エステルマギの埋蔵金
「ショウって…馬鹿だけど頭がいいよね」
コリーナさんとの面会を終えて外に出ると、実に矛盾していることをアマユキに言われてしまった。何だ?その謎評価は。
「お前の言っていることは訳が分からんぞ」
「褒めてるんだけどな~」
しっかりとクレームをつけてやるが、アマユキにはクスクスと笑われながら褒められてしまった。
「…ほら、行くぞ」
「照れなくてもいいのに~」
お互いに分かっていた。あの女が関わっている以上、この件は引くことなんてできない。俺達の手で解決するしかないんだ…その先にあの女がいるかもしれないのだから。
コリーナさんから聞いた話は、カフェで楽しくできるような話ではない。だから、俺達は一旦拠点にしている民家へ戻ることにした。フェリシアさんが淹れてくれた紅茶とマフィンでほっと一息つくと、アマユキがコリーナさんから得られた情報を、包み隠さず話した。
「まさか…あの女が関わっているとはな」
カレンは渋い表情だ。
「目的が一緒なら…協力できないでしょうか?」
ユリーシャがおずおずと提案するが、それには乗れない。
「どこにいるかも分からんヤツなんて、当てにできるかよ。俺達は俺達だけでやる」
そこは強く主張したい。コリーナさんに宣言した手前もあるが、何か…上手く言えないけど、何かがおかしいと感じるのだ。とにかく、あの女と一緒にやるってのはナシだ。
「残りの2人の居場所が分かればいいんですけどねぇ…」
うん?今…なんて言った?フェリシアさん。
「何であと2人なの?」
誰もが疑問に思ったことを、アマユキが聞いた。
「何でって…これはエステルマギの埋蔵金が関わる事件ですよ。だから、お守りを持っている人はあと2人です」
いやいやいや、ちょっと待ってくれ!その…エステルマギの埋蔵金?何それ?
「何でそんな大事なことを言わないの!」
「だって聞かなかったじゃん」
肝心なところで、アマユキとフェリシアさんの低レベル極まりない言い争いが勃発してしまった。
「ずっとアッチの世界に行ってたでしょ!聞ける訳ないじゃない」
「い、行ってないからね!私、ちゃんとここに居たもん」
これはこれで面白いのだが、それは今やるべきことではない。
「そーこーまーでー!」
それが分かっているカレンが、二人の間に割って入った。
「言い争いをしている場合ではないだろう。それで…その、エステルマギのナントカというのは何なんだ?」
カレンさん、そのナントカは致命的ですよ。
「ま・い・ぞ・う・き・ん!」
案の定、フェリシアさんに厳しく訂正された。
「そ、そうだ…エステルマギの埋蔵金。それはいったい何なのだ?」
あのカレンがたじろいでいる!フェリシアさん、恐るべしだな…。
「それではお話しましょう…心して聞いてくださいね。ザカリヤさんがアインラスクの市長を勤めていた時、様々な人から支援を受けていたことは知ってますよね?」
フェリシアさんが得意気にザカリヤ話を始めた。
それは賄賂ですよ…それを聞いたユリーシャは、そう言いたげだった。それは賄賂だろう…カレンは間違いなくそう思っているはずだ。それって賄賂だよね?アマユキは呆れているはずだ。それは賄賂でし!ティアリスは無邪気に突っ込みたいはずだ。その気持ちはよく分かる…俺も言ってやりたい。でも、誰も何も言わなかった。
「その額は総額で5兆リガとも云われていますが、その行方は未だに分かっていません。しかし、幾つかの仮説があるのです」
それは初耳だな…。
「その内の一つがエステルマギの埋蔵金です。ある年の年末に、ザカリヤさんはキアラマリアさんから自作のお守りを手渡されました。それは無病息災を願ったもので、キアラマリアさんの手作りだったそうです」
キアラマリアさん、なかなか可愛い一面があるんですね。
「ザカリヤさんには子供が4人いましたから、手渡されたお守りも4つ。それを新年を迎えた際のプレゼントと一緒に、子供達に贈ったそうですよ」
つまりお年玉と一緒にお守りをあげたってことだろう。
「ザカリヤさんがこの世を去り、そのお金のことも含めて誰もが興味を失った頃に、ある噂が広まります。ザカリヤさんの4人の子供達が持つ4つのお守りにお金の在処が示されている、というものです」
ここでもあの女は災いを振り撒いたって訳か…。
「とは言え、ザカリヤさんが亡くなってから既に100年以上が過ぎていました。だから、子孫の行方は杳として知れませんでした。それに、過去にレガルディア軍が大規模な捜索をしても見つからなかったぐらいですから…その噂を信じる人はそれほど多くはなかったようですね」
エステルマギの埋蔵金の話は、都市伝説の類とみていいだろう。どうりでフェリシアさん以外は誰も知らないはずだぜ。
「お守りを持っている人はあと2人。でも、狙われる人はあと1人かもしれないでしね!」
その通りだ…その可能性は十分にある。だが、ユリーシャは小首を傾げている。どうも分かっていないようだ。
「この事件の首謀者がお守りの持ち主ってこともあり得るんだよ」
あの老人か…もしくはその仲間がそうなのかもしれないな。
「そんな…」
残酷な可能性に、ユリーシャはショックを隠しきれない。
その気持ちはよく分かる…ルアンザラーン商連合のように、たとえ血の繋がりは遠くなってもエステルマギに連なる者が苦労しているのであれば助けようとしている人がいる一方で、己の私利私欲のためならば殺してでもお守りを奪おうとするヤツがいるってことだからな。
これ以上、好きにやらせる訳にはいかない。何としても、見つけてやるぜ…お守りの持ち主を!
 




