06_四章_やかましいデバッガー達
■著者前書き
こんにちは。著者の上下Kちゅけです。
ゲーム会社で新人ゲームデザイナーをしています。
ゲームデザイナーは会社によっては企画とかプランナーと呼ばれる場合もあるようです。
業務内容はざっとこんな感じです。
・ゲームの企画立案 (ゲーム企画書)
・ゲームシステムの考案 (ゲーム仕様書)
・ゲーム中のマップ構造考案並びに敵、アイテム等の配置設計 (レベルデザイン)
・各種挙動制御入力 (スクリプト)
・各種性能数値入力 (パラメータ)
・アイテム説明等ちょっとした文章作成 (テキスト)
昔のゲーム開発では上に挙げた企画業務以外のグラフィック作成やプログラム作成も…というように1人で何役もするのが普通だったそうですが、今は分業化が進んでいます。
海外では上に挙げた業務のうち更に専門職化してきているものがあると聞きます。レベルデザイナーとかスクリプターとかその辺りはそれに専任するスペシャリストがいるそうです。
また、ゲームデザイナーの業務内容に「ちょっとした文章作成」とあるように文章作成はちょっとしたレベルまで止まりで、本格的なテキストは書きません。
いえ、仕様書作成で開発スタッフ向けの内部文書はたくさん書くんですよ。
しかしユーザーの目に触れる正式なテキストは専門のシナリオライターに任せるのが一般的です。
この小説はゲーム会社のゲームデザイナー教育カリキュラムで命じられて連載をしています。
シナリオライターではないのに何故?という疑問がありますが、真意は教えて貰っていないので分かりません。
約半年程連載を続ける中でムクムクと欲求が高まってきました。この物語をベースとしたゲームが作りたい!
私が一番好きな業務は何と言っても企画立案…ゲーム企画書作成です。
物語にうまく引っかけて、それでしか味わえないゲームシステムを導き出す。
ゲームの場合、物語だけがあってもダメ、ゲームシステムだけがあってもダメ。
両方がお互いを高め合うような効果を発揮した時、他では味わえないユニークなゲームが生まれるんだと思います。
新人が生意気言ってスイマセン。
で、考えてみました。講釈垂れてハードル上げまくってしまって後悔してますが、ゲーム企画書を公開します。
この小説の物語ではゲート通過型のVR・COOPアクションとしてゲームが登場しますが、これは夢のテクノロジーなのでそのまま採用できません。
そこで今のテクノロジーで制作可能なゲームとして「UFO潜入救出アクション」を考案してみました。
小説に関しては専門家ではないので辛辣なことを言われても「だって素人だもんっ」と流せるのですが、ゲーム企画書で辛辣なことを言われるときっと深く傷ついてしまいます。
専門家である以上、意見を真摯に受け止めブラッシュアップしていく所存ですが、その辺りの著者の心情を察して辛辣さを抑えたコメントを頂けると助かります。
■ゲーム企画書_UFO潜入救出アクション(仮)
ゲームの企画書は通常10ページぐらいでまとめることが多いのですが、前書きの場ということもありペライチでまとめました。
※画像をクリック、そしてもう一回クリックすると文字が読めるぐらい拡大表示されます。
今回の本文「四章_やかましいデバッガー達」と併せて上記企画書をご確認いただくとゲームのプレイイメージが伝わりやすいかと思います。
販売元様、ご興味があればお気軽にお問い合わせください!
■もくじ
・01月配信_零章_著者前書き
・02月配信_序章_セレンディピティ
・03月配信_一章_集められた4人
・04月配信_二章_活動開始
・05月配信_三章_デバッグ日誌
・06月配信_四章_やかましいデバッガー達 ← ◆今ココ
・07月配信_五章_静かなリターナー達
・08月配信_六章_符合
・09月配信_七章_裏側へ、そしてリーダー交代
・10月配信_八章_ベストカップル・オブ・ザ・ワールド
・11月配信_九章_天国サイドと地獄サイド
・12月配信_終章_俺たちの戦いは始まったばかりだ!
