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ジャンクバード  作者: ポチ吉


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34/43

城攻め

 角猿は敵性亜人(レッドデミ)だ。

 知能はそれなりに高いので、GLや投石機で壊れた壁の修理もするし銃器も扱う。

 と、言っても銃器を使うのは中猿だけだ。

 小猿は軽すぎて反動を殺し切れないから使わないし、大猿はサイズが合わないし、そもそも丸太棍棒を振るえばそれ以上の威力を出せるので使わない。

 まぁ、中猿でも銃器を使うのは少数派だった。

 使えても造れない。奪った弾薬の分しか戦えない。そんなモノを好んで使うのは少数派だ。

 そして彼は少数派の中の少数派だった。

 銃器を『使う』のでなく、『使いこなす』。体毛に白いモノが混じる様になった中年の中猿、仲間からピレ(目ん玉)と呼ばれる彼はそのあだ名に相応しい大きな目をぎょろぎょろと動かして搭の窓から戦場を見渡した。

 犬どもが城を囲んでいた。

 馬鹿な奴等だ。ピレはそう思う。城の中にいる状態で奪われた癖に、城の外から城を攻めて勝てる訳がない。そんなことも分からないから負けるのだ。馬鹿だ。馬鹿の癖にしつこい。

 豚と毛無しが加わって居るが――たった二匹で何が出来る?

 馬鹿だからそんなことも分からないのだろうなぁ。ピレは本気で犬たちが可哀想に成った。だがそんなピレの優しい心は犬どもには伝わらない。

 ド、と重い音と共に城壁が揺れる。犬どもの投石機から、落ちる軌道では無く、当てる軌道で放たれた石が城壁に当たった音だ。そこの警備をしていた小猿たちの何匹が死に、何匹かが怪我をして、きぃきぃと叫びを上げていた。

 仲間の悲鳴を聞いてもピレの心は揺るがない。アイツ等もただの馬鹿だ。犬どもと大して変わらない馬鹿どもだ。そんな奴等が何匹死のうが関係ない。

 だからピレは怒りでなく、ただの仕事として引き金を引く。


「……」


 すっ、と静かにSRのスコープを覗く。視線の先には次弾装填の為にえっちらおっちらと石を運ぶ犬どもを捕らえる。「――」。すぅ、と静かな呼吸を深く。止めて、ゆっくりと絞る様に引き金を引く。


 ——当たった。


 指先に乗る命の感触に、ピレの口がにんまりと歪む。茶色い毛並みのたれ耳。その頭が弾けて――


「――」


 チッ、忌々し気なピレの舌打ちが響く。白い三角耳のナイト。そいつが盾を構えて間に入り込み、防いで見せたのだ。「……」。スコープ越し。此方(こなた)彼方(かなた)の視線が交差する。

 ぞわ、と首の後ろの毛が立った。

 そうか。そうなのか。お前がオレのライバーー


「き?」


 と声を上げ、スコープから顔を上げる。白い犬とピレの視線の間に異物が入って来た。そんなことは有り得ないはずだ。だってここまで届く梯子は無い。無いのだから届く訳がない。そう思った。だがそんなピレの視界を次に覆ったのはブーツの底だった。

 雑に、適当に、入るのに邪魔だった。そんな感じに突き出されたブーツに鼻を潰されて吹き飛ばされる。SRを落とし、吹き飛ばされるピレ。壁にぶつかり、それでどうにか体勢を立て直した彼の視線の先には――窓枠に足をかけた毛無し。

 その右手から、きちきちと足を鳴らす百足がこちらを見ていた。


 ――どうやってここまで来た?


