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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第2章 エステルマギの埋蔵金

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赤いクモ

詰所で行われた検分で、すぐに分かったことがある。首筋に穿たれた動物に噛まれたような傷跡だ。あの老人からは死角になっていたので、気が付かなかったのだろう。何にせよ発作じゃないことは確定だ。


でも、あの場に動物なんかいたか?まったく気が付かなかったな。アマユキもそんな気配を感じなかったそうだ。どうなってるんだ?


男の容体が急変する様は、不可視の錫杖を通じて魔剣にも記録されている。だが、肝心な部分はここでも死角になっていて、よく分からない。もう少し上手くやれたかもしれないな…後の祭だけど。


とは言え、傷跡から見るに、何かに噛まれたことは間違いない。しかし、それ以外に分かったことは何もなかった。そもそも、この男はどこの誰なんだ?


元の世界では、車の免許証など自分自身を証明するものを持っていることは珍しいことではない。だが、この世界ではそんなものを持っている方が珍しいようだ。色々と不便だね…。


検分が一通り終わったところで、俺達の素性をカレンが明かした。四位武官は飛び上がる程にビックリしてしまった。こればかりは仕方がない。


「に、似ている人だとは思っていたのですが…しょ、少々お待ちください!」

四位武官はそう言い残すなり、詰所を飛び出して行った。一人残された見習いのお姉さんは、直立不動である。


「そんなに気を使わなくてもいいのですよ?」

「い、いえ…」

ユリーシャは肩の力を抜くように促すが、お姉さんはまったく姿勢を崩さない。これもまあ仕方がない。


思いがけず生じた事態だけでなく、その場にユリーシャ・リム・レガルディアがいるなんて…あの男もこのお姉さんもついてないよな。そこは同情するぜ…。


飛び出して行った四位武官は、なかなか帰ってこない。そうこうしているうちに、聞き込みをしていた見習い4人衆が帰ってきた。俺達と共に残っていたお姉さんから経緯を聞き…みなさん、直立不動になってしまった。そりゃそうなるわな。


「何か情報は得られましたか?」

とは言え、帰ってきたからにはアマユキが成果の有無をきっちりと確認する。こちらは長い付き合いなので、ユリーシャの前でもまったく動じない。


「亡くなった男性の背中を真っ赤なクモが這っているのを見かけた者がおりました。ですが、該当するクモは現場にはいませんでした」

クモか…では、あの傷跡はクモが噛んだものってことか?


「赤いクモ…ですか?」

「は、はい!」

ユリーシャに再確認され、見習いの声が上擦る。


「何か気になることでも?」

今度はカレンがユリーシャに尋ねる。


「そうですね…」

ユリーシャは頷いたものの、それ以上のことは話さなかった。ここでは話せないということか…。


かれこれ30分ほど経っただろうか…四位武官が市長のスクレイアさんと一緒に帰ってきた。スクレイアさん、暇なのか?


「まさかこのアインラスクでこのようなことに巻き込まれるとは…」

暇疑惑はさておき、さすがのスクレイアさんも困惑気味である。


「お気になさらずに。それよりもお話ししたいことがあります」

「分かっております…ですが、場所は変えましょう。外に馬車を用意しております」

ほんわかなスクレイアさんだが、仕事はできるようだ。そうでなければ、市長に任命されたりしないか…。


2台の馬車に分乗して向かった先は、見るからに頑丈な城壁に囲まれた砦だった。アインラスクの始まりとなったチーフズクレア砦である。この砦は、今でもこの地に展開するレガルディア軍の重要施設の一つだ。


馬車を降りると、砦に配属されている魔法戦士が最敬礼で出迎えてくれた。当たり前のように奥の部屋へ通されると、そこには一人の魔法戦士が待っていた。アインラスクの魔法戦士達を束ねる団長であるクランドールである。一通りの挨拶やら何やかやを済ませた後、ユリーシャが切り出した。


「今回の一件、私達に任せてもらえないでしょうか?」

いやいや、何言ってんだよ?さすがにそれはどうかと思うぜ…。


「それは…アインラスクの魔法戦士では力不足ということですかな?」

クランドールは相手がユリーシャなので弁えているが、それでも弱冠の不快感を隠し切れない。その態度を不遜と受け取ったのか…カレンはまったく不快感を隠さない。お前ら、仲良くしろよ…。


「カレン、失礼ですよ…部下の非礼をお詫びいたします」

「申し訳ありません…」

ユリーシャが僅かに頭を下げ、カレンも右へ倣って頭を下げた。


カレンのヤツめ、策士だな。あえてユリーシャに謝罪をさせることで、この交渉を有利に運ぶつもりだ。ユリーシャもその意図を汲んでいるのだろう…何にせよ、クランドールは断り難い状況に追い込まれてしまった。だが、その手は最適手なのか?


「いえ…私もこの一件をお任せすることに反対している訳ではありません」

そう言わざるを得ないよな…それでもクランドールは渋い表情だ。


「まあまあ…アインラスクの魔法戦士であろうとライラリッジの魔法戦士であろうと、魔法戦士に求められることは治安を守ることです。お互いに協力してくれませんか?」

スクレイアさんが双方に歩み寄ることを促した。ほんわかしているが、アインラスクを任されるだけのことはあるね。


「もちろんです。それに必要なことをお話しないつもりもございません」

必要なこと…それはユリーシャがわざわざ首を突っ込んだ理由だ。そいつは俺も知りたいね。みんなの視線がユリーシャに集まった。


「亡くなられた男性には首に咬創がありました。現場で得られた赤いクモの目撃情報を含めて考えますと、おそらくセアカゴケグモでしょう」

セアカゴケグモか…確か元の世界では特定外来生物だったな。やっかいなクモであることはこの世界でも変わらないようだ。


「セアカ…?」

どうもクランドールは初耳のようだ。意外だな…レガルディアではそれほど被害はないのかもしれない。


「セアカゴケグモです。このクモは毒グモなのですが、たとえ咬まれても重症化することはそれほど多くありません。ですが、今回は咬まれて間もなく亡くなっているように思われます」

一同に緊張感が走る。


「小さなクモなので見失うことは多いのですが、私はそこに作為を感じています」

アマユキにクモの気配を見抜けるのかどうかは分からないが、少なくともユリーシャはそこに違和感を抱いているようだ。


ユリーシャの簡潔な説明が終わると、部屋に沈黙が降りた。毒グモの件は確かに気になるが…クランドールはどう判断するのか?


「…分かりました。この件はユリーシャ様にお任せいたします。必要なことがあれば、このゲオルクに申し付けてください」

ゲオルクというのは、少し頼りない感じのあの四位武官のことだ。俺達以外で最も近くにいた魔法戦士なので、この人選は妥当なところだろう。


「ゲオルク…頑張るのですよ」

スクレイアさんがゲオルクを激励する。肩の力を抜いていこうぜ!


「は、はい。頑張ります…」

やはり硬いね…ところで、スクレイアさんとゲオルクってどういう関係なんだ?自然と俺達の視線がスクレイアさんに向かう。


「愚息ですが、よろしくお願いします」

スクレイアさんが深々と頭を下げた。親子だったのか…そう言えばどことなく似てるね。ややもすれば硬かったこの場の雰囲気が、少しばかり柔らかくなった。

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