魔女の薬を使ったら殿下の本音が聞こえるようになりました。
久しぶりの投稿です。
半分ほど書いていて残り半分を書いてあと少しで終わるという所でまさかのデータが消えるという事態になり、かなりショックを受けました。
勢いで書いていたのでなんて書いていたのか思い出せず、元々考えていたのと違う感じになってしまった様に思います。
暖かく見ていただけると幸いです。
王宮では二人の男女が向かい合って座っていて、互いに会話もなくカップの置く音だけがなるこの空気。
(気まずい)
座っているのはこの国の王太子アステル・クレール殿下。そして婚約者のエレノア・シュタイン公爵令嬢である。
そう、殿下の婚約者なのだ。
婚約者のはずなのだが……。
(私って婚約者だよね?)
もう何杯目か分からない紅茶を飲みながら考える。
王太子殿下の婚約者に決まってから始まったこのお茶会は、既に半年は経っているのに未だに殿下とまともな会話をしていないのだ。
挨拶すれば返事もあり、問い掛けにも口数は少ないが答えてくれる。しかし、顔は違う所を向いていて目が会うことはないままお茶会が終わるのだ。
最初はそういうものなのかと思っていた。
なんせ殿下は真面目で仕事熱心な方で、女性と会話をするのが苦手だと聞いていたからだ。
なので、あまり話し掛け過ぎず適度な距離を保とうと心掛けていたのだが……。顔すらこっちに向けない姿を見ていると。
(あれ、もしかして嫌われてる?)
と思うようになった。
ため息が出そうになるのをぐっと堪え、カップを口につける事で誤魔化す。
「最近お忙しいとお聞きしました」
「任される事が増えてな」
「仕事熱心なのは殿下の良い所でございますが、お身体が心配です」
「……大丈夫だ」
「殿下の休憩を私とのお茶の時間に使ってしまうのは申し訳ないですわ」
「そなたが気にすることでは無い」
(いやいや、少しはこっちを見なさいよ!! なんでずっと横見てるの!? 逆に変だから!)
少しも動かない殿下に少しイラッとするエレノア。
しかも、お茶会しなくてもいいですよーっと含んだ言葉をバッサリ斬られる。
その後は微妙な空気のまま解散となった。
自宅に戻りソファに座ったエレノアは我慢していた溜息を吐く。
「本当に婚約者なのかしら」
王家から打診された婚約だったが、殿下にここまで嫌われていたら次期王妃にはふさわしくないのではないのだろうか。
だからと言って簡単に解消は出来ない。
「せめて、殿下の気持ちが分かっていたら……」
好かれているとは思わないが、せめてどれぐらいの嫌いの程度なのかが知りたい。
ボーッと考えていると扉をノックされ侍女のリリアが入ってくる。
「お嬢様、飲み物でもいかがてすか?」
「ありがとう。でもお腹がいっぱいだからいいわ」
「夕食は大丈夫ですか?」
「それまでに何も食べなければ大丈夫よ」
間を繋ぐために飲み続けたお腹は未だにぱんぱんだ。
「リリア、殿下のお気持ちが分からないのだけれど、どうしたらいいのかしら」
「殿下のお気持ちですか?」
「嫌われているとしてもどれくらいかは知っておきたいでしょ」
「そんな……嫌われているなんて」
「殿下の態度を見ていたら分かるの。でも、婚約者として次期王妃として殿下を支える存在ではいたいの」
「お嬢様」
少ししょんぼりしたリリアだったがとある事を思い出す。
「そうだ! お嬢様、魔女の話を聞いた事はありますか?」
「魔女?」
「はい。首都の隣にある森には魔女が住んでいるそうで、そこで殿下の事を相談してみるのは如何ですか?」
――ただ、必ず会えるとは限らないそうです。森が導いてくれた人のみが魔女に会う資格があるそうです。
※
「うーん、どこかしら」
フードを被って一人森を歩くエレノア。聞いていた目印を元に歩いているけれど、それらしい家は見られず私は資格がなかったのかもと落ち込んでいると。
「あれ、もしかして……」
急に森が開け一軒の小さな家に辿り着いた。
「ここが魔女の家?」
おそるおそるドアをノックすると……。
扉が開き中から老婆の声がした。
「入んな」
「お邪魔します……」
家の中は薬草や花が吊るしてありここも森の様であった。
そして、そこには黒いローブを着て白髪で髪の長い老婆が立っていた。
「いらっしゃい、こんな所までお客が来るなんて久しぶりだね」
「あの、貴女が魔女ですか?」
「あたしになんか用かい?」
「あの御相談がありまして」
この国の王太子殿下という事を隠しながら、婚約者の気持ちが分からなくて不安だという事を伝えどうにか出来ないか相談をする。
「相手の気持ちを知りたいねー」
「はい」
「それなら、この飴を渡そう」
「飴……ですか?」
渡された飴は小さな瓶に入っていて、透き通ったオレンジ色をしていた。
「これは飲ませた相手が本音しか言えなくなる飴さ」
「本音しか言えない」
「そうさ、飲み物に混ぜてもいいしそのまま食べてもいい。口に入れた後に質問をすると本音が聞けるのさ」
「凄いですね」
「ただし、飲ませるのは一日一回にしな。身体に害はないがだからと言って多量摂取は良くないからね」
「分かりました、ありがとうございます」
「良いさこれくらい。あんたらが仲良くないとこの国の将来が不安だからね」
「あ、私の事……」
