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流浪人勇者  作者: 神座光
5/5

小さな一振り

暖かい朝、こんなに心地の良い寝覚めは初めてだ。黒だった虹の心も今日は白なのだと確信できる。

「Good morning.」

静かな部屋に幸せが舞った。


軽いからだが食を求めて向かう。迎えてくれたのは笑顔の未来、或いは過去達。

「シンおはよー。」

「おはよー、シン。」

「おはよー。」

昨日までは毒だった言葉も今日は薬だ。

「おはよう。」

僅かに口高く返す俺を、村長やルミが微笑見(ほほえみ)る。

「良い顔しとるじゃないか。」

「ありがとうございます。」

照れ臭くも確かに言葉を紡いだ。


「シン、今日も一緒に勉強する?」

「シンは畑仕事、皆は剣の練習と勉強だ。」

「「「えぇ~。」」」

何人かががっかりしてくれる。それに応えたくて、

「今度また一緒に勉強しよう。」

と言う。

「「「うん。」」」

満面の笑みにこちらも嬉しくなる。朝食を噛み締め畑に向かった。


ビュッ。ビュッ。

畑から帰ってくると、素振りの音が聞こえる。誰が振っているのか音でわかる。何となく吸い寄せられて、少し遠めに眺める。

「シンもやってみるか?」

気付かれていたらしい。人間には本当に第六感でもあるのだろうか。会話しやすいよう少し近づいて、

「遠慮しとくよ。」

と断る。元気にはなったが、運動はそれほど好きではない。

「そういうな。案外楽しいかもしれないぞ?それに子供達と一緒に練習してもらうことになるかもしれない。」

「・・・分かったよ。」

あの笑顔を向けられて断る自信はない。少しでも知っておいた方が良いだろう。

ブオンッ。

重たい感触。子供達の方が軽やかに振っていたかもしれない。

ブオンッ。ブオンッ。

「難しいな。」

少し意地になって振ってみるが重たくて仕様がない。やはり剣のセンスが無いのか?

「重たいだろう?」

微笑を浮かべてルミが煽ってくる。また少し意地になり。

ブオンッ。ブオンッ。

と重たい音を振りまく。

「待て。次は握りを変えて振ってみろ。」

ルミストップがかかる。

「握りを変える?」

頭に疑問符を浮かべる俺の手をルミが動かす。

「親指と人差し指で柄を挟むように握るんだ。こうすると、握る力に加え、押す力がかかる。」

「・・・成程?」

言っていることは分かったが、これでどれだけ変わるのやら、

ブオッ。

剣が軽くなった。固まっていたらしい俺に、

「全然違うだろう?」

と少し嬉しそうなルミ。センスの問題ではなかったようだ。いや、こういうことに最初から気付いてしまう奴を、センスがあるというのかもしれない。しかしそんなことはどうでも良くなっていた。出来たのだから。この変化を味わえているのだから。

「案外、これだけなのかもしれないな。」

「?」

日本での暮らしを思い出し、少し後悔する。勉強や運動、芸術、多くの人が才能と努力という言葉に苦しんでいた。でも、ひょっとしたら、小さな違いを知らなかっただけなのかも。知っていたら、知れたら或いは・・・。

「ありがとう。良い経験になったよ。」

「?それはなにより。」

何の事かは分からない、けれど嬉しそうにルミが笑う。そのまま夕食までルミと剣を振った。

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