フェリシアさんさぁ…
十分過ぎるほどの収穫を手に、俺達はひとまず拠点にしている民家へ戻った。カレンが淹れてくれた紅茶で一息つくと、ユリーシャがナターリアさんから聞いたことを改めて話した。
「ま、まさか…ルアンザラーン家の方々が、ザカリヤさんの…し、子孫だったなんて…」
いつもは穏やかなフェリシアさんが激しく興奮している。はぁはぁと息遣いも荒い。大丈夫か?
そんなフェリシアさんにアマユキが冷ややかな視線を向けている。その気持ちはよく分かります…。
「どうやらネックレスはブラフで、本命はお守りだったようだな」
そんなことは気にも留めず、カレンが話を切り出した。この処世術、見習うべきところがあるね。
「たいして価値のないネックレスをあえて盗むことで、ルアンザラーン商連合に事件の幕引きを急がせることも狙ったんだろう。仮にザカリヤ・エステルマギとの繋がりがなかったとしても、5万リガ程度の被害額でアインラスクの魔法戦士にあれこれ調べられると悪い噂が立つかもしれないしな」
大事なことなので、そこは補足しておくぜ。
「商売人の心理をよく分かっているでしねぇ…」
感心するところではないのだが、ティアリスの言い分はよく分かる。
「ソルタスとファゼルは親戚なのよね?ってことはファゼルもお守りを盗まれているのかもしれないわ」
アマユキの見立ては…おそらく正しいだろう。それを確かめるためにもファゼルの奥さんに話を聞きたいところだ。
「つまり…ファゼルさんもザカリヤさんの…し、子孫…」
フェリシアさんは顔を赤らめている…何を想像しているんですか?
ルアンザラーン商連合を訪ね、色々な話を聞けた。確かに進展はあった。お守りが何か重要な意味を持っていることは間違いない。だが、その意味は何なのか?そこはまったく分からない。もちろん…この事件の首謀者も。
再びアインラスク市内を歩き回ることも考えたが、それで何か突破口が得られるかというと…ないだろうな。それにここはゲオルクとの合流を考えた方がいい。あの男は突っ走るタイプだから、俺達はここにいた方がいいはずだ。
昨日と同じようにリビングで思い思いに寛ぐことになったが、今日は朝から歩き回っていたからさすがに疲れたな…筋トレはなしにしよう。
オルゴールが奏でる、どこか懐かしい感じがする優しい演奏に身を委ねていると、眠くなってくるね。でも、誰も寝ていないのに俺だけ寝落ちするのはまずいだろう…。
フェリシアさんのようにサボテンに話しかけてみるか?変な目で見られそうだけど…とは言え、ドルイドのフェリシアさんがサボテンに話し掛けるのは、見方を変えればそんなに妙ちくりんなことではないのかもしれない。
とすると、俺は魔法戦士だから魔剣に話し掛けるといいのかな…。そんなどうでもいいことを考えながら眠気に耐えていると、今日もコン、コン…という真鍮のドアノッカーを頼りなさそうに鳴らす音が響いた。
待ちかねたぞ、ゲオルク!などと心の中で叫びつつ、俺は女子達を唖然とさせる全力ダッシュを決め、ドアを蹴破るように開けた。案の定、そこにはゲオルクがいた。さすがにビックリしている…すまんね。
「ざ、残念ながら…何も成果は、ありませんでした…」
やはり開口一番、ゲオルクは用件を話そうとする。でも、それは俺も分かっているからね。
「まあ、中に入れよ。話はそれからでいいからさ」
俺はゲオルクを引き連れ、意気揚々とリビングへ戻った。俺の奇抜な行動を見た後とあって、女子達は惻隠之心を持って暖かく迎え入れてくれた。
広くてシンプルなリビングは、居心地がいいですね。カレンが持ってきてくれた紅茶とカヌレを楽しみつつ、ゲオルクから今日の報告を聞くことにしよう。
「き、今日は…アインラスクのあちこちを歩き回りましたが、と、特に何もありませんでした」
わざわざ言い方を変えなくてもいいのに。
「ファゼルの…葬式というか…それはどうなっているんだ?」
奥さんに話を聞くとすれば、その後になる。段取りは気になるところだ。
「こ、今晩、前夜の祈りが行われます」
たぶん…通夜のようなものだろう。
「そ、葬儀式は、明日になります。こ、今回はクランドールさんが参列します」
この件は軍の魔法戦士が捜査している。それもあってクランドールが参列するんだろう。葬式が明日ということになると、ファゼルの奥さんに話を聞けるのは明後日になりそうだ。
ゲオルクには明日以降も引き続きアインラスクの巡回を頼んで送り出した。もちろん、今日はもう帰ってしっかり休むように言い聞かせることも忘れてはならない。クランドールも苦労しているのかもしれないな…。




