おう」
慌てて封筒を確認すると、本当に50万円入っていた。
「次に来るなら、1月以上空けてください」
「おうー!」
浮かれたまま帰っていった。
この男が話を広めたらしく、ポツポツと希望者が来るようになった。
しばらくは100万円以下の、働かずに現金収入という考えの者が来ていたが、とうとうやってきた。大金希望の客が。
「いくらでも良いのか?」
「あなたが支払えるのなら、いくらでも構わないそうです」
「支払いはそっちだろ?」
「あなたの命の限り可能です」
「なら、1000万円でも良いのか?」
「私にはわかりかねるので、先生を呼んで参ります。可能の範囲は、先生にお尋ねください」
「わかった」
蘭が黒いフェイスベールをして登場した。
「何か質問があるそうですね」
「あんたが先生か? 最大いくらまで可能なんだ?」
「正確な数字を見るのに、1万円かかりますが、およそで良いのなら、1億円くらいは可能ですね」
さっと寿命を見ると68歳だった。この客は現在35歳らしい。
「それ全部頼む」
「わかりました。1万日分なので、少しお休みになってからお帰りくださいね」
「そうか。わかった」
「戻すことは叶いませんので、ご承知おきくださいね」
「わかった」
助手が来て、契約書にサインをさせていた。100万円を超える場合、本人の同意があり、返却できないことを納得している旨に、署名させるのだ。
蘭は、首筋を触り、1万日分のエナジードレインをした。男性は見てわかる程老け、げっそり痩せ細った。
「終りました。少し寝ていかれると良いですわ」
「そうするよ。なんだか、物凄く疲れた」
27年と4か月と15日分を一気に老けたのだ。鏡を見たとき、己の浅はかさを知ることだろう。
1億円の入ったアタッシュケースを用意し、ベッドの横に置いておいた。
2時間ほど休み、ヨロヨロとよろけながら、重たいアタッシュケースを持って帰っていった。1億円は札の重さだけで10kgある。
翌日、その男の妻という女が怒鳴り込んできた。
「あんたたち、何をしたのよ!」
「どちら様ですか?」
「うちの旦那が、老人になって帰ってきたのよ! 聞けば、寿命を売ってきたって、どう言うことなのよ!」
助手が契約書を待ってきて見せた。
「この通り、ご本人の意思ですので、ご本人とお話し合いください」
「こんなのおかしいわ!」
「1億円という対価を支払いました。これ以上騒ぐなら、摘まみ出しますよ」
この女は、その1億円すら持参していない。
「喧嘩したのよ。あの人が働かずにダラダラしているから。死にものぐるいで働いてって頼んだけど、これは違うわよ!」
「そうですか」
「返してよ! 返してよ! あの人の若さを返してよ!」
「どうしても返却希望なのでしたら、3億円で承ります」
「なんで3倍になるのよ!」
「タダで出来る物など、無いのです」
「うわーーん!」
泣き出してしまい、警備担当者が摘まみ出した。
「やっぱりもめましたね」
「そうね」
「わかっていたなら、なんで断らなかったのですか?」
「断る理由はないからね。5年以上残したのが、むしろ私の優しさだわ」
「あの人、あと5年くらいの命なんですか?」
「そうね」
「1万円払って、寿命聞けば良いのに」
「聞かないでしょうね。寿命をお金に変える選択肢をするくらいだからね」
「成る程そうですね」
この噂が出回っても、命を小金に変える人は、途絶えたりはしなかった。
ここのスタッフは、蘭の屋敷の者と、政府から派遣されている口が固い人間がいる。蘭に色々聞くのは、政府から派遣された人間のスタッフだ。報告義務があるのだろう。
噂が広まり、そして次に来るのは、金を寿命に変えたい人種だ。
「いくらでも出す。寿命を伸ばしてくれ」
「そういったご用件は、お引き受けしておりません」
「知っているぞ。お前が寿命を与えた人間を」
「何の事をおっしゃっているのかわかりかねますが、それならどうだとおっしゃるのですか?」
「そいつらの命が危ないかもな」
「私には関係の無い人物が、危険になろうと構いませんが?」
「なんだと! 覚えてろよ!」
「先生、助けなくて良いんですか?」
「私に怪我や毒の治療はできません。本当に何も出来ないのです」
「狙われる恐れのある人は、誰ですか?」
「神風 龍一と八仙 花と飛 信子ですわね」
「警備をつけますか?」
「警告だけしてください」
「かしこまりました」




