誤算
片付けを終えたゲオルク達には十分に休憩を取ってもらい、再びこの近辺の巡回に送り出した。その後、火葬場から帰ってきたアリューシャとカレンに、事の顛末を説明した。
「こんな物のせいで…お母さんが…」
お守りを手渡されたアリューシャの瞳から、大粒の涙がこぼれた。骨壺を床に置いたカレンが、そっと肩を抱いてやる。
こういうところはさすが気配り名人だよな。昨日…いや、一昨日だったか…アマユキもカレンがいてくれて助かったと言っていた。まったくその通りだと思う。
もちろん、カレンがいなければ他の誰かが同じようなことをするだろう。フェリシアさんあたりになりそうかな?興奮を抑えられずに、アリューシャから怖がられそうだが…。
いずれにしても、その役割は俺じゃない。そういうのは…苦手なんだ。どうしたらいいのか分からない訳じゃあない。上手く言えないけど、苦手なんだよな…。
今日もアリューシャの家に結界を張り、ライトニングカレンに後のことを任せて、俺達はいつもの民家に戻った。目的を達成して帰ってくる、というのは気持ちがいいね。この事件に関わって初めての達成感かもな。何だか小躍りしたい気分だぜ!
「何かいいことでもあったの?」
どうやら浮かれ気分が顔に出ていたようで、アマユキに思いっきり指摘されてしまった。気をつけないとな。
「そんなところだ」
ここは適当にお茶を濁すことにしよう。
「そんなことより…気が付いてる?」
「何にだ?」
アマユキは何でもないことのように尋ねてきたが、俺は何にも気付いちゃいない。なので、自信満々に聞き返してやった。それを受けて、アマユキは引きつった笑顔を浮かべながら小さなため息をついた。
「尾行されていたわよ。何人かで入れ替わっていたから、分かりにくかったけどね」
いきなり冷や水をぶっ掛けられたかのように、意識がシャキッとする。俺の中で芽生えていた楽観ムードが吹っ飛んだ。
「アマユキが言うなら…確かだろうな」
今日は冴えまくってるね。
「もちろんよ」
尾行していたヤツらはもういないようだが、念のために不可視の錫杖を飛ばしておこう。ここはチーフズクレア砦のすぐ近く。万が一にもこんな所で襲撃してくるとは思えないが、ウルマリスは侮れないヤツだ。油断はできない。
それはともかく、この件はみんなで共有しておかなければならないだろう。今は全員リビングにいる…ちょうどいいな。カレンとアリューシャが用意してくれた紅茶とラングドシャで一息ついてから、俺はアマユキから聞いたことをみんなに話した。
「やはり…油断はできませんね」
ユリーシャの表情は曇りがちだ。まったくその通りである。さっき浮かれてたヤツは反省しろ。
「だが、アリューシャは一昨日からここにいる…わざわざ今日になって尾行したのはなぜだ?」
おやおや、カレンさん…お疲れですかな?俺にはそんなに不思議なことでもない気がするぜ。
「ヤツらはわざわざ覆面をした軍の魔法戦士という出で立ちで通りを歩き、その姿を人前に晒したんだ。そのうえでシャーラレイを殺害すると、怪しげな魔法戦士を見た人達はそいつらがやったと思うだろう…そうすることで罪をアインラスクの魔法戦士に負わせ、アリューシャが俺達に非協力的になるように仕向けたのさ」
我ながらこの読みは間違いないだろう。
「離間策ってヤツでしね!」
ティアリスの口から離間策なんて言葉が出るのは、違和感があるでしね!
「いかにも狡猾なツザナさんが考えそうなことですねぇ…」
フェリシアさん、そいつにさん付けはしなくていいよ。
アリューシャは驚きの表情だが、カレンはむしろ納得顔だ。そりゃそうでしょうね。俺に読めていることが、カレンに読めていないはずがない。そして、俺には分かった…カレンとアマユキのアイコンタクトが。なかなかの名コンビですなぁ。
「それで…どうするの?」
アマユキがカレンに今後のことを尋ねた。いや、カレンに促した…と言った方がいいかもしれない。あとはカレンがアリューシャを説得して、お守りを渡してもらえば完了だ。ちょろいもんだぜ。
だが、ほくそ笑むなよ…俺。さっきは思いっきりアマユキに指摘されてしまったからね。ポーカーフェイスのさらに上を行く、クールフェイスを貫くんだ。俺が超クールに成り行きを見守るなか、カレンが紅茶を一口飲んだ。そして、おもむろに口を開く…よりも先にアリューシャが口を挟んでしまった。
「わ、私にも…協力させてください!」
おいおい…どうすんの?これ…。
 