■これまでのあらすじ
・大阪とサンパウロに謎の巨大UFOが出現。何も起こらず20年経過。
・ゲート通過型VRゲームを開発中にバグ?で円盤内部への侵入ルートを発見。
・船内に閉じ込められている地球人が多数いることを知る。
・警察官や自衛官はことごとく弱体化し、まともな潜入捜査ができない。
・特殊なDNAを持つ者だけがヒーロー化する。
・全大阪市民に対して検査を行なった結果、適合人材が4人見つかった。
・対策本部で救出作戦が練られる中、横槍が入り「作戦中止」が決断される。
・ゲーム会社のプロデューサー・ツクモは、決断に納得できなかった。
・実験的な検査で死んでしまったエンドーは犬死ではないか…
・彼は秘密裏にUFOに対する「レジスタンス活動」を開始する。
・男子高校生の適合者1号がデバッグバイトで雇われる。
・彼は実際に拉致被害者を救出してると知らずゲームの出来事だと思っている。
・褐色の美女NPCと適合者1号との邂逅。
・日系人心理カウンセラー・ガブリエル本田が協力者として加わる。
・UFOから持ち帰るレアメタルを闇マーケットで捌き、活動資金を得る。
・ツクモはレジスタンス活動を軌道に乗せるが、暗黒面に片足を踏み入れる。
■この章のあらすじ
・適合者1号に続き、2~4号もデバッグバイトとして雇われる。
・「イッチ」「ニコ」「ミミミ」「ヨバン」。
・彼らはゲームだと信じてUFO拉致被害者の救出作戦遂行する。
・フル参加のイッチを中心にバイトシフトローテが組まれる。
・これはプロデューサー・ツクモの仕組んだレジスタンス活動。
・-----
・わいわい騒ぎながらの作戦会議はいつも楽しい。
・今回はイッチ、ニコ、ヨバンの3人編成で作戦実行。
・順調に作戦は進むが、中ボスミカエルが再登場。
・苦戦するも何とか撃破。
・-----
・作戦を終えてイッチの一人脳内反省会。
・ニコとあめりんが好き。
・でも、褐色の美女NPCのことはもっと好き。
■本文
大阪にあるゲーム会社の一室では最新のゲート通過型VR端末向けのCOOPアクションゲームのデバッグが行われている。実のところデバッグではない。大阪の上空に浮かぶ超巨大UFOへの侵入・救出作戦が実行されているのだ。
VRゲームのバグきっかけて始まったこの作戦は政府が身を引き、ゲーム会社のプロデューサー・ツクモが密かに引き継いだ。デバッグ要員としてDNA適合者4名をアルバイトとして雇い入れてUFOへのレジスタンス活動を行っている。
但しその事実はデバッグメンバーには伝えられておらず、ただのゲームだと思っている。救出作戦でデバッグメンバーのプレイヤーキャラがやられても実際には死にはしないことが確認された。ゲーム中に死んだ際はUFO内部から強制移送されゲーム開発室にあるゲートから放り出されるが、ゲートに再侵入すると復活が可能だ。
メンバー達は何の疑いもせず、ただ楽しくマルチプレイに勤しんだ。
◆
いち早く活動に参画したのは適合者番号1、プレイヤーネーム「イッチ」(ヒーロータイプ・忍者)。彼は咄嗟の機転が利き、呑み込みも早いなどゲーム勘の良さを発揮して救出作戦の礎を築いてくれた。
UFO側は何度もイッチの侵入を許し拉致被害者を奪われ続けた末、ようやく警備システムの大幅強化を行った。その結果、イッチ一人での作戦成功が難しくなり、適合者2~4号に参画をお願いすることになった。
DNA適合者の編成はこうだ。
①イッチ …忍者。高校一年生男子。夢はゲームクリエイターか漫才師
②ニコ …怪力虎男。中学三年生女子。経営が厳しい町工場の娘
