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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第1章 魔剣の使い手

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死地の中の晴れ姿

「私を死地に追いやっておいて、その晴れ姿を見にこないつもりではないだろうな?」

収穫祭2日目の朝、俺はいつものように身支度を整え、『たけのこ日和』で朝食をとろうと部屋を出た。するとそこにはカレンがいて、ビリビリとした殺気を放ちながら凄まれてしまった。


「も、もちろん見に行くつもりだったさ!」

親の仇のように睨み付けてくるカレンを前に、俺は咄嗟にそう答えてしまった…そう答えざるを得なかった。


「そうか…では待っているぞ」

言質を取ったカレンは、満足げな笑みを浮かべながら去っていった。


これ以上ないほどのカレンの迫力に圧倒されてしまったが…冷静に考えると、死地で晴れ姿っておかしくないか?ティアリスだってそんなトンチンカンなことは言わないぞ?それでも、だ。


「忘れ物の正体、見つけたりだな…」

去り行くカレンを見送りながら、俺は思わず呟いてしまった。昨晩からずっと引っ掛かっていたのだ。その答えがやっと見つかった。それにしても、迫力ありすぎだろ…。


そうは言っても、メイドかふぇの開店は10時だ。それまでは好きにさせてもらっても構わないだろう。時間までは白の部屋でトレーニングをして、それから出発することにした。


メイドかふぇは、中央公園に幾つかある小さな館の一つを改装して開かれている。実は昨日もここには来ているのだ。別に入ってもよかったのだが、事前のデートプランで外されていたので入らなかった。


警護が難しくなりそうな状況が想定されるから、なんたらかんたら…そういう取って付けたような理由で外されていたが、たぶん出禁を食らった変態女と、問題ばかり起こすアホ女がいるからだろう。


「いらっしゃいませ。早かったな」

中に入ると、とてもクールな接客態度でカレンが応対してくれた。いかにもカレンらしいね。開店直後だったので、女性客が数人いる程度でそんなに混んではいない。


「忙しくなるだろうと思って、早めに来たんだ」

これでも相当ましになっているのだが、他のメイドさんがスマイル0円なのと比べるとさすがにね。この分だとカレン目当てで来る客なんていないだろうな…。


「ほう、ショウにしては勘がいいな」

なに言ってんだか。


「このケーキセットで。飲み物はレモンティー」

「分かった」

まあ、このカレンクオリティが癖になるヤツがいるかもしれない。そんな風変わりなヤツがいれば、カレンも売上には貢献できるだろう。しばらくして、カレンがケーキセットを2つ持ってきた。


「一緒に食べようと思って」

「いいのか?」

1人で食べるのは味気ないが、お客さんが増えてきているぞ?


「まだ、大丈夫だ」

「そうか…」

このメイドかふぇのことはカレンの方が詳しい。そのカレンに大丈夫だと言われれば、それ以上は何も言えない。


ヒソヒソ…


なんだ?周りの人達が小声で話し合っているぞ…気になるな。冴えわたる感覚を使ってみるが、はっきりとしない。しかし、困った時に頼りになるのが魔剣だ。聞き取りづらかった音を増幅し、解析してくれた。さすがですね。さて、気になるヒソヒソ話の内容は…。


『アイツ、カレン様のなに?』

『私のカレン様と一緒にケーキを食べるなんて…許せないっ!』

『殺す……殺す殺す殺す。あの野郎の手足を縛って…』

これ、ヤバくないですか?


そういえばカレンは年下女子からの人気が高かったんだよな…お客さんにやたらと女子が多いのはこのせいか!この状況はマズいですよ…下手を打ったらカレン命の女子達からえらい目に遭わされる!なんとか穏便に済まさなければ…。だが、ここでカレンがとんでもない行動に打って出た。


「ショウ、食べさせてやろう。あーんだ」

カレンのこの応対に、店内に衝撃が走った。


ざけんな、この馬鹿女!嫉妬の炎で燃え上がっている女子達に、わざわざガソリンをぶちまけてどうする!!


