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ジャンクバード  作者: ポチ吉


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23/43

V.Sマイキー

 壱足・槍天。

 地を蹴り飛ばして一直線に跳んで、その勢いそのままに回るマイキーに右のハンマーを叩き込む。鈍い音と共にイチゾーが負けて踏鞴を踏み、それでもマイキーを浮かせ、回転を止めていた。

 有り得ない一撃だ。

 イチゾーの強さは速さと巧さ。一撃の威力は位階(レベル)壱の蟲憑き相応だ。位階(レベル)弐か参の不死陸竜(アモスゾンビ)であるマイキーに刺さる程のモノでは無い。

 奇形。

 イチゾーの右腕が明らかに太くなっていた。

 かちかちと牙を鳴らす音に合わせる様に、イチゾーの右腕の筋肉がビキビキと軋みを上げる。

 蟲憑きの位階(レベル)は蟲と、どの程度一体化が進んだかの目安だ。それ故、位階(レベル)(なな)は存在しない。そこ迄行ってしまえばそれは人類ではなく、討伐対象の蟲でしかないからだ。

 そしてイチゾーは位階(レベル)壱。

 蟲との一体化は殆ど進んでいない。

 だからこう言うことが起こる。怒り狂った蟲の方に引っ張られての――暴走。


「……ちっ」


 クソが。右腕の蟲に対して舌打ち一つ。これだから素人さんはよぉ。そんな感想。

 右腕の蟲は、強ければ良いとでも思っているのだろう。魔力が殆ど右腕に持って行かれている。その状況で放つ一撃は確かに力強い。力強いが、それだけだ。消耗と吊り合ってないし、そもそも当てたい場所(クリティカル)から大分外れてしまっている。制御出来てないのだ。「……」。身体操作が難しい参足は絶対使えない。弐足すら微妙だ。八咫烏であるイチゾーの強みが殆ど活かせない。

 悪態をつきながらも、後ろに跳ぶ。本来瞬発力の無い陸竜(アモス)だが、不死陸竜(アモスゾンビ)となった今、筋肉の(赤白ピンク)は関係ない。動力が魔力、意思である以上、生前の動きは殆ど当てにならない。不自然な程に長く伸びた首が、ぱん、と音の壁を貫きながら鞭の様に振られる。単調な動きだ。だから左のウォーハンマーでカウンターを合わせられたが――あっさり打ち負けた。


「……」


 ――さてはウォーハンマーは八咫烏の戦い方とは合ってねぇな?


 今の一撃、赤刃音なら斬っていた。だが、結果はコレ。負けて、体勢を崩して、更に大きく跳び退る羽目になって――マイキーに必殺の回転を許している。


「……練り直しだな」


 逃げた屋根の上、くるくると柄を回しながら、思わず零れるそんな呟き。

 分かっていたことを再確認した。羽の形が違う以上、同じ感覚の飛び方ではどうしたってズレる。「……」。いや、でも今の一撃は良かったのでは? 頭にハンマーを叩き込んだら大抵のナマモノは脳が揺らされるのでは?


「……お味噌もお腐れなんザマスかね?」

「な?」


 回転が始まったので、手が出せない。そう判断して戻って来たニゾーに聞いてみるが、何が? と訊かれるだけ。特に解決策は出てこない。

 その間にもマイキーは白血球として自分を造り出したはず迷宮を砕いて、魔力に変換して、ソレを吸い込んで回り続けていた。アレが一番早くて、硬くて、強いのだろう。亀を祖先に持つ陸竜(アモス)の甲羅は頑強で、ソレに速度を加えれば強い。当たり前のことだ。


「……」


 そして今やマイキーは不死陸竜(アモスゾンビ)。生物なら当たり前の様に必要とする呼吸も、疲労も無いので、その最強の一手を遠慮なく打ち続けていると言う訳だ。「な?」結果、当たり前の様にニゾーは定位置(頭の上)に戻って来て、どうするの? と小首を傾げていた。正直、ニゾーの攻撃手段は雑なステゴロなので、相手が自分よりも固いと殆ど出来ることが無いのだ。フリッパーの斬撃も甲羅に阻まれるので、相性は最悪だ。


