05_三章_デバッグ日誌
■著者前書き
こんにちは。著者の上下Kちゅけです。読者の皆様にお詫びがあります。
先月の前書きで不穏な空気を漂わせ、読者さんに心配をお掛けしました。また、私の思い込みというか自意識過剰な反応を上司に指摘されました。
今思えば実際騒ぎという程の状況にありませんでしたし、読者さんのちょっとした反応を大袈裟に捉えすぎていたと感じています。世間の注目を集めているんだという現実ではない自己認識、とってもカッコ悪い虚栄心に囚われていたんだと思います。目が覚めました。誠に申し訳ありません。
そして先月プロジェクトが忙しいと言っていたの、あれ嘘でした。本当は悩みのせいで執筆活動にスランプが訪れてしまっていたんです。
それも解決しました。プライベートな話なので詳しくは述べませんが仕事にも執筆にもやる気がみなぎっています。今なら何でもできそうな気がします。一度きりの人生、悔いなく生きてやるぞー!(結局、目が覚めていないって?しばらく経ってこの前書き見たら恥ずかしいんだろうなー)
■もくじ
・01月配信_零章_著者前書き
・02月配信_序章_セレンディピティ
・03月配信_一章_集められた4人
・04月配信_二章_活動開始
・05月配信_三章_デバッグ日誌 ← ◆今ココ
・06月配信_四章_やかましいデバッガー達
・07月配信_五章_静かなリターナー達
・08月配信_六章_符合
・09月配信_七章_裏側へ、そしてリーダー交代
・10月配信_八章_ベストカップル・オブ・ザ・ワールド
・11月配信_九章_天国サイドと地獄サイド
・12月配信_終章_俺たちの戦いは始まったばかりだ!
■これまでのあらすじ
・大阪とサンパウロに謎の巨大UFOが出現。何も起こらず20年経過。
・ゲート通過型VRゲームを開発中にバグ?で円盤内部への侵入ルートを発見。
・船内に閉じ込められている地球人が多数いることを知る。
・警察官や自衛官はことごとく弱体化し、まともな潜入捜査ができない。
・特殊なDNAを持つ者だけがヒーロー化する。
・全大阪市民に対して検査を行なった結果、適合人材が見つかった。
・ゲーム会社のプロデューサー、ツクモはUFO対策本部のメンバー。
・適合者4人を集めゲート通過実験を行う。
・結果4人はUFO内部でゲーム的なヒーローキャラへ変身を遂げる。
・実験は成功だ!
・対策本部で救出作戦が練られる中、横槍が入る。
・潜入救出作戦で宇宙人に刺激を与え、宇宙戦争になるリスクは負えない。
・政府の最終結論として、「作戦中止」が決断される。
・ゲーム会社のプロデューサー・ツクモは、決断に納得できなかった。
・実験的な検査で死んでしまったエンドーは犬死ではないか…
・国がやらないなら自分が指揮して救出作戦を継続しよう。
・彼は秘密裏にUFOに対する「レジスタンス活動」を開始する。
■この章のあらすじ
・男子高校生の適合者1号がデバッグバイトで雇われる。
・彼は現実に拉致被害者をUFOから救出していると知らずゲームだと信じている。
・高校生活では親友のホッタや気になる女子あめりんと青春を謳歌している。
・プロデューサー・ツクモの指示を受け、徒然なるままにデバッグ日誌を書く適合者1号。
・単調なゲームに飽きが来てUFO内で暴れまわったことをトリガーとして難易度急上昇。
・中ボス・ミカエルに苦戦する適合者1号。褐色の美女NPCとの邂逅と共闘。
・褐色の美女NPCは去ったが、今後はマルチプレイでゲームに挑むことになる。
・ツクモは政府により中止判断された拉致被害者救出作戦を秘密裏に続けている。
・秘密の活動に対策本部で知り合った日系人心理カウンセラー・ガブリエル本田が加わる。
・【ネタバレ】ガブリエルは地球人に同情的な宇宙人。ツクモは気づいていない。
・活動資金源についても適合者1号がUFOから持ち帰るレアメタルのおかげでめどが立つ。
・ツクモはレジスタンス活動を軌道に乗せることに成功するが、暗黒面に片足を踏み入れる。
■本文
●デバッグ日誌から抜粋 その①
デバッグ日誌を書くようプロデューサーのツクモさんから言われたので日記とか作文は得意な方じゃないけど書きます。僕は大阪市天王寺区在住、高校1年男子。使用キャラのヒーロータイプは忍者です。
普段はコテコテの大阪弁を使いますが、日誌は標準語で書きます(ツクモさんに読みにくいからやめてと言われた)
