別離
八仙家につき、猫のまま門を潜り抜けた。
庭で日向ぼっこをしている八仙 花を見つけ、近寄った。
「あら、可愛い猫ちゃん。こっちにおいで」
猫の姿の蘭は近寄り、抱っこされた。「花眠って」と考えていると、八仙 花がうとうとし始めた。
完全に眠ってしまったのを確認し、猫から蘭に戻り、そっと抱き締め命の光を戻し生命力を与えた。
八仙 花が昔の姿を取り戻し、蘭が去ろうとしたとき、腕を捕まれた。
「お前、何しに来た!」
父親の怒鳴り声に、娘が目を覚ます。
「どうしたの? お父さん」
顔を上げた八仙 花は、年相応の若い姿で、父親を見上げていた。
「花、花、元に戻ったのか!?」
娘を抱き締めるために、蘭の腕を離した。
「可愛い猫ちゃんと遊んでいたら、眠っちゃったの」
「元に戻っているぞ花、姿が元に戻っている!」
立ち去る蘭の耳に、家族の喜びの声が聞こえていた。しかし蘭に喜びはなく、贖罪の気持ちでいっぱいだった。
次に、神風 龍一の入院先に来た。ギリギリ生きているらしきその姿に謝りながら抱きついて命の光を戻し、生命力を注ぎ込んだ。
「お父さん。今までありがとう。何も恩返しできないままでごめんなさい。そしてさようなら」
知っている姿に戻ったのを確認し、ナースコールを押してから、目を開ける前に退散した。
その次に、飛 信子を訪ねた。
やはり家族に追い払われたので、猫になり侵入した。
神風 龍一と違い、飛 信子は普通に生活をしていた。ただし、年老いた姿で。
「にゃー」
「あらあら、どこから来たの?」
座り込んで猫を呼び、頭を撫でてくれた。「飛さん、ねむって」と考え、飛 信子を眠らせ、蘭に戻って命の光を戻し、生命力を与え、家族の足音を聞き、黒猫に戻った。
「母さーん、母さーん、どこー?」
「何を騒いでいるの」
「あ、母さん、ここにいたのか、あれ? 母さん、若くなってる!?」
蘭は、黒猫のまま、その場を去った。
申し訳なくて、神風の家になど帰れない。帰るべき場所もなくなり、仕方なく、夜香家に来た。
「夜香 蘭様、お待ちしておりました」
「あなたは誰?」
スッと小さくなって黒猫になり、また人に戻った。
「案内してくれた、黒猫さん!?」
「左様でございます」
「私を待っていたの?」
「正当な当主の誕生に、我ら一同、歓喜しております」
「我らって?」
「それはおいおい」
「私はここに居て良いの?」
「もちろんでございます」
「ありがとう」
屋敷に戻ると、男の死体が気になった。あれをあのままにしておくわけにはいかない。
「あの部屋の、どうしたら良いかしら」
「死体でしたら、我らが始末いたしましたので、ご安心ください」
「そうなの?」
「それよりも、当主として、教育をお受けください」
「わかったわ」
講師は、昔からこの家に勤める爺やだった。
「蘭お嬢様、お久しゅうございます」
「私が小さい頃に、良くお庭の手入れをしていた爺や?」
「左様でございます」
永らく完全体になる当主が出なかったが、蘭が完全体の当主として君臨するために、するべきことなどが教えられた。
すでに、人間ではないことを自覚すること。
命の吸い上げは、躊躇しないこと。
分け与えるべきは、見極めること。
相手の寿命は、報酬無しで話さないこと。
未来視で見えても、全ては伝えないこと。
味覚はあるが、食品は、毒にも栄養にもならないこと。
毒殺はないが、刺殺はあり得ること。
人の血液に相当する物が全て流れ出たら、死亡すること。
光の玉は、100年単位で作ること。
死んでしまった人間を生き返させることはできないこと。
命を分け与えると、癌細胞を活性化させる恐れがあること。
人は、その心も体も脆弱であること。
出産をすると、寿命が残り50年になること。
寿命は1000年以上あるが、なにもしなければ100年程度。
(夜子の命を奪ったので、100年よりはある)
国の移り変わりを見守る立場であること。
「あの、他はなんとか理解できるのですが、光の玉とはなんですか?」
「エナジードレインで貯めた生命力を保存するために作るものです。おろかな人間が奪い取り使用しても、無に返るだけなのです」
「それは、使用した人が、100年若返ると言う意味ですか?」
「その理解で構いません。100歳を超えて尚、野心をもって若返りたいのなら、効果があるかもしれませんが、100歳を超えて使用の反動に耐えられる人間は少ないかと」
数日にわたる講義が終る頃、退院した神風 龍一が、夜香家に蘭を迎えに来た。
「初めて『お父さん』と、呼んでくれたのが謝罪と別れの挨拶だなんて、納得できないよ」
あのとき、動けないだけで、意識はあったらしい。
「私は、錦 百合さんを殺しました。あなたの元には戻れません」
「え、それはどういうこと?」
「すでに、ここの当主なのです。人外なのです」
神風 龍一は、蘭の言葉に後退りし、絶望的な顔をしてその場にへたり込んだ。
「さようなら。神風 龍一さん」
「蘭、待ってくれ、蘭!」
扉を閉ざし、心も閉ざした。
━━━━━━━ 1部完 ━━━━━━━