「お前もペンギン用の装備、持った方が良いかもなぁ……」


 そう言うイチゾーの視界には、ニゾーと同じ様に空を泳ぎながら、それでもニゾーとは違い、手足それと頭の出入り口を狙って回転するマイキーにSGを叩き込んでいるえもにゅーが映っていた。追い付いて来たらしい。それを証明する様に、カズキも居た。


「?」


 少し、大きさがおかしくねぇか、アイツ。そんな疑問。「……」。この場で考えても仕方が無いので、屋根を蹴り飛ばして、そちらに向かう。隣に降り立つと濃い鉄の匂いが鼻腔をくすぐった。


「……腹、壊さねぇの?」

「〈暴食〉をつかっちょる」


 やはり見間違えでは無かった。カズキは一回りデカくなっている。中猿よりも頭一つ大きい程度だろうか? だが中猿とは違い、カズキの体型は『太い』。上着を脱ぎ捨て、諸肌を晒した上半身はしっかりと絞らていながら、それでも鍛え抜かれた筋肉によりはち切れんばかりに張っていた。

 そんなカズキの両手と口は血で染まっていた。両手には角猿の死体が握られ、それをカズキは齧っている。足元に積み重なった小猿の死骸に、ゴマシオが新しく、運んで来て、加える。つまみ食いはしない。ゴマシオが良い子だから――と言う訳では無く、単に食べる気がしないからだろう。

 だが、カズキはそんな角猿の死骸を口に運び、齧り付き、噛み千切り、咀嚼をして、飲み込む。毛も骨もお構いなしだ。その度にカズキの中の魔力が増え、伴って筋肉が造られる。


「こんくらいでえぇかの……」


 角猿の腕、それを骨ごと噛み砕き、ぼりぼりと齧りながらカズキ。


「行くぞ。合わせぇ、(カラス)

「……カァ」












「―――――――――!」

「ォ、おおおおおおおっ!」


 怪獣大決戦。

 陸竜(アモス)豚人種(オーク)のぶつかり合いは(まさ)しくソレだった。

 街を砕いて回るマイキーに、カズキが一直線にぶつかって行く。甲羅が肉を斬り、血を巻き散らす。〈硬化〉を使ってはいるのだろうが、そちらに回す魔力よりも明らかに〈暴食〉に、それ以上に〈暴食〉で造った筋肉に対する〈筋力強化〉に使われている。

 それだけで筋肉は鋼と成る。

 皮膚を切り裂かれても骨にも、血管にも届かない。派手に飛び散る赤はカズキの戦意を高揚させるだけだ。

 力を誇る相手に力でぶつかる。

 強者にしか許されない究極の贅沢。品種改良により造られた〈鬼〉の身体は魔物相手にその贅沢を許す。そして――


「――餓鬼」


 〈鬼〉が継いで来たのはその血だけでは無い。血を活かす技も継いでいる。回転を止めて、叩き込まれるのは攻撃の形をした咬撃(こうげき)。無作為に開かれた右手が軋み、マイキーの前足の出入り口に叩き込まれる。握撃。硬い甲羅の中の柔らかし所を握り潰し、引き千切り、中身を引っ張り出す。

 ぼと、と繋がってる部分を潰された足の先が落ちる。生物であれば痛みで狂った様に叫ぶその一撃も、不死陸竜(アモスゾンビ)と成った今のマイキーには大したことは無い。

 しがみつくカズキを追い払う様に残った孔から首が、三本の手足が伸びて、鞭の様に打ちつけられる。カズキにそれは避けれない。イチゾーなら避けられるが、カズキには無理だ。だが――それと同じようにイチゾーには耐えられないあの四連撃も、カズキなら耐えられる。