将来の夢はゲームクリエイターか漫才師になること…ですが、デバッグ日誌には不要な情報でしょうね。
デバッグしているゲームは「エンド・オブ・ゲームズ(仮)」というタイトルのVR/COOPアクション。ゲートを通過することでVR空間に没入できるゲームセンター向けの最新型ゲームです。
自然にゲームの中に入り込んでいく感じはこれまで味わったことがなく、まさに未来です。
未発表の最新ハードだそうで、そんなゲームを先行して遊ぶことができるなんて最高です。
SNSで自慢したいけどDNA?秘密契約?があるので絶対にダメ。破ると高額賠償だそうです。
(ツクモ注:NDA。守秘義務契約の間違い。完全に間違えて覚えているようで、この後も何度もDNAが出てくる)
●デバッグ日誌から抜粋 その②
学校が終わるとほぼ毎日、天王寺の高校から自転車でこのゲーム会社まで通勤してます。時給はなんと2千円。1日4時間だから8千円。月15日として12万円。
ゲーム遊んで12万。すごくないですか?時給の話も外ではしてはいけないそうです。すいません、これもデバッグ日誌に不要な情報でしたね。
デバッグをネットで調べると「エラーやバグを見つけること」とありました。でも、僕はほとんどの時間をただ遊んでるだけ。報告はこの日誌だけで良いそうです。まだ本格的な開発段階じゃないからかな?
●デバッグ日誌から抜粋 その③
真面目にゲームのことを書きたいと思います。ぶっちゃけ開発中なのでグラフィックは殺風景過ぎるし敵配置も雑で、まだあまり面白くないです。
道を進んで、情報端末でサーチして、囚われている人達を開放して、出口まで連れ帰る。自分の強さに比べ敵が弱すぎるために歯ごたえがありません。簡単過ぎます。
でもこのゲームですごいと言えるのはVRゲームなのに酔わないこと。僕は元々3D酔いしにくいタイプですが、他のVRゲームでこれだけ激しいアクションしたら酔います。
このゲームは非VRゲームのアクション並みに激しい動きができるのに全く酔わない。これはVRゲームにおける革命。レジスタンスです!
(ツクモ注:レボリューションの間違い。雰囲気近いが「レ」しか合っていない)
●デバッグ日誌から抜粋 その④
気に入っているのは、ヒーロー化のゲームシステムです。スキャナーゲートが活用されたユニークなシステムでゲートには3D人体スキャナ機能があり、人体データと本人の願望を混ぜてゲームキャラになります。
最初にも書きましたが、僕のヒーロータイプは忍者です。忍者はとても好きなので、願望を叶えてくれてありがとうという気持ちです。
そう言えばバイト面接時の実地テスト?で他のプレイヤーキャラも見ました。僕以外のバイト候補?の人は3人いて、それぞれインパクトあるキャラに変身しました。
とってもきれいで品の良さそうな女の人が美人アサシンになったのは納得でした。しかし、僕より年下の女子が怪力虎男。かなり年上の男の人がプリマドンナになったのは納得できませんでした。
それが本人の願望なら仕方ありません。男が女アバターを使うのはわりと定番ではありますが、女子がマッチョなケモノ男を使うケースは珍しい気がします。
●デバッグ日誌から抜粋 その⑤
スキャナーゲート活用はキャラメイキングだけではありません。ゲート通過時の服装や持ち物がスキャンされゲーム中のヒーロースキンや武器スキンとして反映されます。
僕の場合、忍者は忍者なんです。レプリカント忍者やカウボーイ忍者など色んなタイプの忍者になれるので飽きません。色々服装や持ち物を試したくなってバイト代を服や小物購入につぎ込んでしまいます。
逆にゲームから持ち帰ったアイテムは謎の金属に変化します。どんな仕組みなんだろ?金属はツクモさんに渡します。
………(デバッグ日誌中断)
◆
適合者1号がバイトを始めて1か月が過ぎた。UFO拉致被害対策本部が解散して2カ月になる。解散が決まった時、警察による「3D人体スキャナーゲート」の押収が決まった。ツクモは素直に応じたが実はこれは開発室にもう一台あった別のUFOとつながっていないゲートで、ツクモが意図的に入れ替えたものだった。
ツクモは対策本部にいる時エンドーの件で内心は強い反発心を持っていたが、それを態度に一切出さなかったため特に疑われることなく警察を騙すことができた。