「何でも知ってるさ、あたしゃ魔女だからね」
「ふふっ」
早速、次のお茶会で入れてみる事にした。
相変わらず殿下はこちらを見ない。お茶会準備が終わりメイドが下がる。紅茶に砂糖を入れようとする殿下に声を掛ける。
「殿下、今日はお砂糖の変わりにこれを入れてみてはいかがですか?」
「何だこれは」
「飴なのですが、ほんのりとした甘さが紅茶に良く合い美味しいんです」
「……そうか、せっかくだから頂こう」
一粒紅茶に混ぜ飲む姿を見守るエレノア。
見た感じ何かが変わった様子は見られないけど……。
「あの……殿下」
「なんだ?」
「殿下はその、私の事をどう思いですか?」
ずっと聞きたかった事をついに聞いてしまい、殿下がなんと言うのか不安になる
「……綺麗だ」
「へ?」
「あっ、いやその」
「それは一体」
「もちろん君の事だエレノア」
「っ!」
「なんだっ、口が勝手に……」
勝手に喋る口にあたふたし、手で塞ぎこれ以上喋れないようにするアステル。
「申し訳ございません! 実は魔女に頼んで人の本音が聞ける飴を作って頂いたんです」
「魔女に……?」
「はい、どの様な処罰も受けます。ですが、その前にお話しがしたくて……不安だったんです。私は婚約者として相応しくないのではと」
「え、」
「少しでも支えられる様努力してきたつもりです。ですが、殿下は私の顔を見るのすら良く思われていないご様子ですので、それならばこの婚約を解消して……」
「違う!!」
勢いよく立ち上がる殿下。その顔は今まで見た事ないような辛そうな顔をしていた。
(辛いのは私の方なのに……なのに何で)
「違うんだエレノア」
「何が……でしょうか」
「私は君を嫌ってなんかいない!」
「っ、ではなんで私を見て下さらないのですか! いつもいつも違う所を見てこちらを見向きもしない、それだけ私が嫌なのでしょう!?」
こんな事を言いたい訳じゃないのに、一度溢れてしまった気持ちは止まらない。
もう、疲れてしまった。
その時、アステルがエレノアを抱き締める。
その力強さにときめいてしまう。
「で、殿下?」
「すまない、エレノア。君をこんなに不安にさせてしまって、ただ私は……」
言葉を切り、言おうか迷っているのか、ぐっと抱き締める力も強くなる。
「殿下教えて下さい。殿下の本当の気持ちが知りたいのです」
「エレノア」
本当の気持ちが知りたい。たとえ、結果的に婚約が解消になろうとも。
「私は……エレノアが好き過ぎて直視出来ないんだ!!」
……………………。
「え、」
好き?殿下が誰を?
「えっと」
段々と赤くなるアステルの顔に、本当の事なのだという事が分かる。
「一目惚れなんだ」
手で顔を覆いながらも目だけはエレノアを捉え、恥ずかしいのに目を逸らす事が出来なかった。
「初めて会った時こんなにも綺麗な女性がいるのだと思ったのと同時に悲しくもなった。もちろん、君は王妃として相応しく私に尽くしてくれるのだろう事は分かっていた。」
「殿下」
「どんどん君に惹かれていく自分がいた。だか、政略結婚で一緒になった義務なのだろうと思うと上手く接する事が出来なかったんだ」
「……」
「だからといってそんな態度をして良い理由にはならない。……こんな私に嫌気がさしたか?」
魔女に頼んで狡したとはいえ、殿下が本音で話して下さった。
それなら私も本音を伝えるべきだ。
「確かに……今までの殿下の態度は良かったとは言えません」
「っ」
「殿下と過ごす日々は辛く。私は本当に殿下に相応しいのかと、他にも王妃に相応しい方がいるのではと思い婚約解消も考えました」
「っエレノア」
「でも、諦められませんでした」
ドレスをぎゅっと握る。
「私も一目惚れだったんです」
「っ!」
「私も初めて殿下とお会いした時に、こんなに素敵な方が婚約者になるのかとドキドキしました。その後も殿下の誠実さや、民を思う姿によりお慕いする気持ちが強くなりました」
アステルの手を握りながら。
「私は殿下と本当の夫婦になりたいのです」
「そう、か」
「それに、女性一人に悩まれる殿下の目を覚まさせる事が出来るのは、私しかいないと思います」
「ははっ、私はずっと君の尻に敷かれるのだろうな」
「まぁ、酷いですわ」
ふふっと笑うエレノアに真剣な目を向けるアステル。
「殿下?」
「名前を呼んで」
「……アステル様」
「君が私の事を諦めなかったお陰で、こうして本音を話し合う事が出来た。ありがとうエレノア」
「はい」
「君を愛してる。これからも側にいてくれ」
「はい、アステル様。私も愛しています」
この国の王と妃は小さい子が知っている程、大変仲睦まじいと有名であった。その裏には魔女の手助けがあるとかないとか。
「おや、あのお嬢さんは王子と上手くいった様だね」
白い髪を纏めた老婆が椅子に座って新聞を見ながらにやりと笑う。
「魔女ねぇ……本音しか言えなくなる飴なんてそんな魔法みたいな物ある訳がないさ」
そう、魔女と呼ばれる老婆は本当はただの薬剤師で、長くそこに住んでいるうちに魔女と呼ばれる様になっただけだった。
あの時エレノアに渡した飴も変哲もないただの飴だったのだが、それを知るものはいない。
拙い文章でしたが見て頂きありがとうございます。
それはどうなの?と思う所もあるかと思いますが、ある程度はスルーして頂けたらと思います。