③ミミミ …美人アサシン。セレブママにしてゲームエリート
④ヨバン …プリマドンナ。実家暮らしの野球を愛す男性
イッチは本人のたっての希望でフル参加。他の人はローテでバイトのシフトを組んだ。
メンバーは全部で4人だが、イッチと相談してマルチプレイは3人で行うことにした。イッチの感触よるとミッション難度的には本当は2人でギリ何とかなりそうとのことだったが、3人なら盤石の態勢を敷くことができ、成功率がほぼ100%になる。
プレイヤーは救出作戦中に死んだとしても復活できるが、拉致被害者達はそうはいかない。救出中の被害者損失を0近くまで抑えるためにも3人態勢が必要だった。
◆
イッチにはチームリーダーをお願いした。一番の古株かつバイトシフトもフル参加の予定で、とにかくこのゲームに対するモチベーションが高い。何かしらナイーブな感性の持ち主がほとんどの今時な若者の中にあって、彼ほど人見知りしないタイプは珍しいし面倒見も抜群なのでピッタリだ。
ニコは実家の工場を手伝いながらも、高時給バイトのこの仕事はありがたいと言ってくれている。怖がりで少し真面目過ぎるところはあるが心根が優しく、拉致被害者がUFOで変身しがちな「ゆるキャラ」の扱いが上手い。雑で…いや、大らかで怖いもの知らずのイッチとは対照的な真面目で慎重なニコは、お互いを補い合う良いコンビに見える(凸凹コンビとも言えよう)
ミミミは結婚後専業主婦となり、子供が生まれるまでの数年間、起業家でお金持ちの旦那さんからゲーム英才教育を受けたという。メンバーの中でも戦闘能力や作戦遂行能力はずば抜けており、とても頼れる存在だ。リアル・非リアルとも近寄りがたいセレブな雰囲気をまとっているが接してみると案外気さく。メンバーとも楽しくやっているようだ。
ヨバンは「なりきり」の人だ。他のメンバーは普段とVR内の振る舞いの線引きは曖昧だが、彼だけは違う。VRに入るまではのんびりとした口調の天然ボケ的発言で場を和ませるが、ひとたびVRに入るとプリマドンナその人になる。踊るような美麗アクションと共に、お嬢様言葉の決めセリフ「~あそばせ。きゅるりん☆」を自然に使いこなす。本人としてもVR内でのことは覚えていないそうで、心理カウンセラーの協力者ガブリエル本田氏曰く、別人格が出現しているとのこと。
◆
本日のシフトはイッチ(忍者)、ニコ(怪力虎男)、ヨバン(プリマドンナ)の3名。マルチプレイを始めて2カ月ほど経過し、チーム連携もさまになってきている。
作戦開始前にはブリーフィングが行われる。VR移送される前、PCモニターに映し出された大まかなダンジョン構造、特記事項(制限時間など)をメンバー達で確かめる。UFOの内部構造は毎回違う。超巨大なUFOなので毎回別の場所が選ばれているのか、それとも間取りを組み替える未知のテクノロジーが使われているのかは不明。ゲームだと信じるデバッグメンバー達にはローグライク的要素として好評だ。
「どーする?侵入口候補は全部で3つ。囚さんが居そうなとこは、こことここかな?」
イッチが真剣な表情でブリーフィング用に用意された大型モニターをタッチする。
囚さんとは拉致被害者のことで、最初は「囚われ人さん」と呼ばれていたが略称が定着した。
「出来高ボーナス狙うならここから入って両方回るのが良さそうやね」
イッチはタッチでモニターにルートを書き入れる。
「ボーナスあると、めっちゃ助かる。。」
ニコが少し恥ずかしそうに発言する。
