深まる謎
決意を新たにしたものの、今の段階でできることは何もない。ひたすら待つだけである。暇ですね…なので、みんなリビングで思い思いに寛いでいる。
ユリーシャはオルゴールで音楽をかけながら手紙に目を通している。難しそうな顔をしているところを見るに、内容を聞いては駄目なヤツだ。カレンは読書をしている。こちらは可愛い服のカタログのようだ。微笑ましいですな。
アマユキは真剣な眼差しで矢の検分をしている。ある種の凄みを感じるね…。フェリシアさんはサボテンに話しかけている。何というか…別世界の住人としか思えません。
そして、俺は筋トレをしている。と言っても、器具の類はないので自重トレーニングだ。ノーマルプッシュアップやプランクレッグレイズなどを黙々とこなしていく。
オルゴールが奏でる音、フェリシアさんの幸せそうな話し声、そして俺が動く音。決して静かな訳ではないが、それでも静かな時間が過ぎていく。そこに割り込むように、真鍮のドアノッカーを頼りなさそうに鳴らす音が響いた。
コン、コン…
その音を聞いた俺は、この民家のドアノッカーには訪れた人に合わせて音が変わる機能でもあるのだろうか…などと考えてしまう。もちろん、そんな機能はない。思った通り、やってきたのはゲオルクだった。
「あ、あの男が誰なのかが分かりました…」
開口一番、ゲオルクは用件を話そうとする。だが、さすがにこんな所でそれはまずいだろう。
「と、とりあえず…中に入れよ。話はそれからでいいからさ」
ついうっかりゲオルクの話し方につられてしまった。決して真似をした訳ではない。気を悪くしなければいいが…罪悪感を感じつつ、俺はゲオルクを引き連れてリビングへ戻った。
広くてシンプルなリビングは居心地がいいね。ゲオルクを椅子に座らせると、程なくしてフェリシアさんが紅茶とマドレーヌを持ってきてくれた。俺とアマユキがゲオルクの前に座り、ユリーシャとカレンは少し離れた所から俺達を見守っている。フェリシアさんはキッチンだ。少し落ち着いてだな…それでは聞こうか、あの男のことを。
「な、亡くなった男は大工の棟梁のファゼルという男です」
大工の棟梁か…これは予想の範囲内だ。こう言ってはなんだが、ファゼルの身なりはありきたりだったからな。
「何か…人に恨まれるようなことはあった?」
「あ、ありません。温厚な人柄で、近所付き合いも…とても良かったそうです」
アマユキが怨恨の線を確認するが、どうやらこれはないようだ。
「それなら、女性関係のトラブルはどうだ?」
痴情のもつれも殺人の動機としてはよくある。
「お、奥さんとの仲はよかったそうです。一途な人だった…という話もあります」
これもなしか…。
「じゃあさ、付き合いで結構遊んでたってことはない?」
確かに…付き合いがよければ、遊びに行くことも多いだろう。それで首が回らなくなったってことはあり得る。
「お、お小遣いの範囲で…遊んでいたみたいです」
ファゼルは堅実な人だったようだ。それでもトラブルの芽がない訳じゃあない。
「趣味で何か珍しい物を集めたりしてないか?」
希少な物を集めていれば、その関係でトラブルがあったのかもしれない。
「そ、そういうものを集めている趣味は…ないです」
そうですか。何と言うか…お手上げだね。
「参ったわねぇ…」
アマユキも困り顔である。ここで成り行きをじっと見守っていたユリーシャが、疑問を呈した。
「ソルタスとファゼルの間には、何も関係はありませんでしたか?」
ルアンザラーン商連合の前当主と大工の棟梁の間の関係か…普通に考えたらそんなものはない。
「あ、ありました…」
あるんですか!意外な関係に、誰もがゲオルクに注目した。
「い、1年程前に…ソルタスは館の改修工事をしています。そ、その工事を請け負ったのが…ファゼルでした」
微妙な空気が流れてしまう。確かに関係はあるが…。
「も、申し訳ありません…」
自分でもたいした情報を取れていないのが分かっているのだろう…ゲオルクが謝罪した。
「謝る必要なんてないさ…それに分かったこともあるからな」
「例えば?」
アマユキが面白そうに聞いてきた。
「この事件はよく分からんってことが分かったんだ。それだけで十分さ」
ややもすると自棄になったような俺の一言に、みんな呆れたように笑っている。そうだ、それでいいんだ。後ろ向きになる必要なんかないんだからな!
ゲオルクには、今日はもう帰ってしっかり休むように言い聞かせて送り出した。そうでも言わなければ、あの男は夜中まで駆けずり回るだろう…仕事熱心なのは良いことだが、休む時はちゃんと休まないと身が持たないぞ。