 抱いたのはそんな疑問。たまに翅があるモノも居るが、目の前の毛無しに翅は無い。空を飛べるはずが無い。そんなことを考えながらも手は動き、右手(利き手)に自動拳銃を持ち、左手に鉈を握る。


「へぇ?」


 それを見て、面白そうに毛無しが笑った。

 じり、と搭の中の空気が焦げた様な気がした。

 毛無しの突入を見ていたのだろう。外が騒がしくなる。援護に走ろうとする同族に紛れて、また別の同族の悲鳴が差し込まれる。

 少数精鋭による突入。それだろう。それならばこの毛無しをここで殺せば一気に戦力が落ちる。チャンスだ。その考えに、ピレが軽く舌なめずりをして――投擲。

 ノーモーションスロー。角猿の強靭な手首のスナップだけで投げられた鉈が回転しながら毛無しに迫る。右腕の百足がそれを弾く。それ(・・)をさせるのがピレの狙いだ。鉈の死角から放たれた銃弾。それが本命。百足に守って貰えない毛無し。柔らかい、血と肉で出来た糞袋。その頭に突き刺さった弾丸が中身をぶちまけ――








「……ありゃぁ……ズルじゃろ?」

「……」


 ――ちくと射手を減らしてくれんか?


 合流するなり、そう言われたので頑張って減らした結果、言われたのがこの言葉だったので、イチゾーは中指を立てて率直な気持ちを表現してみた。即ち、ファックである。


 ――相性が良い。


 その自覚はある。位階(レベル)弐になり、表に出せる様になった蟲、単体型で有りながら、群体型の様に使える百頭百足(モズムカデ)百頭丸(ひゃくとうまる)は非常に優秀だった。

 普通、蟲を外に出せる様になっても、単体型の場合は余り外に出さないし出てこない。身体の中に入れておけば簡単には死なないが、外に出して頭を壊されたら流石に再生も出来ずに、死んでしまう。

 だから単体型の蟲憑きは身体の一部——カズキならグラトニー・リオックの強靭な脚だけを外に出して使っている。

 だが百頭百足、頭の数を自由に変えられる蟲の頭は全部がダミーで、全部が本物だ。中に一つでも残しておけば、外で頭が幾つ潰されようと関係が無い。群体型の様に『死んでも良い』と言う運用が出来る。

 加えて『右腕』『百足』と言うのも非常にイチゾーにとって都合が良い。

 眼前の城。その城壁の搭にイチゾーは届かない。八咫烏の足を持ってしても高い。だが、跳んで、そこから百頭丸を伸ばして窓枠に引っ掛ければそこからまた一歩、壁を蹴ることが出来る。跳ぶことが出来る。

 それを使って城壁を跳び回り、混乱させて射手と一匹だが狙撃猿を殺してついでにバリスタとカタパルトも壊してきたのだから讃えられこそすれ、退かれるのは心外だ。と、言うか――


「別にお前の蟲でも同じことできるぜ、俺」


 カズキの蟲は左足に居る。ふくらはぎからリオックの脚だけ生やしているのを何度か見た。ジャンプ力が強化される系統で、宿ったのが足なら、イチゾーは同じ様に跳び回れる。寧ろそっちの方が多分、速い。

 つまりズルではない。俺が優れているだけざます。

 そんなことを言ってみた。


「……」


 無言で中指を立てられた。


「……えもにゅー少尉どのー。これ良いんすか? 民間の協力者にこれって軍人として良いんすか?」

「ぐが!」


 傍らの上官ペンギンに言いつけてやったら思い切り尻を叩かれていた。ダメらしい。良い音がしたので、イチゾーの溜飲は下がった。


「俺に言わせりゃ城の門蹴破れるお前の方がズルだよ」


 投石器とはしごは用意されているが、破城槌は無いのはそう言うこと(・・・・・・)だろ? とイチゾー。八咫烏としてはその脚力は非常に羨ましい。


「……隣の芝生は青く見えるちゅうことじゃな……」

「そう言うこった。見比べて『良いなぁ』って指しゃぶってても仕方がねぇ。前に進む為に別の話をしようぜ?」

「……トラブルか?」

「城攻めじゃなくて、さっきの物資回収の時だけどな」


 言って、テロリストに会ったけど、逃げられたよー、と報告をする。

 仕留めなかったことに何か言われるかな? そう思ったのだが――


「ほぅか。それよりも今日の夜から本格的に始めるから飯食って今の内に寝とけぇ」


 と肉うどん(昼のメニュー)よりも下の様に扱われた。


「……逃がしたのは問題ねぇの?」

「相手の魔法二種類持ち帰っただけで十分じゃ」


 あと、どうせコレに負けたら終いじゃぁ、と言われた。「……」。ごもっともである。それならば、とイチゾーも自分の隊の所に戻る。カズキと犬妖精(コボルト)キングの居る本隊と合流し、それでも別の隊であることを示す様に戦場の後ろの方に集まっていた。