「あっ、でも少し前にボーナス狙いで行ったけど結局制限時間超えて散々やったことあったやんね」
嫌なことを思い出してニコのボルテージが少し上がる。
「ミミミさんいるなら狙っても良いと思うけど、今日はそうやないねんからやめといた方がええかも。いや、きっと絶対やめるべきです」
「こんなに近くに囚さんが固まってることなんか、そーないですやん。チャンスですやん」
「イッチ君、楽天的過ぎ~この前、結果散々やった時に”仕方なかった。でも楽しかった”って言ってたの聞いて正直、カッチーン来てたんですけど」
「いや、楽しいのは重要やん。ゲームは楽しまな。あと、デバッグやねんから失敗も試さな。そう思わへん?」
「ん~一理あるけど。。今は鋭く言い返されへんけど。。とにかく無茶はやめとくべきです。ね?ヨバンさんもそう思わはるでしょ?」
ヨバンは急に話を振られて戸惑っている。
「そうやねー。難しい問題やねー。イッチ君もニコちゃんもそれぞれ正論やねー」
「…………どっちかゆーたら、ニコちゃんの方が正しいかもねー」
「ほらみー、ヨバンさんありがとう~」
「何でですか?ヨバンさん。なんでニコの肩持つんですか?ボクはいつでもヨバンさんの味方やのに…」
ヨバンはとても困っている。
「ボクもイッチ君のこと特別に思てますー」
「…………正直言いますー。怒らせるとニコちゃんの方が怖いと判断した結果ですー」
「ひどい、ヨバンさん!」
「はっはっは、ひっひっひ。ナイスです!ヨバンさん」
バトル時にもワイワイガヤガヤとやかましいが、作戦立案時だけでもこのありさまだ。でも、遠慮なく本音を言い合える関係が築かれつつあった。
◆
「よし!まだ気づかれてないな。このまま囚さん達を驚かさずに最後までいけたら最高なんだが」
忍者のイッチは先頭に立って拉致被害者達を引率する。
「大丈夫ですよ~助けに来たんですよ~出口はこっちです~」
怪力虎男のニコは緊張を和らげるために拉致被害者達の腕や背中に優しく触れながら励ます。戦闘状態ではないので虎男というより猫小僧で、威圧的な印象は無い…どころか癒し効果がありそうな見た目だ。
「ご安心あそばせ。きゅるりん☆」
プリマドンナ姿のヨバンは恥ずかしげもなく決め台詞を炸裂させた。
◆
UFO内で宇宙人に幽閉されている拉致被害者を見つけ出し、できるだけたくさん連れ帰ること。それがミッションの目的だ。プレイヤーの適合者たちはゲームだと思っているので、【ダンジョン】で【悪者】に幽閉されている【囚われ人】を連れ帰る…そう認識している。
拉致被害者は銃撃音や警報ブザーなどで驚くと人の姿からマスコットゆるキャラみたいな姿に変身する。そうなると大幅に機動力が失われ、連れ帰るのが大変になる。連れ帰る時はできるだけ慎重に、潜入行動を心掛けるのが重要だ。
帰り道(復路)を楽に進めるためにもう一つ重要なのが行き道(往路)での「仕込み」。
例えば、ルート短縮するためにショートカットの穴を開けておく。穴を開けるのにとても時間がかかるので一見無駄な行為だが、たくさんを連れ帰る時にルートが短いことはとても助かる。特によちよち歩きのゆるキャラを連れている時には。
その他の仕込みとしては、敵の追撃を想定してトラップを仕掛けておく。「回復エリア」や「光学迷彩エリア」の設置も定番だ。念には念をで役に立つことがある。
この作戦は宇宙人をやっつけることが目的ではない。拉致被害者を無事に連れ帰ることこそ重要だ。宇宙人は遭遇しないようにできるだけ上手くやり過ごす。スニーキング…つまり潜入行動が大切である。それにはこれらの「仕込み」が役に立つ。マルチプレイを重ねる中で救出作戦の攻略法を編み出していった。