対策本部が解散する前ツクモには出会いがあった。ガブリエル本田という日系人心理カウンセラーで、拉致被害者のケアと被害状況の聞き取りを担当していた。ガブリエルは対策本部に対するツクモの不信感を見抜き、救出作戦が中止された後も個人で継続していくつもりであることに勘づいていた。そして咎めるどころか協力を申し出た。
ツクモとしてはUFOから被害者を救出する指揮を執る算段は立っていた。しかし救出した被害者をケアし元の生活に戻すのは門外漢。ガブリエルは自分になら警察や政府に頼らずにそれができるネットワークがある。そう言ってツクモを説得した。全幅の信頼を寄せた訳ではないが、確かに自分には手が余るためガブリエルと手を組むことにした。
◆
UFO拉致被害対策本部が解散しツクモは出向していた対策本部からゲーム開発現場に戻った。最初にしたのが適合者1号の男子高校生をバイトに迎え入れることだった。本来ツクモの会社がデバッグアルバイトを雇うことはない。デバッガーは開発段階がもっと進んだ時に販売元が雇い入れるのが通例だ。
ツクモは会社を騙した。UFOとつながったバグ原因を究明するために政府から補助金が出たので適合者を雇ってバグ原因を究明すると説明し決済にこぎ着けた。実際はもちろん補助金など出ておらずツクモの私財が投入された。
◆
優越感。自分は世間に公表されていないすごい秘密を持っている。
ゲーム会社でデバッグのアルバイトを始めた男子高校生は甘美な感情に酔いしれた。
今、親友のホッタやちょっと気になってる女子、あめりんと楽しく話をしているが、この2人はオレが最新VRゲームの開発に携わっているとは知らない。DNA秘密契約上言えないのだが良い時給&楽しいだけの仕事で、そしてそしてツクモさんによるとエンドクレジットにも名前が載せてもらえる特典までついてくる高額裏バイトをしている。しかも裏だけど誰も傷つけない夢のある仕事だ。
他愛もない会話をしている高校1年生はゲームの歴史に名を残す神ゲー(予定)に携わっている。楽しい会話をしているので不自然ではなかったが、顔がにやけっぱなしだった。
ホッタとは漫才コンビを組んでいて週末はネタ合わせを淀川の大きな橋の下でしている。あめりんは、めちゃかわいくて時々ネットや雑誌に読者モデルとして載る。しかもお笑いやゲーム好きで話が合う。いやいや…ありえないだろうという妄想上の理想女子的な存在だ。そしてたぶん、オレの事が好き。
二人には平日学校終わりにフロア清掃のバイトをしていると言ってる。飲食やコンビニでバイトしてると言ったら遊びに行くと言われそうだからね。さあ、放課後の会話はこれぐらいで切り上げてフロア清掃のバイトに行くとしよう。
………(デバッグ日誌再開)
●デバッグ日誌から抜粋 その⑥
嫌な点…というか問題ありそうな点は、ゲームで死んだ時ゲートからかなりの勢いで放り出されること。ゲームはとても簡単なんで死ぬことはほとんどないんですが、バランスおかしい時があって一撃死はたまにあります。
初めて死んだ時は放り出されるなんてことは聞いてなかったので、機材に思いっきり頭ぶつけそうになりました。その後対策として転がり出た時壁に激突しないように分厚いマットを置いてくれるようになりましたけど…
そもそも放り出されるシステムをやめるか、勢いを弱めた方が良いと思います。あれは危ない。
この日誌でも何度か書いてますが、改善されていません。日誌にではなく、バグトリ?(バグトル?バグトレ?)とかいうデータベースに登録した方が良いのかな?
●デバッグ日誌から抜粋 その⑦
同じことの繰り返しです。
示されるルート指示アナウンスに従いダンジョン内をあまり手応えのない敵を倒しつつ進む。閉じ込められている囚われの人達(びっくりするとゆるキャラに変身。かわいい)を探し出し、護りながら来たルートを連れ帰る。
この何週間か特に新規要素の組み込みもないまま、毎日これの繰り返しです。
正直、もう少し難易度を上げてもいいと思うのですが。それともオレが上手くなり過ぎたのか。
ストレス溜まって一度ダンジョン内でどこまで自由に振舞えるか試すため、めっちゃくちゃに大暴れしてみたことがありました。なるほど、何か色んなものがちゃんと壊れるし物理反応もするしでちょっと感心しました。ツクモさんにはめっちゃ怒られましたが。血相変えて「墜落したらどうすんだ!」って言ってたの、あれは何だったんだろう。墜落?ゲーム業界の用語かな?
