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読書感想文

作者: 清水漱平

トラウマだった読書感想文

夏休みの宿題「読書感想文」それは小学生のときのこと


書けない


とにかく書けなかった


提出は必須


とにかく書かなくちゃ


書かなくちゃ?


そこで自分なりに考えに考えて考え抜いた結果として




『わたしは この本を読んでいます こんな感じの本です』


という感じのリポートスタイル


読書実況


言い換えれば『こんな感じ』『こんな出だし』『こんなひとが』『こんな子が』『魚が』



物語を要約して


ときどき自分の感想というか解説をしている




読書感想文は感想文つまり


感想


感想ってなんですか?


ふだん感情を表に出すことを制限させられた躾をされているし


『子どものくせに感想を言うなんて何様』みたいに怒られること多かったから


うかつに感想なんて言えないよ


っていうか


『感想述べよ』って言われたとたんトラウマ発動で体が硬直しちゃうよ


だからさ


読書感想文なんて無理です書けません


っていうのが本音


っていうかそれこの感覚も立派にひとつの感想なんじゃね?


とか思った


でも


根が真面目だったんだろうな


悪い意味で真面目だったからさ


書いた


書くことにした


挑戦して


やり遂げた


その結果が


先に述べたその


読書実況





言われたよ


『うん まあ よく書けてるよ 書けてるんだけど 感想って感じじゃないんだよなあ』


おお すげえ


うれしかった


だって


感想って感じじゃないってことは


おれの感情が出てなかったりとにかく感想らしいものがなくって


それって


おれが意識したもの


ていうか


父上 母上 あなたたちが わたしをそのように日頃から躾けていることそのままです


だから


おれ的には大成功じゃんって思ってしまって


感想の書き方をできないまま原稿用紙のマス目を埋める技術だけ覚えて


大人になりました




大人になりましたの『大人』っていうのは『中学生』のことだよ




大人になりましたの『大人』っていうのは『中学生』のことだよ?



わかる わかりますか これ 伝わるかなあ


だってさ


『いいかおまえ春からは中学生になるだろ大人になるってことなんだぞ


 いいか電車に乗るときは子供料金じゃない大人だ大人と同じ料金だ


 いいか中学生だからって安くしてもらえない


 大人として扱われるんだよ』


って熱弁ふるわれてしまった意味での


『大人』です





中学生の夏休み


読書感想文の宿題なくて


『なんでもいい 書け』


だった


書くことは書かなければいけないんだけれど


原稿用紙のマス目を埋める必要あるんだけれど


『なんでもいい』


好き勝手に書いてもいいし


なんなら『小学校のときみたいな読書感想文でもいいぞ』だった


提出したら


「ほう 小説か」


と先生が言った




おれは好き勝手に書くことも難しくて


ペンパルに作り話を聞かせるみたいな感覚の手紙そのまんまを


原稿用紙に書いた


宛名っていうか呼びかけるところは彼女の名前ではなく


かぎかっこで会話ってことにして


ひとりごとの文章を書いたんだけど


「ほう 小説か」


と言われたとき


『へええ そうなんだ?』


って思って


小説か 小説なのか まじか


って嬉しくて


そこから


物語を書くようになった



なったんだけど


土台は手紙だから


話し相手は彼女だから


いろいろ文章にチグハグ感たっぷりで


自分で読み返すと


『なんだかなあ』


だった





頭の中では


いい話だ


なんて得意になってるのに


文字にしたら


なんだかなあ




手紙ならスラスラ書けるし


なんなら伝わりやすいんじゃないのかな


って恥ずかしげもなく


自我自賛モード


だったりとかだった


のか


彼女に向かって書く手紙を


どこの誰が読むのかわからないけど『小説として』書き出したとたんに


なんだかなあ


ってなっちゃう





っていうのを


こんなにも歳月を過ぎていまもなお


かわんないとは


おそれいりました





好きな本ができた


出会った本


さらにまた


さらに


作家のことを好きになり


好きな作家が増えて


エッセイを知り




こんな感じで書いたら


『感想』になるんじゃないのかな


って


不思議な手応えが生まれたことがあって


そこからは自然に書けるようになったのかな



って思ってます





はい じゃあ いちばん後ろの席から前の人に渡して


どんどん提出してって はい そう そうそう さっさと送る渡す送る


で いちばんまえのひと あつめたら先生に渡すんだぞ いいな





「読書感想文が苦手です」

「それってさ、読みたくもない本を読まされてるからなんじゃないかしら」

「というと」

「読みたい本を読んで、その本のことを好きになったら自然に感想って言えるから」

「うん?」

「自然に感想って出てくるし、それが言えたら感想文を書くなんて簡単って思うよ?」




夏の陽射しが降り注ぐ窓辺は熱くて


ふだんより短いスカートからのぞく膝うえが眩しくてしかたなくて


いつも会話とは別のことばっかり考えちゃったりしてたけど


読書感想文が書けないまま大人になったっていうことなのかな



作文が苦手じゃなくなり、いまでは自由に書いている。ポエム。ノベル。だけど、手紙の延長みたいな感覚なのかなあ。

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