見えてきた首謀者
そうは言っても、お守りの持ち主の手がかりになりそうなものは何もない。この事件の首謀者が3人目のお守りの持ち主にどこまで迫っているのか…それは分からないが、ちっとも迫れていない俺達の方が出遅れているのは間違いないだろう。
またゲオルクが何かいい仕事をしてくれるといいんだけどな…おそらくアインラスク市内を歩き回っているであろう、あの男のことを考えていた時だった。
コン、コン…
真鍮のドアノッカーを頼りなさそうに鳴らす音が響いた。これは間違いなくゲオルクだ。誰が来たのか…音で分かるのは便利だね。玄関のドアを開けると、そこにはゲオルクと、その後ろに意外な人物が立っていた。
「クランドール?」
正直に言うと、この男がここに来ることはまったく予想していなかった。さすがに面食らうぜ。
「中に入ってもいいかな?」
「ああ、どうぞ…」
クランドールから親し気に話し掛けられ、俺もまるで友人を家に上げるように応対してしまった。
よくよく考えると失礼だよな。クランドールはまったく気にしていないけど。ユリーシャ達にとってもこの来訪は思いもよらないことだったらしく、リビングに入ってきたクランドールをしげしげと見つめている。
「驚かせてしまい申し訳ありません。ですが、速やかに報告しなければならないことがあり、手が空いている者が私以外にはいなかったもので」
クランドールもさすがにバツが悪そうだ。
「いえ…それでどのようなことでしょう?」
ユリーシャはクランドールを気遣いながら報告を促した。
「実は半年前のソルタス暗殺事件の際に、レガルディア国内の主要都市とアルカザーマ連合に同様の事件がなかったか…問い合わせをしていたのです。あの事件は何分にも奇怪な事件でしたから。国内の主要都市からはすぐに返答が返ってきました。そのような事件はありませんでした」
さすがはクランドール。押さえるべき点はきっちりと押さえているな。
「一方でアルカザーマ連合からの返答はありませんでした。その後の経緯はユリーシャ様もご存知の通りだと思います。ですから、我々もアルカザーマからの返答に特に関心を持っておらず、改めて問い合わせをすることもしませんでした」
さすがはアルカザーマ。期待を裏切らないポンコツぶりですね。
「しかし、ファゼル暗殺事件が発生し、再びアルカザーマ連合に対して問い合わせを行ったところ、つい今しがた返答があったのです」
この件にはユリーシャが関わっている。だから、クランドールもかなり強くアルカザーマに迫ったのだろう…。
「それによりますと同様の事件は約4年前から1年に渡って、アルカザーマ地方のあちこちで発生していたとのことです」
どうやら随分と派手にやっていたようだ。だからこそ、伝えたくなかったのかもしれんね。
「狙われたのは景気のいい商会ばかりですね。あのような手口だっただけに捜査は難航しましたが、どうやら一味のゴロツキの中にアルカザーマの魔法戦士に通じている者がいたそうです」
誰かがゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえたような気がした。やっと…見えてきたぞ!
「手口に関してはやはり赤いクモを使ったものでした。一味は自らを死を撒く盗賊団と名乗っていたようです。首領の名はウルマリス。剣の腕が立ち、豪放磊落な性格で不思議なカリスマ性を持つ男のようです」
盗賊団のボスにしておくのが勿体ない男だな。
「それから、この男の腹心の部下ツザナにも注意が必要です。常に冷静沈着さを失わない狡猾な老人で、若かりし頃からスリの名人としても悪名高い男だそうです」
くそっ、やられた…あの時、真っ先にファゼルを助けようとしたあの老人。アイツがツザナだった可能性はかなり高いぞ。アマユキも同じことに思い至ったのだろう…苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
「アルカザーマの魔法戦士は内通していたゴロツキの手引きで盗賊団のアジトを急襲しましたが、紙一重の差でヤツらはアジトを引き払っていたようで…急襲は失敗に終わりました」
おそらく内通者が姿を消したことを不審に思ったのだろう…つくづく頭が切れるヤツらだぜ。
「それ以降、死を撒く盗賊団による犯行は確認されておりません」
完全に行方をくらましたって訳か…そして、ほとぼりが冷めるのを待って半年前に動いたんだろうな。
「私からは以上です。申し訳ありませんが、他にも仕事がありますので…失礼いたします」
クランドールはユリーシャに一礼し、ユリーシャもこくりと頷いた。それから踵を返して、クランドールはリビングを後にした。
アインラスクの魔法戦士で一番偉いクランドールが使い走りをするというのはどうかと思うが…それはともかく。ようやく掴んだぞ!首謀者の尻尾を。死を撒く盗賊団、そしてウルマリスとツザナ。ツザナにはファゼル殺害現場で一杯食わされたかもしれないからな…絶対に逃がしはしないぜ!俺は義理堅いんでね。




