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三題噺もどき

タルト

作者: 狐彪

三題噺もどき―ひゃくななじゅうさん。


※匂わせ程度のGL※

 お題:焦燥・タルト・堕ちる



 夏の日差しが地を照らす。

 その陽を受けた木々は悠々とその身全てを使って、その恩恵を受け取っている。

 彼らのその行動は、巡り巡って人間にまで恩恵を与えているというのだから。この世界は何とも不可思議なものである。

「……」

 切っても切れぬ糸がピンと張り巡らされ。

 けして千切れぬようにと、どうにかつないで。

 それでも、それが少しずつほつれているのも事実ではあるらしく。これから何十何百年先には千切れているかもしれない。

「……」

 それも、今の私にはかかわりのないことだ。

 その頃には私はいないし。きっと他の人がどうにかしているだろう。どうにもならないかもしれないけれど。

 それはもう自業自得だ。己が身を呪い。己が先祖を恨めばいいさ。

「……」

 とまぁ、環境問題とやらに色々口を出してはみたものの。

 結局はもう、関係ないし。我関せずだし。

 今の私にしたら、心底どうでもいい。

 ホントにどうでもいい。

 ―けれどそういうどうでもいいことを考えていないと、やっていられないのも事実だったりする。そうしてしまうから。こう、余計な思考が回るのだ。

「……」

 やってられない―というか。んん…。

 自分の中にむくりと起き上がった。ひょっこりと顔を出した。

 一つの感情が。

 今の私の中を支配していて。

 それがどうも、起こしてはいけないもので。顔をのぞかせてはいけないもので。

 しかし一度生まれたそれは、どうにも、おさえが利かなくて。

 殺しようがなくて。


「……」

 ―1人の少女の話をしよう。

 ―1人の少女と、その友達の話をしよう。

 その二人は、いわゆる幼馴染というもので。幼い頃から共にいた。より正確に言うと、幼稚園の頃から。家が近くで、そこから共に、小・中・高と共に通ったりもしていた。親同士の関係も良好で、時たま家族ぐるみで出かけたりするほどの仲だった。

 実のところ、中学の時に一年ほど、この二人は諸事情あって遠くに離れていたことがある。それでも、共に在ることをやめなかった。

 いつでも共に、居ようとして。

 実際そうして、生きてきた。

 そんな風に2人。

 ―大学まで一緒にやってきた。

 大学というと、今までにないレベルの人間関係の改善がなされる。やり直しがされる。

 それまで、地元にいる人間だけで終わっていた同級生というものが、一挙に広がり、増える。

 それは、彼女たちも例外ではなく。

 ―いや、その少女はその例外の中の例外だった。

 交友関係は広がりはしたものの。どこまで行っても、その少女にとっての同級生は、その友達のたった一人だった。今までも、これからもそうであった。

 しかし、その友達は違った。例にもれず、その交友関係を広げて、広げた。

 少女はそれをよしとした。許した。

 何せ、少女は、彼女ではないから。

 友達は友達。少女は少女。

 そこはしっかり分かっていた。

 だから、その友達が他の友達と戯れようと、帰路につこうと、何とも思わなかった。

 ―つもりだった。

「……」

 けれど、そんな、つもりだっただけで。

 その少女は、酷く焦燥にかられた。

 唯一の幼馴染を。

 唯一の親友を。

 他の誰かに奪われて。取られて。

 まるで子供のようだと、自分でも思った。

「……」

 そして、その感情は。

 よくわからぬものとして、生まれ堕ちた。

 嫉妬なのか。

 友愛なのか。

 愛情なのか。

 独占欲なのか。

 そのすべてを混ぜ合わせたような。

 そんなものが、のたりと、首を上げ。

 少女の心をかき乱した。

「……」

 そんな少女は―そんな私は。

 それが何なのか、いまだにわからぬままに居て。

 ただそれは抱いてはいけないものだと。生み堕としてはいけないものだと。

 そう思ったのは確かで。

「……」

 だってこんなもの。

 こんな、ドロドロとしたもの。

 友達に向けられても困るだろう。今や数いるうちの一人になり下がった私ごときに向けられても。私だって困るのに。

 彼女が迷惑に思わないわけもない。

「……」

 あぁ、こんなもの。

 適当に吐き出せてしまえば楽だろうに。それができそうにもないのだ。

 捨ててしまえばいいの。後生大事に持っていたいと思ってしまったのだ。

「……」

 ほんと。いつからこんな風になってしまったのだろう。


「……」

 目の前で楽しそうにスイーツをはむ彼女を見て。

 私の幼馴染を見て。

 唯一の親友を思って。

 こんなぐちゃぐちゃなものを、生み堕として。

「それ、おいし?」

「ん、おいしいよ、」

 ―たべる?

 そう言って差し出された、ストロベリーのタルトは。

 どろりとした血液のように見えて。

 私のこの重いのように、想えて。

 吐き気がした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] どろりとした熱情を内に燃やす主人公。それでいて幼馴染の彼女の前では何食わぬ澄まし顔をよそおっていそうに思えました。 [気になる点] 誤字報告しましたが意図的なものであったのでしたらば、ごめ…
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