◆
「ブー↑オンッ↓」「ブー↑オンッ↓」「ブー↑オンッ↓」
UFO内部のこの区画一帯に警報ブザーが鳴り響く。
拉致被害者達が一斉にビクッとなる。「ぴぎゃっ」「ぴぎゃっ」「ぴぎゃっ」
拉致被害者達の脳内でアドレナリンが分泌され、次々にマスコットゆるキャラのような姿に変身した。着ぐるみのようなおぼつかない足取りで被害者達はよたよたと逃げ惑う。
「あちゃー。気づかれたかー」
イッチは残念そうにニコの方に視線をやる。
「うん、あたしが食い止めるね。うーーー、はっ!」
癒し猫小僧からマッチョな怪力虎男に変身するニコ。
「がおーーんっ!!」
緊急ハッチから現れた警備兵宇宙人に怒涛の勢いで飛び掛かる。
宇宙人達はドミノ倒しになった。倒れた先頭の宇宙人を虎の前足でぎゅっと押さえつけ、集団の動きを止めてみせる。
「覚悟あそばせ。きゅるりん☆」
プリマドンナが変身時の決め台詞を放つ。するとかわいい衣装が眩い光を放ち、さらに派手にドレスアップされた。
「こら~ニコ虎~私の活躍の場を奪ったら許さないんだからね~☆」
「きゅるりん☆わいぱー☆めいとりっくす!」
放射状のビームがプリマドンナが持つ発光するリングの輪のような武器から放たれる。そして緊急ハッチから押し寄せる宇宙人達を次々となぎ倒す。
「ありがとう~じゃ、こっちも!」「うーーー、はっ!がおーーんっ!!」
怪力虎男の男成分が消えてニコは完全な虎となった。しかもとても巨大で、まるで怪獣だ。
宇宙人達は戦いを放棄して逃げだす。
「ぐるるるっ…逃がさないわよ。ほら、ヨバン!きゅるりん☆してっ。あっ、ヨバンじゃなくてピーポッドだっけ?」
「ピーちゃんで良いよっ。きゅるりん☆わいぱー☆りろーっでっどっ!」
◆
音速忍者に変身したイッチはニコとヨバンが宇宙人達を食い止めている間にゆるキャラの一団を率いて先を急いだ。持ち前の超スピードを駆使して一団を色んな方向からサポートしつつ進む。
来る道で仕込みしておいた「光学迷彩エリア」までもう少しだ。ここに一団を隠せば警報が解除されるまでじっとしているだけで見つからずにやり過ごせるだろう。
巨大立体モニターがある部屋に入った。この部屋の隅に隠れ場所…「光学迷彩エリア」を仕込んである。すると突然OFFだったモニターがつき、炎と光のエフェクト演出が映し出される。効果音と音楽が大音響で鳴り響き、ゆるキャラの一団が逃げ惑い始めた。
「フーム…またあなたですか。ここから先、行かせる訳にはいきません」
聞き覚えのある敵ボイス。イッチは振り返った。
見覚えのある巨躯、そして翼のシルエット。巨大モニターに大きな文字、日本語で「ミカエル、警備部長として復活!」とテロップが出る。スポットライト演出と共にミカエルの顔がアップで映し出される。リアルタイム映像のようだ。
「絶妙に嫌なタイミングでまた出たな警備室長!」
イッチは警戒ポーズを取りながらミカエルに向かって叫んだ。
「随分好き勝手に私のテリトリーを荒らしてくれたようですね」
「前回は不覚を取りましたが、今回はそうはいきません」
「あなたのせいで室長から部長に降格されてしまいました。やれやれです」
「この派手な演出、馬鹿げていると思います?私も思います。でも部下たちが頑張ってくれました」
「前回のようにはいきませんよ。私はパワーアップしたんです。戦闘値的にもムギィィ…」
音速忍者、イッチの膝が部長の右の頬に食い込んだ。
「相変わらずの長台詞…心理的に相手をムカつかせるのが上手いね」
