表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命を奪うと言うこと  作者: 葉山麻代
2章 占い師 夜香 蘭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/62

仕事

 占いの場所を移転した。

 午前中は、一般客を30分間に1組ずつの6組。

 午後3時からは、予約客を30分間に1組ずつの6組。

 (らん)は9時から12時と15時から18時を占いの仕事場で過ごし、それ以降の時間は、出張で対応していた。

 出張する条件は、食事を絡めないこと。大人数を同席させないこと。

 いずれの場合も、(らん)に対し、嘘をつかないこと。

 料金は、年収の100分の1で、最低料金は1万円から。未成年者と学生は基本的に受け付けない。


 料金が跳ね上がったことで、気軽には来られなくなり、客数は、大幅に減った。


 同時期に、怪しいアルバイトの募集があった。


 ━━━━━━━━━━━━━━

 ◎あなたの寿命買取ります◎

 内容   1日分で1万円

      作業は30分弱寝ているだけ

 応募条件 成人していること

      余命宣告を受けていないこと

      怪我や重病ではないこと

      本人の意思であること

 日時   12時から14時迄にお越しください。

 ━━━━━━━━━━━━━━


 初の希望者が現れた。助手が対応する。

「あの、寿命の買取は本当ですか?」 

「本当です。何日がご希望ですか?」

「給料1か月分で!」

「それは、具体的においくらですか?」

「あ、そうか。俺の給料なんて知らないよな。50万円だ」

 大見栄を張って、その男性はかなり多く言った。

「はい。では、そこのベッドに横になってください」

「服は脱ぐのか?」

「寝転がるのに窮屈ではない程度の服装で結構です」

 言われた通り上着だけを脱ぎ、診察台のようなベッドに横になった。丁寧だが抑揚の無いしゃべり方の係員が不気味である。


 男が横になり待っていると、若い綺麗な女が来て、首筋を触り、そして出ていった。すると係員が戻ってきた。

「はい。終りました。こちら封筒の中身を確認してください」

「え、もう終ったのか!?」

「帰って構いません。今日は、静かにお過ごしください」

「お、おう」

 慌てて封筒を確認すると、本当に50万円入っていた。

「次に来るなら、1月(ひとつき)以上空けてください」

「おうー!」

 浮かれたまま帰っていった。

 この男が話を広めたらしく、ポツポツと希望者が来るようになった。


 しばらくは100万円以下の、働かずに現金収入という考えの者が来ていたが、とうとうやってきた。大金希望の客が。


「いくらでも良いのか?」

「あなたが支払えるのなら、いくらでも構わないそうです」

「支払いはそっちだろ?」

「あなたの命の限り可能です」

「なら、1000万円でも良いのか?」

「私にはわかりかねるので、先生を呼んで参ります。可能の範囲は、先生にお尋ねください」

「わかった」


 (らん)が黒いフェイスベールをして登場した。

「何か質問があるそうですね」

「あんたが先生か? 最大いくらまで可能なんだ?」

「正確な数字を見るのに、1万円かかりますが、およそで良いのなら、1億円くらいは可能ですね」

 さっと寿命を見ると68歳だった。この客は現在35歳らしい。

「それ全部頼む」

「わかりました。1万日分なので、少しお休みになってからお帰りくださいね」

「そうか。わかった」

「戻すことは叶いませんので、ご承知おきくださいね」

「わかった」

 助手が来て、契約書にサインをさせていた。100万円を超える場合、本人の同意があり、返却できないことを納得している旨に、署名させるのだ。


 (らん)は、首筋を触り、1万日分のエナジードレインをした。男性は見てわかる程老け、げっそり痩せ細った。

「終りました。少し寝ていかれると良いですわ」

「そうするよ。なんだか、物凄く疲れた」

 27年と4か月と15日分を一気に老けたのだ。鏡を見たとき、己の浅はかさを知ることだろう。

 1億円の入ったアタッシュケースを用意し、ベッドの横に置いておいた。

 2時間ほど休み、ヨロヨロとよろけながら、重たいアタッシュケースを持って帰っていった。1億円は札の重さだけで10kgある。


 翌日、その男の妻という女が怒鳴り込んできた。

「あんたたち、何をしたのよ!」

「どちら様ですか?」

「うちの旦那が、老人になって帰ってきたのよ! 聞けば、寿命を売ってきたって、どう言うことなのよ!」

 助手が契約書を待ってきて見せた。

「この通り、ご本人の意思ですので、ご本人とお話し合いください」

「こんなのおかしいわ!」

「1億円という対価を支払いました。これ以上騒ぐなら、摘まみ出しますよ」

 この女は、その1億円すら持参していない。

「喧嘩したのよ。あの人が働かずにダラダラしているから。死にものぐるいで働いてって頼んだけど、これは違うわよ!」

「そうですか」

「返してよ! 返してよ! あの人の若さを返してよ!」

「どうしても返却希望なのでしたら、3億円で承ります」

「なんで3倍になるのよ!」

「タダで出来る物など、無いのです」

「うわーーん!」

 泣き出してしまい、警備担当者が摘まみ出した。


「やっぱりもめましたね」

「そうね」

「わかっていたなら、なんで断らなかったのですか?」

「断る理由はないからね。5年以上残したのが、むしろ私の優しさだわ」

「あの人、あと5年くらいの命なんですか?」

「そうね」

「1万円払って、寿命聞けば良いのに」

「聞かないでしょうね。寿命をお金に変える選択肢をするくらいだからね」

「成る程そうですね」


 この噂が出回っても、命を小金に変える人は、途絶えたりはしなかった。


 ここのスタッフは、(らん)の屋敷の者と、政府から派遣されている口が固い人間がいる。(らん)に色々聞くのは、政府から派遣された人間のスタッフだ。報告義務があるのだろう。


 噂が広まり、そして次に来るのは、金を寿命に変えたい人種だ。

「いくらでも出す。寿命を伸ばしてくれ」

「そういったご用件は、お引き受けしておりません」

「知っているぞ。お前が寿命を与えた人間を」

「何の事をおっしゃっているのかわかりかねますが、それならどうだとおっしゃるのですか?」

「そいつらの命が危ないかもな」

(わたくし)には関係の無い人物が、危険になろうと構いませんが?」

「なんだと! 覚えてろよ!」


「先生、助けなくて良いんですか?」

(わたくし)に怪我や毒の治療はできません。本当に何も出来ないのです」

「狙われる恐れのある人は、誰ですか?」

神風 龍一(かみかぜ りゅういち)八仙 花(はっせん はな)飛 信子(とび のぶこ)ですわね」

「警備をつけますか?」

「警告だけしてください」

「かしこまりました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