●デバッグ日誌から抜粋 その⑧
その何日か後かな?大規模バランス調整が行なわれ、急に勝てなくなってしまいました。
敵NPCの体格や装備が大幅に強化されAIも突然良い動きをし出してビビりました。
そして、何と言っても中ボスの警備室長ミカエル。あいつは反則の強さです。体もデカいし、変なディレイ攻撃してきて回避のタイミングずらされるし、とにかく手強い。何回死んだか分かりません。
あと、態度がムカつくんですよね。敵ボイス、こいつで初めて聞いたんですがエリート感漂わせつつこちらを見下している感じ、最高にムカつきます。闘争心が駆り立てられる良い中ボスですね。
昨日までゆるゆるだったのに急に鬼難度。調整ヘタだね…って正直思っちゃいましたけど、ちゃんと激熱展開を用意してくれてました!何度か目の中ボスバトルで突然、褐色の美女NPCヒーローキャラが乱入し共闘展開。めっちゃ盛り上がったなー。NPCキャラと息を合わせて連携必殺技を撃って中ボス・ミカエル倒したときの爽快感は最高でした。そして、吼え面かいて逃げ去るミカエルが良い味出してました。
褐色の美女は去ってしまってその後登場しませんが、早く再会したいです。のちの展開でレギュラーキャラになるんですかね。そうであって欲しい!
●デバッグ日誌から抜粋 その⑨
褐色の美女NPCが再登場しないのに難易度は高いままなので困っていたらツクモさんから嬉しい知らせを貰いました。これからはマルチプレイでいくそうで、以前一度だけ会ったことがある「あの連中」が来週からデバッガーとして加わるとのこと。これは楽しみ。
●デバッグ日誌から抜粋 その⑩
残念なのはデバッガー仲間がプライベートで仲良くすることを禁止されたことです。お互いの個人情報は交換しない、電話番号やLINEの交換も禁止、身の上話もしないし本名も明かさない。バイトの契約書が更新されてDNA秘密契約にこんなことが書かれていました。
ゲームの秘密を守るために必要なことなのかもしれません。でも、お互いを番号で呼び合うように…って言われて、さすがにそれは囚人みたいだからイヤだと抵抗してしまいました。
なので、自分の番号をもじったプレイヤーネームをそれぞれが考えました。
①イッチ …ヒーロータイプ・忍者。中の人、オレ。
②ニコ …ヒーロータイプ・怪力虎男。中の人、多分年下なのでJC。
③ミミミ …ヒーロータイプ・美人アサシン。中の人、美人OLか美人秘書。
④ヨバン …ヒーロータイプ・プリマドンナ。中の人、おっとりパパさん。
お断りするまでもないと思いますが、中の人の部分は完全にオレの想像です。
いよいよ明日からニコ、ミミミ、ヨバンが参戦してマルチプレイです。頑張ります!
………(デバッグ日誌引用ここまで)
◆
ツクモは当初私財を投じて適合者1号を雇っていた。加えて適合者2~4号も雇うことにした。2号は学生アルバイトなので1号並みの時給で満足だろうが、他は大人だ。
毎月の人件費が馬鹿にならない状況だがツクモは心配していなかった。もちろん政府機関から本当に補助金が出ることになった訳でも、救出費用を被害者に請求するようになった訳でもない。
問題を解決してくれたのは適合者がUFOから持ち帰る未知の金属だ。
適合者1号が日誌⑤で言及している持ち帰ったアイテムがゲート通過で変化するという「謎の金属」。これは地球上に存在しない金属なので少しずつ闇のマーケットに流すことで安定した資金源となった。
売り捌かれた未知の金属が悪用されるのではないかと気になるが、他に手はなくきれいごとを言ってられなかった。
エンドーの遺志を受け継ぐためツクモは色んな人に嘘をつきモラルに反する取引も行った。そして、そのエンドーの遺志とやらもツクモの思い込みに過ぎないのかもしれなかった。
ツクモの始めたレジスタンス活動は、勢いづいて簡単には止まらない雪崩のような力強さを得た。
(06月配信_四章_やかましいデバッガー達につづく)
■Kちゅけの独り言
ここで今の私の気持ちを表す自作(AIとの共作)ポエムを披露しようとしたのですが、同僚(私の小説連載を支える良きアドバイザー)に止められたのでやめておきます。
その分、昂る気持ちは今回の小説に込めました。皆様に届いてますでしょうか?
次回分はすでに書き上がっているので1週間後に投稿したいと思います。
ゲーム会社新人カリキュラム課題「なろう」小説連載で人気得るべし…を遂行中。
という訳で…ブックマーク、☆評価をよろしくお願いします~
上下 Kちゅけ(ゲームデザイナー)