「ム…ギ…ギ…ギ…ゼンカイ比 ニヒャク パーセント アップノ ジュウヨン 万 オーバーデフッ」
ミカエルは台詞をしゃべり終え、片膝をつく。
イッチは続けざまに音速移動でミカエルの体のあちこちに打撃攻撃を浴びせ続ける。
「ム…ギ…ギ…ギ…」「!!!!!」「効カーンッッッ」
ミカエルはイッチの足をワッシと掴み、壁に投げつけた。
◆
ニコとヨバンが部屋に駆けつけた時、イッチは苦戦しているように見えた。音速移動しているので傷の具合ははっきりは分からなかったが、結構ズタボロに見えた。
これが中ボス?初遭遇したニコは少し怯んだ。しかし勇気を振り絞り巨大な敵に飛び掛かろうとした。
…が、それをヨバンが制止した。
「お待ちあそばせ☆ 囚さんが先。この隙に部屋の隅に設置してた光学迷彩エリアに全員誘導よ」
「そうね、分かった」
二人して右往左往しているゆるキャラ達を物陰に隠れながらピックアップして光学迷彩エリアに放り込んだ。イッチは途中で二人に気づき、隠しやすいようにゆるキャラ達とは逆方向にミカエルの気を引いた。
「あなたも随分パワーアップしているようですけど、前回比300%とはいかなかったようですね」
「それに前回やられた時は、あなた以外の邪魔者も入りましたしね」
「彼女はその後元気ですか?素敵な方でしたね。彼女にもお礼がしたいものです…ん?はっ!」
不安になったのかミカエルは攻撃を止め、周囲を見回した。褐色の美女NPCの姿は無い。気のせいだったようだ。
「はてさて…」
「それでは、そろそろトドメを…ムゴゥゥ………ウッ」
ニコとヨバンが両サイドからミカエルの頬に膝蹴りをお見舞いした。膝蹴りでサンドイッチ状態になったミカエル。今回ばかりは続きの台詞を吐き出すことができなかった。
「サンキュー、助かった!」
イッチはズタボロながらも意識ははっきりしているようだ。
ニコとヨバンがイッチに駆け寄った。
「随分手ひどくやられたみたいだけど、ご安心あそばせ。助けに来たわ。きゅるりん☆」
ヨバンはダウンしたミカエルへの警戒を解かないままイッチに声をかけた。
「誰なん?彼女って…聞いてへんけど…」
ニコが真剣トーンでイッチに尋ねる。
「おい、VRの中では大阪弁禁止だぞ!雰囲気ぶち壊しだっ」
イッチが注意した。
「素敵な方って何なん?はぁ、聞いてへんよ…」
ニコがイッチに詰め寄る。
「だから大阪弁…ってか、今はそれどころじゃないだろ!」
「よしっ、オレに考えがある!二人は手出し不要だ!」
ニコとヨバンにそう告げるとイッチは踵を返し、ミカエルに向かった。
イッチはダウン中のミカエルに追撃を加えようとした。しかしミカエルは気を失っているフリをしてただけで、イッチの攻撃をかわした。イッチはミカエルの反撃をギリギリかわしたものの、再び防戦一方になった。
「手出し不要だ!」
イッチは強がっているのか先ほどの台詞を繰り返した。
ジト目でイッチを見やりながらニコが吐き捨てるように言う。
「やられてまえば良いねん」
イッチは攻撃をかわしながら通路に出て行った。ミカエルは怒涛の勢いで後を追った。
◆
敵の追撃を想定して仕込みをしておく。先ほど述べた戦術だ。「回復エリア」や「光学迷彩エリア」の設置が定番。あとはトラップ。念には念をで役に立つことがある。
敵との直接的なバトルも楽しいものだが、トラップ設置はまた別の楽しみがある。追われる立場から一気に形勢逆転。相手をまんまと嵌めたという黒い喜び、間接的な爽快感を味わえる。
トラップには上級テクニックがある。トラップ連鎖だ。これはあくまで例だが…