「……」


 ちょっと犬妖精(コボルト)が少ない。早太郎も居ない。見れば投石器に石を運んでいた。「俺の隊、戻れ!」。そう声を掛ける。

 労働は尊いが、休む時に休めないのはよろしくない。犬妖精(コボルト)はどうにも軍と言うモノと相性が悪い種族の様だ。その辺りも角猿に負けた原因だろう。

 現に人類の言葉は分からなくとも、何かボスに呼ばれた! 仕事かな! と犬妖精(コボルト)達は嬉しそうに寄って来る始末だ。多分、動くのが好きなのだろう。


「ぐー、ぐあ、ぐあー。んな、ぐあー。ぐぐあ、んあ」


 集まった連中にペンギン語で『飯食って、寝ろ。夜に仕事だ』と言う。何匹かには通じなかったが、通じた奴がそいつに耳打ちをしてくれていた。有り難い。

 そうして全体に行き渡ると、「うわん!」と良い返事が返って来て背嚢から各々食器を取り出して炊事兵の所に向かいだした。


「ぐあぐ」


 と。その流れとに逆らう様にぺたぺたと歩いて来たニゾーがお疲れ様、とフリッパーを挙げて来た。反対の手には何やら袋を引き摺っている。


「ぐあー」


 どうぞ、と渡されたので中を見る。鑑定に出していたゴーグルとグローブだった。鑑定書も同伴されている。


「……ニゾー、ゴーグルはお前が使え」


 遺物として付与された魔法は〈硬化〉と〈追跡〉。核だっただけあって、ちょっと珍しい〈追跡〉が付いていた。マークしたターゲットの魔力を覚え。移動経路を見れる魔法だ。

 一方のグローブは自分で使うことに。

 掛かっていたのは〈グリップ〉。文字通りに掴む力が強くなる魔法だ。ウォーハンマーを強く握れば、その分威力も増す。当たりと言うほど良くはないが、悪くもない。


「ぐあー」


 足をぺしぺしされて、ゴーグルを差し出される。調整して欲しいらしい。座り込み、その足の間に入って来たニゾーにゴーグルを付けてやる。


「……こんくらい?」

「なっ!」

「……なっ! なっ!」

「え? きつくする方なん? ——これは? 大丈夫か? かなりきつい気がするんだけどよ」

「ぐあぐ」


 大丈夫らしい。結構きつくしめた様な気もするが――羽毛の分だろうか? そう判断する。


「うし、俺等も飯食って寝るべさ」

「ぐあ!」

「あ、飯、うどんらしいから離れて食えよ、お前」

「……な?」


 何でそんな酷いこと言うの? とニゾー。可哀想だが――


お前等(迷宮ペンギン)、麺類食うのくっそ下手じゃん」


 咥えて、真上を向いて、一気に啜る。それが迷宮ペンギンの『啜る』であり、その際に暴れ回る麺がスープやソースを周囲に撒き散らすので、隣で麺類は食べたくないのである。


ミートスパとか食わせると大惨事。


Q.蟲が死んだ蟲憑きはどうなるの?

A.戦闘中なら間違いなくそのまま死にます。

 生き残った場合、また蟲の卵を飲めば百パーセント蟲憑きになれます。十年後に。

 生き残ったけど、卵を飲まない場合は中の空間を制御できずに迷宮と化します。

 蟲「逃がさねぇぞてめぇー」

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― 新着の感想 ―
替えの利くスタンド使いめいている…ただ当然レベルも上げ直しですよね? 卵と環境を用意して気に入ったの来るまで蟲ガチャ引き直しまくる長命種とかいそう
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