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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第2章 エステルマギの埋蔵金

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アインラスク

2月を迎えてもそんな日々が続くのだろう…そう思っていたら、意外な話が舞い込んできた。


「1週間後にユリーシャ様がアインラスクを訪問することになったから…準備しといてね」

いつもの『ラナンエルシェル』での夕食時に、リアルナさんがそんな話をしてきたのだ。


「アインラスク?」

俺は思わず聞き返してしまった。急にそんなことを言われたら、聞き返したくもなるもんだ。


「そう、アインラスクよ。あなた、地方の都市を訪問する際には同行するって言ったでしょ?」

そういえばそんなことを言ったね…もちろん、ちゃんと覚えている。でも、アインラスクって目と鼻の先だからなぁ…。


「俺以外には?」

「カレンとアマユキ、それからフェリシアよ」

同行者に不足はないな。気心の知れた仲というのも悪くない。


「向こうにはどれくらいいるんだ?」

「今回はアインラスクだから、日帰りになるわね…」

なぜかリアルナさんは残念そうだ…いや、いつも通りと言うべきか?もちろん、気にしてはいけない。


「日帰りか…」

となると、観光もあまりできそうにないね。


「あまり気が進みませんか?」

「そういう訳じゃないよ」

俺があまり乗り気じゃないからか…少し表情が曇っているユリーシャに、取り繕うような返事をしてしまった。これは悪手だ。


「アインラスクはライラリッジと同じく、綿密な計画のもとに生まれた港湾都市なのです。もともと、この地は干潟で…」

どうやらスイッチが入ってしまったようだ。こうなるとユリーシャの話は長くなる。


本を正せば俺のミスだからな…遮る訳にもいかないし、事前に予習ができることは悪くない。ここはじっくりと話を聞くことにしよう。


ユリーシャ先生のありがたい講義によると、もともとアインラスクは小さな漁村だったそうだ。それをこの地にやって来たレガルディアの魔法使い達が城塞都市へと発展させた。


「大陸へ睨みをきかせるためか?」

「そうですね。当時は海の向こうのことはよく分かっていませんでしたから…かなり警戒していたようです」

この頃は人や物の行き来がそんなに活発ではなく、アインラスクは戦略上の要衝という意味合いが強かったようだ。


「それが今のような港湾都市に発展するきっかけとなったのが、魔法都市として生まれ変わったライラリッジの存在でした」

当時のライラリッジには今と違って空き地がたくさんあった。だから、この地で一旗揚げようという人達が、次から次へとやってきた。至るところで新たな家屋が建ち、街は活況を呈していた。


「この時代はアツいな!」

「ですよねっ!でも、いいことばかりという訳ではなかったのですよ。急激な人口の増加に伴い、食料価格はじりじりと高くなっていったのです…」

よくあることと言えばそれまでだが、放ってはおけないものだ。


もちろん、レガルディアも手をこまねいていた訳ではない。食料増産のために、ライラリッジの周辺は今のような穀倉地帯と牧場に変貌した。ライール川を利用した水運も発展していった。それに伴い、アインラスクの役割は様々な物の集積地へと変化していった。


「しかし、アインラスクの周辺は遠浅の海が続くので、船の航行や停泊には不向きだったのです…」

だからといって、レガルディアは諦めたりしない。


そこで行われたのが大規模な干拓だ。まず、干潮の時に干潟に杭を打ち、杭と杭の間に板を張り付けていく。張り付ける板は外側と内側の2枚だ。板と板の間に石や土砂を詰めたら仮堤防の完成だ。この仮堤防の出来に問題がなければ、水門から海水を排水して…これで干拓地の出来上がりである。


ここまでは普通だ。たぶん、元の世界でも同じような感じて干拓地を造っているはずである。そして、ここからは魔法の世界ならではだ。


「干拓地の地盤はあまり強くありません。そこで、先の尖った円筒形の石柱が使われました。この石柱は円筒の面に沿って螺旋状の溝が設けられています。これで柔らかい土を貫き、その下にある硬い地盤まで打ち込み、埋め立て地の基礎としたのです」

基礎は大事だ。これなら大丈夫だろう。


「でっかいネジを地面に突き刺した…ってことか?」

「そうですね。そのように考えてもらってもいいと思います」

ネジと言っても石柱なので、直径は50cm、長さは5mという特大サイズのネジである。


それでも、この長さでは硬い地盤まで届かない。そこで最初の石柱をほぼ打ち込んだら2本目の石柱を繋ぎ合わせ、さらに深い所まで打ち込んでいった。石と石を完全に繋ぎ合わせるというのは、レガルディアならではだね。


このネジを打ち込むドライバーも独特である。てこの原理を利用して軸を回転させる…そこはもちろん同じなのだが、ドライバーというよりはレンチのような工具を使っていたようだ。


最初はレンチ1本で回していたが、途中で2本のレンチを直角にクロスさせて回した方が効率的だということに気が付き、そこからは2本でスピードアップだ。


「このレンチも特大サイズなんだろ?そんなもの、どうやって回したんだ?」

「まず、浮遊の魔法でレンチを浮かせ、石柱にきっちりと嵌めます。それから不可視の盾を足場として使い、ゴーレムがレンチを回していたようですね」

さすがは魔法の王国。やることが凄いね。


「ってことは…ゴーレムが空中を歩いていたのか?」

「そうです。珍しい光景だったので、見物客が絶えなかったそうですよ」

珍しいと言うか…シュールだな。そんなシュールな光景が何度も繰り返され、干拓地の地盤は強固なものへと生まれ変わっていった。たいしたもんだね。


「基礎が出来上がれば、次は岸壁と埋め立てです。岸壁にはまず、岩のような大きな石を並べました。そして、その隙間を小さな石で程よく埋め、最後に赤土、砂利、消石灰、それからにがりを混ぜて練ったもので塗り固めて、隙間を完全に塞ぎました」

ここにはレガルディアの思想を感じるな。魔法は万能ではなく、ほんの少し生活を便利にしてくれるものってヤツだ。


「岸壁の高さに合わせて埋め立ても進めていきました。岸壁と埋め立てが十分な高さまで達すると完成ですね。このような埋め立て地を干潮時でも十分な水位になる沖合いまで造成しました。これによりアインラスクには様々な物が集まってくるようになったのです」

たいしたもんだぜ。これには感服せざるを得ない。


「どこにでもある城塞都市から、ここにしかない港湾都市へと生まれ変わったんだな」

「そうですね。アインラスクのような街は他にはないと思いますよ」

そう言われると俄然行ってみたくなるな!


「よしっ、善は急げだ!明日にでも行ってみよう」

「えっ?えっと…」

俺の無茶ぶりに、さすがのユリーシャも戸惑っている。


「1週間後よ。早すぎる人ってどうかと思うわ」

俺達の会話を微笑ましく見守っていたリアルナさんが、実にリアルナさんらしい一言でこの場を丸く収めるのであった。

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