「ひ、人前でそういうのはどうかと思うぜ?」

奥ゆかしい日本人は、おおっぴらにそんなことをしないのだ!


「気にするな。私達は恋人同士のようなものだ。ほら、あーん」

カレンの口から飛び出した『恋人同士』という単語に、女子達が無音の悲鳴を上げる!眼前に迫って来るフォーク…ええい、ままよ!!


ぱくり。食べた…食べてしまった。どうなるの?俺。


恐る恐る周囲を見回すと…女子達は完全に固まっていた。目の前で繰り広げられた光景があまりにも衝撃的だったのだろう…可哀相に。


だが、ヤツらはすぐに復活してくるぞ!危機はまだ去ってはいない…こうなったら立ち直れないぐらいの精神的ダメージを与えて、ここからいぬるしかねぇ!!


「こ、今度は俺が食べさせてやろう」

そう言いながらフォークでケーキを取り分け、それをカレンに近付ける。いつものように上品に食べてくれるカレン。続けざまにショッキングな光景を目撃し、店内にかすかな絶叫が響き渡る。昇天した子もいる…。


ここはもはや戦場だ。ならば鬼になれ…鬼になるんだ、ショウ!そうでなければここで命を落とすことになるぞ!!追い討ちをかけるように俺達はお互いにケーキを食べさせ合い、更にオレンジジュースを注文して2人仲良く恋人飲みをした。


「そ、そろそろ帰るよ」

俺は…生き残った。生き残ったんだ!


「ふむ…そうだな。来てくれてありがとう。おかげで助かった」

カレンもあの子達の扱いには、多少苦労していたようだ…。


「アレは…いいのか?」

「直に正気に戻るだろう…」

まだ立ち直れない女の子達に同情しつつ、俺はかふぇを出ると足早に邸宅へ戻った。


まさか、かふぇでケーキを食べるという行為がこんなにも危険だとは思わなかったぜ…やはり異世界は伊達じゃないな。今日はもう外出しない方がいいだろう。もちろん、明日から大丈夫という保障はないが…因果応報ってヤツだ。これはもう仕方がない。


となると、少し早いが通常運転に戻ってもいいだろう。昨日と今日で収穫祭は満喫したからな!この2日間はあまりトレーニングをしていないから、その分を取り戻すためにも今日はみっちりやろう。


と意気込んではみたものの、世は収穫祭の真っ最中である。ユリーシャが気を利かせて、俺のためにあれこれ差し入れをしまくってくれた。


なにせこのユリーシャ邸は中央公園のすぐそばで、その中央公園は今やグルメの祭典と化している。メイドトリオの誰かに買いに行かせているのだろう…美味しそうなものが運ばれてくる度にトレーニングを中断して、ちょっとしたお食事会だ。


それだけではない。アンベルク通りに設置されていた魔法の世界のスピーカーは、ユリーシャの部屋にも設置されている。ライラリッジ・コンサートホールで演奏が始まるときには必ず呼ばれるのだ。しかも、その演奏時間が…長い!途中に休憩を挟むが、2時間くらいは演奏しているぞ!!


フィレノン管弦楽団による最高の演奏は耳に心地よく、気分が落ち着き、意識が…遠のきそうになるのを気合で繋ぎ止める。素晴らしい演奏にユリーシャは感動して涙ぐみ、俺は欠伸を噛み殺して涙ぐんでいた。しかも、当初のデートプランではこのライラリッジ・コンサートホールでの音楽鑑賞も入っていたそうだ。外してくれて助かったぜ…。


自室で収穫祭を楽しむ。これがユリーシャ流の収穫祭の楽しみ方のようだ。昨日のように変装してお忍びで見て回るという手もあるが、これまでは遠慮してきたのだろう。だったら仕方がない。明日までは…収穫祭が終わるまでは通常運転は諦めて、俺もこのお祭りを満喫するさ。

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