 撓る鞭に打ち据えられて、距離が開く。

 内出血で諸肌を晒した上半身に青い蛇が這いまわる。

 顔に一発貰ったのだろう。大きく、大量の酸素を取り込むことが出来る豚の鼻からだくだくと血が流れていた。

 〈生命力強化〉が無いカズキには文字通りに『痛い』一撃だ。

 だが、吹き飛ばされたカズキは特に気にすること無く、握り潰して圧縮した肉と骨の塊を口の中に放り込み、喰らう。

 青い蛇が薄くなる。鼻血も止まったのだろう。詰まった血を追い出す様に、ふん、と鼻息を荒くすれば赤黒い塊が地面に落ちた。〈暴食〉の効果だろう。見た感じ〈生命力強化〉〈強打〉〈筋力強化〉〈巨大化〉当りの魔法の混合に見えた。「……」。チートでは? そんなイチゾーの感想。

 それと同じような感想でも抱いたのだろうか? マイキーの再生した手足と首、五本がカズキを打ち据えようと迫る。止めには十分だ。だが――

 合わせろと言われたのだ。

 だからイチゾーは動いていた。

 一本はニゾーに任せて二本の手足に二本のウォーハンマーの鉤爪(フレール)を打ち込み、地面に縫い付ける。しゃがんだ所に来た首の噛み付き。それにはその状態からバク宙で一瞬空に跳び、踏みつけることで答える。それだけではない。

 壱足・槍天が崩し、墜天。

 着地と同時に撃ち込まれた踵がマイキーの頭蓋を踏み潰す。白濁した眼球が、ぶりゅ、と押し出された。へぇ、視神経が繋がってっから転がんねぇんだな。そんな気付きを一つ。そこに残りの足が来る。イチゾーはそれに応じる。墜天の踏み込みをそのまま踏み足に、じ、と一度靴裏がマイキーの頭をにじり、位置を微調整。叩き込んだのは壱足・槍天。正面と正面、力と力では負けることが分かっているので、削る様に槍が放たれ、マイキーの足が大きく反れて地面に叩きつけられた。

 手も足も首も潰した。その決定的な隙に先祖帰りでもしたのか、猪の様にカズキが突っ込んで行く。拙い。腐った脳すら潰されて尚、ソレを思考出来るのが今のマイキーだ。イチゾーに縫い付けられた手足を引き千切りながら回転を始める。だが――


「おら――」


 イチゾーの右腕が軋みを上げる。暴走状態。かち。かちかち。かちかち、かちん! と蟲が牙を打ち鳴らす。興奮に殺意に、幼体である右腕の蟲は感情に合わせて魔力を過剰に供給する。


やれ(・・)


 それは右腕の蟲に言ったのか、カズキに言ったのか、ソレはイチゾーにも分からない。それでも無作為に、それでいて力強く、マイキーに叩き込まれた右のウォーハンマーが回転を無理矢理止める。

 硬いモノが速く動いていたから強かった。

 だけど、硬いモノが止まってしまえばただ硬いだけだ。


「おぅよォ」

「ぐあ!」


 右腕の蟲は返事をせずに、返事をしたのはえもにゅー少尉とカズキ軍曹の皇国陸軍コンビ。弾丸の様にえもにゅーは止まったマイキーの孔から中に飛び込み、カズキは孔の縁に足を掛けながら孔の上に両手を掛ける。


「〈筋力強化(ブースト)〉」


 唱えられたのはイチゾーの呪文と同じ音で、違う意味(効果)の呪文。「……」。膨れ上がった筋肉に奔る血管がパンパンに膨れ上がるのを見ながらイチゾーは煙草に火を付けた。

 たっぷりと肺を煙で満たして――


「――」


 ふぅー、と吐き出すと同時にカズキがマイキーの甲羅を引きはがした。

 レオを送った時の様に、紫煙が迷宮の天井()に昇って行った。


煙草と線香一緒だと思ってる系主人公。


Q.――ニゾーは突っ込まなくて良かったの?

A.「ぐな」

  ――汚れるから嫌だそうです。


あとストック回復したからまた毎日更新するそうです。

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― 新着の感想 ―
ドキドキのバトルでしたね!最後回って飛んで火を吹かれてたら多分負けてた♪
マイキー「あの、私タバコ吸わないんですけど…」 イチゾーは友人や仲間の墓に酒を供えて、墓の前で一緒に乾杯するタイプと見た!
毎日更新大変助かります
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