人魚の星の夢
「人魚のうろこを舌に乗せると、水の中でも息ができるんだって。」
そうなんだ、いいなそれ。って思った。
「でもね、もしも間違えて飲み込んじゃったら、もう陸上では息ができなくなっちゃうんだ。だから、舌の上にのせるだけ。いい? 大事だから覚えていてね。」
「うん。忘れない。」
よく覚えておこう。大切なことだから。
「ねえ、もしも人魚のうろこがあったら、宇宙でも息ができるのかな?」
「できないよ、きっと。」
「なんで? だって空の上には空気がないでしょ? 水の中とおんなじじゃん。」
「違うよ。水の中に空気は無いけど、酸素はちゃんとあるもん。」
「えーっ。でも、人魚ってつまり宇宙人でしょ。なら、きっと宇宙でも息ができるんだよ。」
「宇宙人じゃないよ。人魚は妖怪だもん。」
「わかった。昔の人が、空飛ぶ人魚を見たんだ。それがUFOだよ。」
「なんにもわかってないよ。人魚は飛ばないよ。海で生まれて、海で生きているの。」
「でも陸上では飛ぶかも。」
「人魚は陸では生きられないよ。魚みたいにあっぷあっぷしちゃうから。」
「じゃあ、人間のうろこを舌に乗せれば、人魚は陸でも息ができるよね。」
「人間にうろこはないよ。でもね、人魚は人間になることはできるよ。」
「どうやってなるの? 人間を食べるの?」
「違うよ。人間に恋すると、体も人間になっちゃうの。」
「それじゃあ人魚が減っちゃうよ。どうしたら人魚に戻れるの?」
「人魚のうろこを飲み込むんだよ。ほら、こうやって。」
ベーってして見せて、その子は海に飛び込んだ。