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流浪人勇者  作者: 神座光
4/5

今日は太陽が姿を見せないので農作業はお休み。音楽も漫画もゲームも無い静寂の時。一人でいると思考が巡り過ぎていけない。エネルギーが海馬に集中するのは病めるが、止められない。と、世界の圧力に負けそうになっていた俺の耳に元気な声が聞こえてくる。何となく吸い寄せられる希望の光。扉を開ければそこに鏡でもあるかのようだ。もっとも、俺の姿は感激するほどのものではないのだが。


「ルミ姉分かんない。」

「俺分かったー。」

「簡単じゃん。」

「勉強つまんない。」

「ごめん。私の教え方が悪いのかもな。」

ルミが方程式を教えていた。意外と進んでいるんだな。

「シンどうしたのー?」

子供達が一斉にこっちを向く。

「いや、何をしているのかと思って。」

「勉強だよ。シンも一緒にやる?」

「あぁ、えっと・・・。」

助けを求めるようにルミに視線を送ると、

「すまないが、一緒にやってくれないか?」

と。断ることが出来ずに結局一緒にやることに。空いていた席に座り、子供達と一緒にルミの授業を聞いた。教え方は普通だ。日本の授業と何ら変わらない。しかし理解できない子もいるようだ。当然か。中学校もそうだった。そこで何を思ったのか、俺は「分かんねー。」と嘆いている子の元へ行き、

「何が分からないんだ。」

と聞いた。自分の分かることだから少し傲慢が出てきたのかもしれない。

「分かんない。」

何処が分からないかも分からないようだ。

「一緒にやってみよう。」

そう言って、変数とは何なのか、移項とは何なのか、一つ一つ再確認しながら、ゆっくりゆっくりと解いていった。すると、

「あ、分かった。シン、ありがとう。」

「凄いな、一日で理解できるなんて。」

「あ、シン初めて笑った。」

「え?」

どうやら笑みを漏らしていたようだ。するとルミがフッと笑って。

「シン、悪いが一緒に教えてくれないか?」

と聞いてきた。

「ああ。」

久しぶりに楽しかった。


「今日はここまで、皆お疲れ様。」

ルミの合図で授業が終わる。

「わーい、遊ぼ遊ぼ。」

「何する?」

「かくれんぼとか?」

「絵本読もうよ。」

子供達がウキウキと今日の残りをどう過ごすか騒いでいると、一人が寄ってきて言った。

「シン教えるの上手だね。分かりやすかった。これからもよろしくね。」

「あぁ。」

そんな気のなさそうな返事を返してしまう。

「シン、何で泣いてるの?」

「え?」

腕で目を拭う。確かに濡れていた。そして目の前の子を強く抱きしめた。

「ごめん。ありがとう。」

嬉しかった。生きるなんて、こんなことで良かったんだ。

「シンが泣いてるー。」

「変なのー。」

他の子達に揶揄われる。涙を拭って、何故か強がってしまって言う。

「雨だよ。今日雨だから。」

意味が分からない。室内なのに。でもこの雨が何時か全てを洗い流してくれたらと、強く願った。

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