将来性の話です
本日は二話同時更新(2/2)
カズキにメアリを引き渡した翌日。
呼び出された屋台街のテーブルにて――
「別に殺してくれて良かったんじゃが?」
「……」
戦闘は楽だったが、引っ張って来るのはめんどかった。
それなのにこんなことを言われたので、イチゾーは素直に中指を立てた。このブタ野郎がよォ……。
「裁判なんちゅぅモンにかける程大した生まれじゃないんじゃ。殺してやるのは慈悲みたいなモンじゃぞ?」
「あー……まぁ、そうかー……」
人権と言うのは今の時代、高級品だ。
裁判を受けることすらも一般人には難しい。落ち目の狩猟団出身のメアリにそんなモノが有るはずもない。
生け捕ったなら……と、えもにゅー少尉は運ぶ気になっているが、状況によっては引き渡しと同時に『え? 運ぶのメンドイんだけど?』と首を切られてもおかしくなかった。
「まぁ、助かったわい。これでわしからの依頼は完全に完了じゃぁ」
「おー」
テーブルの上に環通しが二十四本置かれる。千二百環。成功報酬は千環だったはずなので、少し多い。
「……」
どういうつもりだ? そう視線問いかけるイチゾーに、がりがりと頭を掻きながらカズキが応じる。
「……印象良くしときたいんじゃとさ」
「へぇ? 皇国陸軍サマが? そら光栄なことで……」
言いながら二十本。当初の予定通りの千環を受け取り、残りは返す。
「……拾い食いでもしたんか?」
「してねぇーですよ? 介護代だよ、介護代。メアリお姉ちゃん、もしかしたら変な『妄想』、未だ生き残ってる仲間がいる、とか言い出すかもしれねぇからな。その時にでも治療に使ってくれや」
「……鼻薬にしちゃぁしけた金額じゃが、まぁ、分かった」
「? もっと居るなら出すぜ?」
「わしの権限で報告出来るからいらんわい。その子はわしが殺したことにしとく」
「……何のことか分かンねぇけど、頼んだ」
「おう。何のことかは知らんが任せぇ」
「ンじゃ、テメェの上官のえもにゅー少尉にもワイロ渡しとくわ」
言って、銀継ぎが完了したコーラの瓶をニゾーのリュックから取り出す。「ぐあー」とニゾーが、ゴネもせずにえもにゅーに手渡した。「ぐあ!」とえもにゅーは嬉しそう。
「……良いんか?」
「ま、土産だよ。街、出るんだろ?」
「仕事が終わったからの。お前さんはまだおるんか?」
「……いや、俺も出る」
元より所持金の都合で来ただけの街だ。
デカい仕事が終わった今、本来の目的、武者修行の旅を再開するつもりだった。
「ほうか。……良ければわしらと一緒に出るか?」
「カエデの仕事の都合があるから遠慮しとくわ」
「ほうか。ほんなら――」
カズキがテーブルの瓶コーラを掴む。それを見て、えもにゅーもイチゾーもニゾーも瓶を手に取り、軽くぶつけ合った。
き、と言うガラスのぶつかる音が男たちの別れの挨拶だった。
カズキを見送って一週間が経った。
ようやくカエデの仕事に目処が付いたので、イチゾーとカエデは必要のない生活雑貨を大広場で売ることにした。
イチゾーの金継ぎ作品も、並べてある。メアリ達から取り返したモザイク皿もだ。「……」。ただ、次の行き先で本来の使い方——名刺として使うつもりなので、値札は付けていない。
その見事な細工に寄って来た客に別の商品を売る為の誘蛾灯の様なモノだ。
「後輩さん、これでも食べて行けるんじゃないですか?」
そして何故かその店には先輩もいた。
「……」
いや、別にいるのは良い。何故かセツナの私物、イチゾー達と同じ様に、旅に必要なさそうな生活雑貨が並べられているのが問題だ。
「本気だったんですね?」
「? わたしが付いて行った方が後輩さんも嬉しいでしょう?」
「……ウン。ソウダネ」
片言に成りながらカエデを見る。「――」。見られたのに気が付いて、笑顔を向けてくれた。素敵な笑顔だぜぇー。
「心配しなくても、わたし本当に怒ってませんよ?」
「そうなん?」
「えぇ。それはそうと、イチゾー。あそこのクレープ屋、カップル割りがあるみたいだから行きましょうか?」
「……おかずクレープある?」
カップル割りを使うことには何の疑問を持たず、甘いモンは今要らねぇなぁ、と言いながら立ち上がり、歩きだすイチゾー。その後ろ。カエデとセツナの間をぺたぺたと歩いていたニゾーの頭上で一瞬、火花が散ったので、ニゾーは嫌そうに「……ぐな」と鳴いた。
「後輩さん、後輩さん。あそこのワッフルもカップル割りやってますよ? 一緒に行きましょう!」
「いや、甘いモンは……」
「保存が利きそうだから後で食べれば良いんじゃないですか? ね? ね?」
「……って言うか先輩とカップル割りは――ぃったい!」
「後輩さん、少しは乙女心を学んだ方が良いと思いますよ」
「あ、それはそうですね」
「……」
女性陣が仲良くなっているのは良いことだと思うけど、何だか寒いな。もう冬だからか。と自己完結を一つ。
「カエデさん」
「? なぁに?」
そんなイチゾーに聞こえない様に――それでもニゾーには聞こえる音量で女性陣の話声。
「カエデさんは十八歳でしたよね?」
「えぇ」
「わたしは十二歳です」
「――」
「おっぱいって、その年齢からでも大きくなるモノなんですか?」
「……何が言いたいのかしら?」
「別に? ただ、後輩さんは大きいおっぱいが好きでしたね、って言うのと――将来性の話です」
「あら、そうなの? それまで無事だと良いですね?」
うふふ、と笑い合うカエデとセツナ。
その居心地の悪い空気に耐えかね、ニゾーが駆け出し、イチゾーのフードに入って――
「ぐあぐ!」
何も気が付いて居なさそうな相棒を『頑張れ!』と励ましておいた。
長い間書いてなかったリハビリのつもりで書き始めた本作ですが、取り敢えずキリの良い所まで書き終わりました。
割と本気でブクマ、評価、感想、レビューなどをくれた皆さんのお陰です。
ブランクあったからね! 不安だったんだよ!
また続きを書いたら読んでくれると嬉しいです。