①落とし穴にはめて…
②上からタライを落とす
③氷水で寒がらせた後…
④熱湯浴びせて熱がらせる
トラップは単発でも嵌められたショックが大きいものだ。追い打ちをかけるように次々とトラップが連鎖したら…これはとても立ち直れない。物理ダメージ以上に精神ダメージが深刻だ。
そして、イッチ達が往路で入念に仕込んでおいたトラップ連鎖。
ミカエルはズタボロのイッチを怒涛の勢いで追い、トドメの一撃とばかりに渾身の突進をお見舞いした。
そこが、トラップのトリガースイッチとは知らずに。
◆
ミカエルはまたしてもイッチにしてやられ、しばらく立ち直れなかった。
そして現・警備室長の元・部下からは、ひどく叱られた。
何とか降格は免れた。
◆
作戦完了。
イッチは自宅のベッドで仰向けに体を横たえて脳内デブリーフィングを行っていた。
イッチは困っていた。
ニコはいい子だ。歳が近いし本音で語り合える仲だ。オレへのアタリがきつい時もあるけど、ああいうコミュニケーション、オレは嫌いじゃない。そしてたぶん、オレの事が好き。
同級生のあめりんは読モとかやってて上級カースト感あるけどゲームやお笑いという共通の話題があり気が合う。そしてたぶん、オレの事が好きだ。
オレも二人が好きだし仲良くしたい。
二人の間で揺れて困っているのかと言うと、実はそうでもない。
頭から離れないんだ。褐色の美女NPCのことが。困ったことだ。
…うん、そうだな。あれはサンバの衣装だ。ビキニアーマー的な戦闘力高そうで露出度も高い衣装を颯爽と着こなしていた。会話は交わさなかったが、共闘バトルを通して心が通じ合った気がした。ミカエルに連携技でとどめを刺す瞬間、永遠の絆?それともあれは真実の愛?…を感じた。
彼女とまた会いたい。
プロデューサーのツクモさんに調べてもらったけど、そんなキャラは登録されていないって。もしかしたら、削除された要素がバグで発現したのかも?とも言っていた。あの魅力的な人が没キャラだって?ありえない。
ニコやあめりんも好きだが、本命はあの人だ。もちろん二人を傷つけないように、そのことは胸に秘めていくけど。
………あ、反省会。
今日の作戦はというと、まあ上手くいったと言えるんじゃないかな。
脳内デブリーフィング、終了!今日は疲れた。お休みなさい。
(07月配信_五章_静かなリターナー達につづく)
■Kちゅけの独り言
以下、「ゲーム企画書_UFO潜入救出アクション(仮)」を上司に見せた時の反応です。
「潜入アクション」が発明された時、見下ろし視点だったって知ってる?生まれてもないだろうから知らないのも当然だろうけどね…」
「あと、Rスティックでガジェットを振り回せるゲームがあったんだけど知ってる?ゲッチュするゲームなんだけど、ゲッチュって言っても分からない?…ゲッツ!も通じない?あぁ何てことだ…」
「往路と復路には可能性を感じるね。きっとインディーゲームに似たようなコンセプトのものはあるだろうけど、そこ気にしだしたらきりないからね。往路と復路、良いんじゃない。もっと掘り下げてみたら…」
◆
別の話です。まだ発表できませんが、何やら嬉しい知らせが舞い込んできました。
舞い上がりすぎないように気をつけて、地に足をつけてプロジェクト業務と教育カリキュラムに励もうと思います。
ゲーム会社新人カリキュラム課題「なろう」小説連載で人気得るべし…を遂行中。
という訳で…ブックマーク、☆評価をよろしくお願いします~
上下 Kちゅけ(ゲームデザイナー)





